7.コルトン丘陵の戦い5
先頭を切るのは、近衛軍から連れて来た騎兵達である。彼らは先の敗戦の挽回を望んだ。
丘の上から一気に加速を始めた騎兵達に、敵の歩兵達は明らかな恐怖の表情を浮かべていた。彼らもこの突撃を予想していたであろうが、予想とそれを目の当たりにするのでは大きく違う。
自分もその昔近衛騎士団でアーチャーをしていたから分かる…圧倒的な質量と迫りくる速さに体が完全に硬直するのだ。帝国兵も衝突に備え、なんとか武器を構えるが、全くもって抵抗できない。
丘の頂上にいた自分が動き始める頃には、王国騎馬隊の先頭が敵に衝突した。
それは人が弾け飛ぶという形容が正しい光景だ。まさに丘の下りで速度が完全に乗った騎馬に、抵抗する隙さえ与えて貰えず体を吹き飛ばされている。王国の騎兵が使用する軍馬は、重馬種の良い点である丈夫さも兼ね備えている。歩兵の壁に当たっても、それに足を止められたり転倒することが無い。これが王国産馬の力だ。
この状況に帝国歩兵は身体を縮めて、自分達の横を騎兵が通り過ぎるように祈るしかなかった。
それは自分が帝国歩兵の最前列に到達した時も同じ…歩兵の死体はそれまで通った騎馬たちに踏まれて無残なものとなっている。
敵陣の真ん中にあっても自分の目には必死に身を縮めて、騎馬に弾き飛ばされないように祈る者達も映った。たまにに勇気を振り絞り、騎馬目掛けて剣や槍を繰り出すものもいるが、その動作はあっという間に咎められて、王国騎馬隊の餌食となる。
自分が歩兵達の中央、丘の裾野周辺に到達した時。先頭を走っていた近衛軍の騎兵達は、既に帝国歩兵の群れを突破し、彼らが先程駆け下りて来た帝国陣地の丘に登り始めていた。この二つの丘を利用し、敵歩兵に突撃するという行動は、その機動力と衝突力を最大限生かす方法だ。
これをしているだけで、あっという間に帝国軍歩兵は崩れ、敗走を始める事だろう。だが、彼らもそう簡単にさせる訳がない。我々王国騎馬隊の先頭が丘に登り始めた事で落ちた速度を見て、帝国軍の騎馬隊も隣の丘から駆け下り始めた。
「右へ流れぇぇぇ!!!正面から当たれ!!!」
自分の声は周囲の人間が同じことを叫ぶことで、前へと伝達されていく。突撃の最中ではホルンも旗も届かない。指示を出すには先頭を走るか、今のような伝言の方法しかない。
自分の指示がようやく伝わり、反応した先頭集団の近衛軍騎兵が、帝国軍の騎馬隊に正面からぶつかるように流れを変えていく。自分達は未だ谷の底に着いたばかりで、それを確認できる位置である。
我々が通り過ぎた後の帝国軍歩兵達は、嵐をやり過ごしたことに安堵し、自分達からなるべく距離を取ろうと、必死に我々が居た丘を登っている。彼ら歩兵にとって、我々は2度と当たりたくない相手だろう。
「来るぞぉぉ!!」
自分がようやく谷底から登り始め、帝国軍歩兵の海を抜けた時、集団の先頭から味方の喊声と共に敵騎馬隊の襲来を告げる声が響いた。
「サルキ!!作戦通りに!!!」
「承知した!!!」
今回自分は王の小間使いをする近衛第一騎士団の団長ではなく、カーマイン公率いる王国軍騎兵隊の指揮官だ。作戦の為に指揮官が軍団を離れる訳にはいかない。その代わりに自分が信頼する者に、今回の作戦の発動を任せるのだ。
エメリヒ王から命令を受けた時に、いつも自分がそうするように、騎馬隊から離脱する10騎はサルキが選んだ者達だ。丘を駆け上る彼らの背中を見送ると、それに気付いた帝国騎兵がいくつか同じように離脱して追いかけようとしているのが分かった。
「ネーフル子爵!!」
「はい!!」
ネーフル子爵はモーラ公からの援軍指揮官の一人だった。彼は騎兵を率いて参じており、自分の指揮下に入っていた。
「1000を率いてサルキに続いて丘を登り、正面から帝国騎士団に当たってくれ!!奴らにサルキを捕らえさせるな!!」
「相分かった!」
ネーフル子爵の実力は知らないが、モーラ公が援軍として派遣しているのだから、自信を持って送り出しているのだろう。事実これまでの罠の敷設作業などではよく働いていた。
指示を受けたネーフル子爵と共に騎馬隊から離れたのは後衛の部隊である。まさか突撃の先鋒を担う近衛軍や、それの後ろに備えるカーマイン公麾下の騎兵を出す訳にはいかない。
ネーフル子爵と共に丘を駆け上る騎兵の動きに少し遅れて、帝国軍もほとんど同じ数の騎兵を離脱させる。それらは確実にネーフル子爵の騎兵の動きを止めようとしていた。
「「「どぉおぉぉ」」」
自分が丘を登り始めたところで、先頭の近衛軍騎兵が帝国軍騎兵と衝突した。お互いに地面を揺らしながら丘を駆け下りての当たり合いだ。それはそれは激しいものとなる。自分の所まで喊声が聞こえて来る上に、丘の上に上がり視界が開ける程、丘の間の谷では両軍入り乱れての激しい乱戦が繰り広げられている。
一撃離脱が基本戦術の騎兵であるが、谷底という加速出来ない場所に大量の騎兵が入り乱れては、乱戦以外の選択肢が取れないのだ。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




