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9.コルトン丘陵の戦い7


 出力を上げたマジックアローは馬上から撃つことが出来ない。

 この戦場の真ん中で下馬するという、勇気ある行動が必要だ。


「手綱を」

「はい」


 カンブリーが側に寄り、馬を引き連れて行ってくれる。これで周りを気にする必要がなくなった。


 帝国軍のアーチャーはまとまって動いているが、丘の斜面に居る事で縦方向に広く見える。マジックアローは広範囲に攻撃できるというよりは、貫通力が高く、深い奥行きでもって攻撃する形なので、最大の効果は得られないだろう。それでも魔力を半分以上込めたら、敵の勢いを怯ませるのに十分な力を発揮できるはずだ。


 重心を意識して、姿勢を整え、弦に指をかける…丘の斜面に立っているので若干右に体を傾けた。


 弓を持ち上げ、矢に魔力を込め始める。


 弓を引く時に鏃に向かって流すイメージに変えて、弦を引き切った。

 帝国軍のアーチャーは目の前の乱戦に注目しているが、数人がこちらを指差していた。自分が狙っている中央の奴と目が合う。


 騎兵ばかりのこの戦場で自ら徒歩となって弓を引いている者が居たら、それは確かに目立つのだ。他の者達も自分の存在に気が付いたのか、周りに何か指示を飛ばしている。マジックアローの存在は相手の頭の中にあるのだろうが、もう遅い。


 狙いは真ん中、敵のアーチャー達が集まる中央だ。


 魔法の放出は、逆刺部から螺旋状に流すイメージ。


 そして放つ。


 放つと同時に丘の斜面に叩きつけられた。必死にそのままの姿勢を維持できるように手と足を使って、倒れ込んだまま地面にへばりつく。このまま丘を転がり落ちたならば、乱戦の真ん中で騎馬に踏みつぶされる事だろう。


 さて放ったマジックアローの行方であるが、真っ直ぐ飛翔し、乱戦中の両軍の頭上を過ぎたマジックアローは、真っ直ぐ帝国軍アーチャーの中央部へと向かって行く…そして弾着地点から激しい土埃が巻き上がった。


 自分の様子を伺っていたカンブリーが、粉塵が収まらない内に直ぐに駆け付けると、騎馬に乗るように促してくる。


「ありがとう」

「いえ、一旦少し距離を取りましょう!敵も団長を狙いに来ると思います」


 カンブリーの言葉通りだった。巻き上がった土埃の奥からいくつかの矢が飛来する。その狙いは確かではないが、自分が狙われている事は明白だった。帝国軍の素晴らしい立て直しである。

 急いで騎乗すると元来た道を戻り、近衛軍騎兵が休憩していた地点まで登った。彼らは既に前線へと復帰していた為に、十分な視界を確保できる場所となっていた。


「効果は…まぁまぁくらいか」

「いえ、十分でしょう。あの様子だと少なからず混乱しています」


 自分のマジックアローの着弾地点には確かに血だまりが広がっていたが、それは全体の5分の1程度であり、平面にいたならば半分以上吹き飛ばせたことを考えると、上手く行ったと言えない。それでもカンブリ―の言った通り多少の混乱は引き起こすことが出来ているようで、暴れる馬を何とか宥める者であったり、辛うじて生き残っている者を馬の下から引きずり出そうとしている者が多い。先程反撃の矢を放ってきたのは、影響の少なかった両端の者達だろう。


「一度元の位置まで戻るぞ」


 今日はこれでマジックアローは打ち止めだ。多少魔力を残しておかないと、何か不測の事態が起きた時に反応することが出来なくなる。


「了解」


 少しカンブリーが口惜しそうなのは、もう少し戦いたかったという気持ちの表れなのだろう。確かに今までの戦いから考えるのであれば、自分達は全く戦っていないようなものだ。



 元の位置である丘の中腹まで戻ったところで、指揮をビスキュイ子爵から受け取り、もう一度戦場を見回してみる。

 ずっと3つの丘に陣取る王国軍の歩兵は攻撃されているが、カーマイン公はよく耐えているし、それが揺らぐ気配も無い。我々含め両翼の騎兵は同じような状態であるし、帝国軍の本陣も同じように動きが無い。


 多少変化が出始めたのは、自分達が元居た丘に陣取った帝国軍の歩兵達であろうか。右翼左翼共に丘の上に居た歩兵の数は、若干ではあるが少なくなっている。恐らくカーマイン公の丘を攻める為に兵士を送り込んでいるのだろう。


「サルキはまだか…」


 敵の後方から火の手は上がらないしその気配も無い。

 何かあったのだろうか…追手はどうにか止めたと思っているが、まだ伏兵や周囲の警戒をしていた兵士に見つかったのだろうかと、不安が内からどんどん湧き出て来る。ここに来てエメリヒ王や軍指揮官が情報を早く知りたがったことを思い出す。なるほどこういう気持ちなのかと、ようやく理解できた。

 それはエメリヒ王も自分で事を済ませたり、信頼できる人間を使いたがる筈だ…自分の手足のように動いてくれているサルキを送り出しても、これだけの不安が湧き出て来るものなのか。


 自分の中に湧き出る不安と焦る心を押し殺すように、戦場の変化を見逃さまいとしっかりと味方の動きを観察した。こういう時は目が良いのが便利だ…敵味方の細かい動きまで目に入る。余計な情報かもしれないが、考える事が多いのはそれだけ焦りから気持ちを逸らせてくれる。


はじめまして。都津(トツ) 稜太郎(リョウタロウ)と申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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