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6.コルトン丘陵の戦い4


 朝霧が丘の下に溜まり、まるで雲の海に浮かぶ島の上にいるような感覚になる。その島々からオロール王国とスプルース帝国の兵士が睨み合っていた。


 お互いに全ての兵士が整列を終えているが状況は動かない。目の良い自分には”対岸”の丘の上にいる兵士達の動きが見えた。ある者は緊張し、ある者は奮い立ち、ある者はこの時間を暇そうに過ごしている。

 味方も同様であるが、強いていうのであれば自分が率いる騎兵達の表情が少し硬い。自分達の策を知っているのもあるが、数の差に緊張しているのもあるだろう。


 開戦前の独特の緊張感が包む丘の上で、自分は何となくマジックアローを手に取って触っていた。

 自分の妻が開発したマジックアローを握っているのは、自分にとって真実の色教のストールを身に着けているよりも心強いものだった。これに触れている時は自領にいる家族を思い出すことが出来る。



 どれくらい待っただろうか…1刻?2刻?太陽が明るく周囲を照らし出し、徐々に谷底が見え始め始めた頃だった。対面の丘からホルンの長い音色が一つ響いた。それに呼応するように幾つものホルンが戦場に開戦の合図を告げる。丘の頂上ではためく貴族達の旗とスプルース帝国旗…その下で大きく振られる濃い緑色の大旗。


 それ見た帝国兵達の地面を揺らすような喊声が戦場に響いた。

 いよいよ始まるのだ。


 帝国兵は土砂崩れのように一気に丘を下り始める。最初は歩兵が陣取る5つの丘からで、騎兵はまだ動いていない。それでも自軍と同じ数かそれ以上だ。


「よぉ、お前ら!!!待ちくたびれただろ!?」

「「「おぉぉ!!」」」


 珍しく、柄にもなく檄を飛ばさなければいけない気がした。敵の喊声と地鳴りのような足音で、遠くの兵士までは自分の声は聞こえないだろう。


「敵は多く、その意気や彼らの邪神に届かん程だろう!彼らは人間を生んだという神の加護の下で戦っているが、我々には色彩の神々に加えて獣人達が信仰する神の力まで加わっているのだ!!」


 自分の左右には長い付き合いの獣人達が居て、その言葉にニヤニヤとしている。


「我々の方が加護を授けて下さる神が多いとは思わんか??」

「「「おぉぉぉ!!」」」

「さぁ、ここが王国の運命を決める戦場だ!神々と獣人の仲間の為に戦おうではないか!!」


 こちらも敵に負けない程の喊声が上がる。それは自分達だけではない…王国兵が集まるそれぞれの丘から上がっていた。各丘の諸侯も、同じタイミングで檄を飛ばしていたのだろう。その様子を見て自分も将の一人となれた気がする。



 帝国軍は谷底まで一気に下ると、その勢いのまま我々の足元を駆け上がって来る。後続は谷底で勢いを殺されているが、先頭集団の勢いは止まらない。


 王国側の丘から長いホルンが鳴り、戦闘開始の合図であるオロール色の大旗が振られ始めた。


「弓兵隊!!矢を番え!!」


 短いホルンが一つ響く。


「放てぇぇぇ!!!」


 王国軍が布陣する丘から天へと放たれた矢が空を覆い、帝国軍に影を落とす。

 彼らはそれでも前進を止めない。そしてその理由となる風が、丘の下から駆け上がってきた。


 帝国軍風魔導士による全力の対弓兵防御だった。丘と丘の谷間に沿うように吹き荒れる強風が、矢の勢いを殺して地面へと落下を始める。それに当たってしまっている不運な兵士もいるが、勢いを殺した落下する矢は致命傷を与えるまで行かない。

 その状況を見ても王国軍はホルンの音に合わせて、弓兵による全力の斉射を行い続ける。帝国軍の風魔導士の魔力が続かなければそれは最高だが、そうでなくとも相手の魔力を消費させることが出来る。


 そして王国軍の両翼に陣取る自分達騎兵が仕事をする時間になる。

 敵の騎兵達に動きは無いが、黙って帝国歩兵の攻撃を受ける訳にはいかない。停止した騎兵ほど弱いものは無いからだ。

 我々が取れる選択肢は二つある。ひとつは歩兵の相手は歩兵に任せ、敵との交戦を避けて帝国騎兵との当たり合いに備えること。もうひとつは坂を下り敵歩兵の中に突っ込み、反対側まで抜けてしまう事だ。

 帝国軍は進軍しているために対騎兵の陣形を組んでいない。十分な貫通力をもってあたることが出来るだろう。自分達が布陣する丘を明け渡す事になってしまうが、そこは我々も織り込み済みの作戦だ。


「オロール王国軍騎兵隊!!!突撃準備ぃ!!!!」


 今率いているのは近衛騎士団でないから、普通の号令だ。自分の声に反応してホルンが短く3つ鳴った。


 5000の騎兵隊全体に緊張が張り詰める。


 丘を駆け上る帝国軍の姿は自分の目にしっかりと映っている。肩で息をしながら、必死に足を上げて丘を登ってくる姿は、鬼気迫るものがある。


(まだだ、まだ)


 この距離では帝国軍の歩兵に突撃に対応する十分な時間を与えてしまう。


(まだ)


 敵が我々と戦う前に一度覚悟を決める間合い…一度顔を上げた時、正面に見えた我々騎馬隊の圧に負ける瞬間……今だ。


「オロール王国軍騎兵隊!!!突撃ぃ!!!!!」


 自分の声に素早く反応したホルンが長く戦場に響き渡った。


はじめまして。都津(トツ) 稜太郎(リョウタロウ)と申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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