2.合流2
王国軍は帝国軍よりも先に動いた。
王国軍は数の不利と帝国領内の戦闘という地の不利を背負っていた為に、先手を取る必要があったのだ。耐える戦いを得意とするカーマイン公を知る敵味方からしたら意外な行動なのも重要である。
我々は真っ直ぐに西進した。
帝国軍は我々の西側に20日行った地点であるアイビー城近辺で集結していた。既に4万以上の軍が集まっているという報告を受けており、王国軍よりも多くの兵力を有していることは分かっている。
「寂しい感じだな」
カールの呟きは帝国領内の景色をみての感想だった。小高い丘の上にあるコーラル城から東に進むと平原が広がっているが、その平原は既に付近の住民と王国軍によって収穫を終えており、もう間もなく冬に入るといった風情が漂っている。
ちなみに帝国の住人は至って”非協力的”である。
それもそうだろう……帝国と王国の敵対は住人の祖父の代から始まったという世代もいるだろうし、お互いの国境近くであるレイトリバー沿岸の地域は、お互いの軍隊が荒らし続けているのだ。敵愾心も育つという物だろう。ただ王国軍は今回、徴収するのではなく金銭を払ったり、物々交換で物資を手に入れているので、ある程度の態度の軟化は期待できそうだった。
王国軍はその敵愾心を持つ住民を周囲に囲まれながら進軍した。
目的地は西へ15日進んだ、なだらかな丘陵地帯である。王国の地図と偵察の話を整理して予想したのみで、本当にその場所を見た事がある人間はこの場に居ない。それでもコルトン丘陵と呼ばれるらしいその地点を目指すには理由がある。
まず一つ目に我々王国軍の強みである騎兵を生かすには、地形が大事だという事。開けた平原もしくは丘陵で、周囲に樹木が少なく足場が良い事が望ましい。更には丘陵地帯は丘によって騎兵の移動を隠すことが出来るため、奇襲や回り込みなどがしやすい。
二つ目に帝国軍に戦いを強制させることが出来る場所であること。コルトン丘陵と呼ばれる丘陵地帯は、我々が今進んでいるコルトン平野と、帝国軍が集結しているアイビー城を含むアイビー山地の間にある。アイビー城は山地の端に位置する山城であるために、帝国軍は軍の展開の為に前進して来なければならない。でなければ兵数の有利を生かせないからだ。
これらを帝国軍に押し付ける為に我々は、王国軍と帝国軍の中間地点よりも更に5日分も先にあるコルトン丘陵地帯に進もうとしているのだ。この行軍にはかなりの無理が必要になる。敵が我々の動きを察知した後に、動き始めたとしても中間地点となる場所から3~4日程の場所で衝突することが予想された。
更に動きを早めるために、我々は最初に騎馬隊を先行させる事にした。数にして1万2千で、これを指揮するのはヴィアネッロ侯である。本体に奇襲を仕掛けられると、騎兵が居ない為に厳しい状況になるが、予想として兵力を分散させる事は無いだろうという一種の賭けを打った。
この騎馬軍団の目的は早いうちにコルトン丘陵地帯到着し、敵が展開を遅らせる目的、足止めの目的があるが、一番大きいのは先に道を使う事で、周辺の安全確保や地形についての把握の時間を減らす事、野営の為の場所や、現地住人に食事を用意させておくなどして、後ろに続く歩兵達の行軍速度を上げる事を目的としていた。
現地の村などに騎兵を少しづつ置いてくるために、少しづつ騎兵の数は減っていくが、遅滞ない行軍の為には十分許容できる程度の人数だ。
帝国東部はレイトリバーを挟んでいるが、平原が王国側と繋がっている事もあり、風景や空気が似ていた。強いて違いを挙げるのであれば、どの村も村の中心部に”人間の誇り教”の教会や紋章があるという事だ。オロール王国の国教としている”真実の色教”は、こういった類の教会や紋章を村々に置くことは無い。それぞれの家であったり、祭りの際に中央広場に様々な色の布が飾られる程度だ。
帝国においても真実の色教を信仰する人は居る筈であるが、その気配を感じないのは帝国の国教に対する扱いの差なのだろうか。確かにスプルース帝国は人間の誇り教と共に成長してきた為に、非常に大事にされている。
実際スプルース帝国の領域に入って感じたのは、自分の周りにいるサルキやカンブリーなどの獣人に対しての冷たい態度や表情だ。彼らが実際に何かの被害を受けたのか、受けていないのかは分からないが、少なくともその分断は確かに存在している様子だった。奴隷の姿も見えていない…ここに住んでいた獣人は元々居ないのではないかと思えるほどに。
我々騎兵の軍団はひたすら帝国領内を進んだ。
ヴィアネッロ侯の指揮の下、ひたすらコルトン丘陵に向かって寄り道もすることなく真っ直ぐに。
途中で我々に攻撃を仕掛けて来る者もいない。そこらの村の住人は騎兵のみで地平線の先から勢い良く進んで来る我々に恐怖し、ただひれ伏して物資を差し出した。いくつかの村が物資を出し渋る素振りを見せても、目の前に大量の金貨を積まれておもねるか、村の存在が無くなるのみだった。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




