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11.コルトン丘陵の戦い9


 煙が戦場全体を包み始めた。

 徐々に陽が傾き始めているこの戦場に白い煙が充満し、徐々に視界を狭くし始めている。


 丘の上で炎に囲まれていた帝国歩兵が、唯一炎が回っていないところから脱出を図っている。そして彼らの足元に迫る燃え広がる炎は、その下に埋められている油樽に着火した。

 様子を見る限り丘の上には帝国歩兵が半分程度が残っていただろうか…彼らは遂に全周を炎に囲まれてその姿が消えたのだ。


「フレディ、戻りました」

「よくやった!!最高の働きだ!!撤退の判断も良かった」


 フレディに付けた兵士は全員がどこか怪我をしていたし、フレディ自身もいくらか切り傷を増やしているが、それを気にする素振りは見えない。それに体中の装備が煤で汚れていた。

 彼の背景では丘の周りで高く上がる炎と、高く立ち昇る煙が見えていて、フレディの功績を自慢するかのように見えた。


「リデル・ホワイト伯、乱戦が解かれました」


 続いて報告を受けたのは我々の主戦場であった、騎兵同士の当たり合いについてだ。互いに乱戦を解き、丘を少し登って牽制をかけあっている状況となっている。先程まで激戦の最中だった谷間は、足の踏み場があるのかと疑問に思うほどの、人馬の死体が折り重なっていた。

 王国側にどれだけ犠牲が出たのだろうかと、瞬時に計算する自分は軍指揮官になったのだと同時に、自身の命令で落とした命をただただ数えるような冷たい人間になってしまったのかとも思う。


(ざっと犠牲は700~800か)


 自分が頭の片隅に持っていた良心を直ぐに追い出して、冷静に戦場を見つめる。この場では全て生き残った者達の事を考えなければならない。


「左翼側、ヴィアネッロ侯の状況は?入って来ているか?それとも何か見た者は居るか?」


 周りにいる全員が首を横に振る。


「そうか……なら仕方がない。タイミングを合わせるのは無理だな、こちらはこちらでやろう」


 戦場には濃い煙が満ち始めていた。これは自分達にも影響があるほどで、ただでさえ厳しい戦場の状況把握をより難しくしている。我々は元々動き方を決めていた為に行動することが出来るが、帝国軍にとっては更に厳しい状況だろう。


「正面の帝国騎兵、動き始めました!」

「あぁ、分かった」


 我々王国軍騎兵が動かない事に痺れを切らしたのだろう。彼らは状況が全く分かっていないのだから、先に動いて情報を集めたくなる気持ちもわかる。

 帝国騎兵は我々の追撃を警戒して、最大限迂回するように敵陣の後方方向、我々から見て左へと流れ始めた。撤退を選択するではなく、本陣との合流を目指すようだ。


「ビスキュイ子爵、1500を率いて敵騎兵の動向を監視せよ、こちらに向かってくるようであれば迎撃し、敵が隙を見せたなら追撃をするんだ」

「承知いたしました」


 ビスキュイ子爵は自らの配下とそれに加えていくつかの部隊を率いて離脱していく。彼らは丘の頂上まで登る為に、丘を登り始める。


「さて、我々がすることは……」


 焼け出された丘の上に陣取っていた敵歩兵の殲滅と、カーマイン公を囲う敵兵の排除だ。


「全員聞け!!敵歩兵に向け、突撃を敢行する!!!突撃隊形準備ぃ!!!!」


 自分の号令と共にホルンが鳴り、旗が振られる。これは勿論敵歩兵にも聞こえているが、混乱の最中にいる彼らの大多数は自分達に身構えることが出来ていない。いくらかの敵歩兵がこちらに向かって槍を向け、対騎兵の陣形を取ろうとしているが、規模が小さければ我々にとっては障害ではないのだ。



 周辺の情報を自らの目で集めていると、あっという間に陣形が整う。


「準備完了致しました」

「よし、突撃!!!」


 丘の中腹に横広の陣形で集まった王国騎兵は、ホルンの音と共に煙が少ない谷底に溜まった敵歩兵に対して突撃を始めた。それは馬の色も合わさって、さながら土砂崩れのような光景に見える。

 丘を下る突撃の勢いは、それはそれは速く、強い。その土砂崩れは当たった敵歩兵を粉砕した。一度騎兵の突撃を経験した彼らは、またもやその猛威に晒されている。しかも今回は覚悟も出来ていない状態だろう。一方的な攻撃である。

 暫くして最後方にいた自分達も前進を始めた頃には、既に帝国歩兵達はてんでバラバラにあちこちへと走り始めていた。最早そこに統率は存在せず、ひたすらに騎兵から逃げる哀れな人間が存在するだけだった。

 これを王国騎兵は小集団で背後から襲撃し、確実に数を減らしていく。更には撤退した歩兵はカーマイン公を包囲していた帝国歩兵の本隊にも紛れ込み、混乱を伝染させていく。


 既に周囲の情報も視界も十分に取れていない状況で、戦っていた帝国歩兵の本隊はこれによって崩れ始める。俗に言う”裏崩れ”というやつだ。戦いに参加していない後方の部隊でも、周囲の敗走などによって恐怖と動揺が生まれて敗走を始めてしまう。


 こうなってからは速かった。それを伝えるホルンが我々騎兵から鳴らされると、今まで火災による煙を受けながらも耐えていた、カーマイン公率いる王国歩兵が攻勢へと転じ、丘を駆け下り始めたのだ。


はじめまして。都津(トツ) 稜太郎(リョウタロウ)と申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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