1.合流
徐々に朝夕が肌寒くなってくる季節だ。
気の早い樹木が茂らせている葉を色づかせ始めている。
総勢5000の近衛軍を率いている自分は、レイトリバー沿いに王国領を南下した。
周囲に居るのは気心の知れた仲間であるカールにライアン、フレディ、アントンとサルキにカンブリー、セッター、テリアにヨスの8人と近衛軍前線指揮官が6人を加えた14人だった。
我々は一気に南下すると、王国の橋頭保となる場所の真横まで進んだ。用意された川船に乗り込み、前回の渡河よりも遥かに簡単にレイトリバー西岸へと渡る。そこから更に10日程進軍すると、現在の対帝国最前線のコーラル城へと到着する。
コーラル城には増援を受け約2万8千程の軍となったカーマイン公麾下軍が陣を構えていた。そこに自分が率いる近衛軍5000が加わる。
カーマイン公をはじめとする諸侯はコーラル城内にいた。
「久しぶりだな、元気そうで何よりだ」
城内の城主室にいたカーマイン公の元へと旧カーマイン辺境伯出身の7人と共に向かうと、カーマイン公は大きな喜びの笑みを浮かべた。
「再びカーマイン公と共に戦えることに喜びを感じております」
「……随分と”大人”になったな」
カーマイン公が少し寂しいそうな表情を浮かべたのは、昔の自分と変わってしまった所があったからだろうか。その後に言葉を交わす限りでは同じような表情をすることは無かった。
カーマイン公は自分の後に続いて、昔の配下たちとひとりひとり言葉を交わしていく。皆どこか懐かしいような、故郷を思い出し寂しいような表情を浮かべる。
「さて、リデル伯」
側近や諸侯を自らの部屋に呼び入れると、カーマイン公の口調が改まった…これから始まるのは真面目な話だろう。
「貴殿らの5000の兵を加えてここ南部軍は3万3千となった。更に後々にモーラ公からも援軍として5000の兵が送られてくる予定だ。これで南部軍は総勢3万8千の大軍隊となる」
エメリヒ王の近衛軍の倍以上の数だ。普通の王であれば、臣下に自らが率いる数よりも多くを率いらせるのは嫌うものだが、エメリヒ王の器の大きさか、それともカーマイン公への信頼の証か。
「我々南部軍は全力で帝国領を攻略しなければならないし、他の4つの陸戦をしている軍の為に大いに敵兵力を引き付けなければならん」
「末席に加えて頂き光栄にございます」
「そんな…末席などではないぞ、リデル伯よ。時には主たる攻撃をしてもらう大事な役割を担って貰うつもりだ」
社交辞令の応酬だ。
「さて、皆にも紹介しよう…王陛下の近衛軍より援軍を頂いた。それを率いるリデル伯だ」
「よろしくお願い申し上げます」
方々から自分を歓迎する声が聞こえた。そこには自分が腕を撃ち抜き、片腕となったヴィアネッロ侯までいる。その眼を見るのはどうにも気まずく、ゆっくりと全体を見るふりをして、焦点を合わせる事は出来なかった。
「長旅でさぞお疲れだろう…ゆっくりお休みなされ。モーラ公の援軍が到着次第、全体の軍議を開こう」
モーラ公からの5000の援軍が到着したのは、秋も中頃になろうかという頃だった。
「さてさて、皆さんお揃いか」
コーラル城の大ホールには今回の軍を率いる諸侯が揃っていた。そこに軍の筆頭となるカーマイン公が入室し、全員が揃う。
「王陛下とモーラ公からの援軍痛み入る…その信頼に応えなければならないと身が引き締まる思いだ。先の戦いでは…」
カーマイン公は少し長めの挨拶を口にした。
「…では、過去の話はこれくらいにして、未来の話をしよう」
カーマイン公は大ホールの壁に貼られた地図の元まで移動すると、状況と作戦を話し始めた。ちなみに軍事の最高気密と言っても良い地図は、城を落とした際に帝国が燃やしているのでカーマイン公が持ち込んだ物だ。
「我々は現状帝国領内に突出していると言って良い。帝国軍を追い払う事は出来たが、密偵の報告によると帝国も我々と同じく北部からかなりの数の兵士を引き抜いている。それに更なる徴兵による援軍もあるそうだ。予想としては4万5千を超えて5万に届くのではないかと言われている」
ここでカーマイン公と共に戦った諸侯から落胆の声とため息が聞こえた。原因は敗北を喫した北部の2軍である我々にあるので、何とも肩身が狭い。
「だが、この数の敵を誘引することによって北部の戦いは楽になるだろうし、帝国軍を撃破したならば圧倒的な有利を獲得できる。この敵を叩くことが我々の最優先事項だ」
諸侯は首を縦にゆっくりと振っていた。皆がこの戦いの重要さを分かっている。
「簡単な戦いではないが我々は粘り強く勝利を目指そうではないか」
「「「おう!」」」
カーマイン公の言葉に反応した諸侯が一斉に声を上げた。
その後の時間は皆がその地図に寄り集まっての作戦会議だ…「この地形は本当か?」「ここは叩かなければ」「ここは大軍を展開そうだ」「軍を少し分けては?」「ただでさえ我々は兵数不利なのだぞ!?」
帝国の文化だという、パンの間に具となる肉や野菜を挟んだ簡易な食事を摂りながら、活発な議論は食事の時でも座らずに続いた。誰もが勝利を望んでいるのだ。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




