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3.コルトン丘陵の戦い


 我々がコルトン平原西端に到着したのは夜中であった。

 前日から満月に近い状態であった為に、夜であっても十分視界を確保できたし、夜に移動すると敵はいきなりコルトン丘陵に出現した騎兵に驚くことになる。その為に移動の最終日は多少の無理を人馬共にしたのだ。


 先行している偵察隊から接敵したという報告はまだ戻って来ていない。

 地形を見ようにも太陽が出ていない状態では無理があるので、その日は野営とは名ばかりの野宿となった。存在を知られないために、寒い中であっても火を起こさずに堅いパンと干し肉で腹を満たし、それぞれの愛馬で暖を取った。



 到着した翌朝。

 我々はようやくコルトン丘陵の端に登り、その景色を眼に収めた。


 手前のなだらかな丘陵は作物の収穫を終えた畑となっており、地面が黒く足跡も見やすい柔らかい地面。奥に行くほど丘陵は徐々にその高さを増し、間隔を狭くし始める。そこらは畑には向かないのか、丘の上には少し枯れ始めた草が生い茂っている。おそらく放牧地帯になっているのだろう。中央周辺に民家は見えない……南側に小川が流れているらしいのでその近辺だと予想するのが妥当だろうか。


 地図との一番の違いを実感するのは、その丘陵の立体感であろう。こちらの動きは確かに見えないが、こちらも相手の動きは全く読めない。

 お互いに戦場に選ぶことになりそうなのは、中央部にある道の側だろうか。自分の斜め前で見ているヴィアネッロ侯も、難しい表情でその中央の道を見ている。


「リデル殿はどう見る?」


 自分を試すような視線と共に、ヴィアネッロ侯はこちらを振り返った。

 自らの片腕を落とした者に対して値踏みを行うのか?その腕を持っていかれても仕方なかったと納得するためなのか?随分と難しい問いをしてくれるものだが、ここまで散々エメリヒ王のもとで戦場を駆け巡ったのだ。その問いに対する答えは既に頭の中で出ていた。


「この地形を鑑みるに、帝国は数の有利を生かすために展開…我々は機動力を生かすために展開を望み、道を挟んで左右の戦い若しくはどこかの谷間を使って前後の広い陣形から戦闘が始まることになるでしょう」


 ヴィアネッロ侯の目を見れない…気まずさからだ。カーマイン公は何故自分とヴィアネッロ侯を共に進ませたのかと恨まずにいられない。


「一つの策としては、ここらの畑は珍しい事に菜種油の元となる作物…レプシードが作られているようです。収穫を終えているようですし、周辺の村には大量の菜種油が貯蓄されているかと。それと火魔導士を利用しての戦いがいいかと」


 このような丘陵地帯の戦いでは、敵味方共に攻める事を避けたがるような状況になる。丘を降りることになるし、攻め登るという不利な行動をしなければならないからだ。そうなった場合長期戦となる事は間違いないが、攻め寄せている側であって敵地の奥まで進んでいる我々は、なるべく早い段階で決着をつけたい。これを避けるには無理に攻めるか、敵に無理に攻めさせるかだ。


「具体的には?」


 ヴィアネッロ侯との考えとは違ったのだろう。少し興味をそそられたような表情をこちらに向けて、続きを促されたのが視界の端に見える。


「まずは時間を稼ぐための方策として、この丘陵を利用してひたすら敵に奇襲を仕掛けましょう。進軍速度を落とさせる為です。恐らく敵も先行偵察を放っているでしょうし、道沿いの伏兵でもいいでしょう…。その間に周辺に騎兵を走らせて、ありったけの油を集めます。あとはそれを戦場となる場所近くに埋設します。場所は敵の布陣のひとつ後ろの丘周辺…こちらの本隊が先に布陣を済ませていたならば、場所の決定は簡単でしょう。あとは回り込んだ騎兵とそれが護衛する火魔導士によって油に着火します。そうなれば、冬に向かって強くなっていく西風に煽られて、帝国軍に対して炎と煙が襲い掛かるでしょう」


 ヴィアネッロ侯は目を閉じて考えている様子だ。


「その熱さに追い立てられた帝国軍が、丘を下って我々に戦いに来ると」

「はい…なるべく草が枯れ始めている場所を選択すると、さらに有効になるかと」


 ヴィアネッロ侯は納得したように首を縦に何度か振ると、目を開いて自分を見つめた。今回ばかりは自分も見つめ返す。彼の顔を正面から見るのは初めてに近い。濃い茶色の髪を伸ばし後ろに縛っていて、緑色の瞳は意思が非常に強そうに見える。額から眉にかけての傷跡と、蓄えた髭が歴戦の猛者としての威厳を出していた。実際に片腕になっても使っている大戦斧を用いて戦い抜いて来たのだから偽りはない。


「我々が敵を食い止めよう…リデル伯、この戦い全体を通して必要な兵数を教えてくれ…下準備から作戦の決行までだ」


 今自分の指揮下には近衛軍騎兵2000が居る。それに加えてどれくらいの兵数が必要か…


「4000から5000程度必要かと…土魔導士を多く頂けるのであれば、4000程度でも十分行けます」

「ふむ…では3000を預けて5000としよう。それに加えて多少土魔導士を融通する」

「必ず成功させて見せましょう」

「更に成功確率を挙げる方策も伝えておこう」


はじめまして。都津(トツ) 稜太郎(リョウタロウ)と申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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