13.コルトン丘陵の戦い11
「帝国軍はコルトン丘陵から完全退却したと?」
「はい…カーマイン公。帝国軍本隊はアイビー城に入城したそうです。そこでバラバラになった兵士達を再集結しているとのこと」
コルトン丘陵の入り口まで一度退いた王国軍は、陣地を構築して情報の収集を始めていた。その情報を総合するために軍議の天幕では、常に指揮官級の者達が集まっている状態である。
カーマイン公に全ての状況が集まるにつれて、今回の戦いの成果と損害が見えて来た。
まず王国側の損害についてだ。
被害は2万6千の歩兵の内、死者2000と重傷含めて戦闘不能が3000程、軽傷だが復帰に時間がかかりそうなものが1000の合わせて6000余りである。これは大きな兵力差があったにしてはかなり損害を抑えられている。カーマイン公の下で防衛戦闘に注力していた為に被害を抑えられたことが大きい。それでも追撃などで着実に被害が増えてしまった形だ。
騎兵は1万2千の内、死者が1800と重傷と戦闘不能が5000近くにまで及んだ。これは馬を失ってしまった兵士の数も含めているので、馬さえ用意できたなら3000程にまで減るだろう。これはヴィアネッロ侯が遅滞戦闘をしていた時の被害が一番大きい。軽傷を負って無い者は居ないので計算はしないが、今回の戦いで王国軍の騎兵はかなりの損害を出してしまった。今すぐに戦闘となった場合参戦できるのは、5000と少し程度になる。これは機動力を生かすオロール王国の戦いとしてはかなり厳しい。
次に帝国の被害であるが、これが意外に少なかった。
まず帝国が失った兵力が、騎兵と歩兵合わせて2万程度である。裏崩れを起こした帝国軍には逃亡兵が大量にいた筈だが、敵指揮官が撤退の為として一切の逃亡を不問としたことから、再び兵士達を集める事が可能になったのだ。
結果として帝国軍を5万5千の兵を3万5千程度まで減らしたが、こちらも兵士を減らして2万7千であるから戦力差は引き続き大きい。帝国軍を完全に追い込んだにも関わらず、戦力差が縮まらなかったのは帝国軍の撤退が上手かったことにあるだろう。ヴィアネッロ侯の追撃を完全に防ぎ切った帝国軍の殿軍が上手だったという話だ。
付け足しておかなければならないのは、我々が起こした火災は、土魔導士と水魔導士の力を合わせて迅速に鎮火されている。魔導士の存在が無ければ、この火災はここら一帯を飲み込む業火となっていたに違いない。
この結果を踏まえて我々が議論していたのはこれからの方針であった。
城攻めするにも我々の方が戦力が少なく不可能と言って良い。これを無視してどこかに攻め寄せるにしても、後方から生き残りの軍が襲ってくるのは間違いない。となれば我々は帝国軍の残りを誘い出さなければならない訳で、その方法を探すところから始まるのであった。
「やはり、こちらも城を落とすしかないか……」
「はい、我々の拠点ともなりますし、帝国も座して見物している訳にもいかないでしょう」
「となれば、どこを攻めるかであるが…」
王国から持ち込んだ帝国の地図と、敵地で入手することが出来た地図を見比べながら意見交換がなされていく。そしてそれを検証するために、様々な方向へ小規模な部隊を送り込み、偵察と物資の調達をさせていた。
この間にも時間は過ぎていく…秋を過ぎ冬に入り、それぞれの軍隊は動きを止めた。
我々王国軍はコーラル城へ引き返すことなく、コルトン丘陵の手前で野営を続けることを選んだ。ここで野営することで、帝国軍が同じようにコルトン丘陵に進出してくるのを防ぎ、アイビー城に3万5千の帝国軍を釘付けにするのが目的であった。
この作戦は功を奏し、帝国軍は冬を迎えて初めての雪が降るまで、動くことが無かった。
正面の敵軍は……
「モーラ公が敗北致しました!!」
この報告を受けたのは、雪が積もり始めたばかりの頃。
「は??」
「帝国皇帝の親征軍です!!その数3万が最北の軍に合流、渡河し、モーラ公が迎え撃ちましたが…勝利する事叶わず……」
軍議の天幕に居る皆の表情が固まったままだ。誰も言葉を発することが出来ずにいる…確かに帝国の皇帝は戦場に出て来ておらず、その配下の兵士は温存されたままであるのは知っていた。だが、帝国の皇帝が即位して以来、一度しか戦場に出てきた記録がない。なので、帝国の皇帝はその本拠地に籠るものだと思い込んでいた。
「して、モーラ公は??帝国軍は?」
「モーラ公は退却の後に城塞に籠っております。帝国軍については南下の気配とのこと」
「……国王陛下の軍が危ない」
カーマイン公とヴィアネッロ侯はしばし天を仰いだ。自分も冷や汗が止まらない…このままではエメリヒ王が危ない……それも自分がいない場面で。
遠くで起きている事に何もできない焦燥感がただ黙って椅子に座る事を許さず、立ち上がり、無意識に近くにある矢筒と矢を掴んでいる。
コルトン丘陵の戦いは一旦決着となったが、直ぐに次の戦いが迫っている事は誰の目からも明らかであった。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




