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15.悪天12


 敗北を喫したのは我々近衛軍だけではない。


 我々の北、レイトリバー上流で戦っていたモーラ公の軍もスプルース帝国の同じ対策により、マジックアローの威力が発揮されず敗北した。それでもモーラ公の凄い所が、包囲されそうになると機動力が低い状態にも関わらず、北側へと全軍を展開の後、包囲を脱出し再び対峙する形に戻した後に撤退した。

 これにより包囲されなかったモーラ公軍は順調に撤退を行い、犠牲を3千8百程度という最小限に留めたのだ。


 残りの4軍は引き分け若しくは、勝利をしている。


 我々の南方、レイトリバー東岸の帝国勢力圏にある王国の橋頭保から進撃を開始したカーマイン公は、3回に渡り帝国の軍を破り、城を一つ落としている。

 帝国軍と正面からの戦闘になったカーマイン公は、少数の伏兵を活用した戦法で最初の当たり合いを制すると、5千の兵を失い後退した帝国軍を追撃した。これに反抗する為反転した帝国軍との戦闘を有利に進め、分断の後に1万もの敵兵を殲滅した。これで兵数が互角となった二つの軍は平原での決戦を行い、カーマイン公は完膚なきまでに敵を叩きのめした。大きな勝因として、元々レイトリバー東岸に橋頭保を確保していたが為に、渡河と軍馬の持ち込みが安易に出来た事がある。それとやはりカーマイン公の力量であろうか、耐えに耐えた後に逆転の手を適切な時機を見出すことが出来るのがカーマイン公の凄いところだ。それにヴィアネッロ侯の攻撃力が加わるとなれば、圧倒的な衝突力を生む。

 完勝したにもかかわらずそれ以上の進軍を取りやめたのは、北方の2つの王国軍が渡河することが出来なかったからだ。もししていれば、これ以上の戦火を持ち帰ったのは間違いない。


 次に勝利と言っても良かったのはオロール王国海軍についてだろう。

 王国海軍は細かい戦闘や偵察を行う小部隊と、海戦用の大部隊を分けて運用していた。ヴァトーの戦法を取り入れ、それの運用を知っている元首長のバルグ候が指揮しているのだから。海賊国家と言われていた通りに敵からすると厄介極まりないものだった。

 細かい戦闘や沿岸の襲撃は帝国側で頻繁に起こるが、そこに帝国海軍の部隊が駆け付けるともう誰もいない。逆に王国海軍は帝国海軍の大部隊を幾度も捕捉し、海戦を行った。これにより帝国海軍の活動は低下し、王国は内海の制海権を握ったのだ。


 この王国海軍の勝利の恩恵を大いに受けたのは、東方公の軍だった。

 ムタルド教国は2度に渡り海峡の横断を試みたが、その度にどこからともなく現れる王国海軍に阻止されたのだ。一度だけ500程の小部隊が上陸したらしいが、それだけの兵数では何もできない。あっという間に東方公の軍に殲滅された。


 最後に大陸最南方で行われたカタラーニ侯・パーシアン候と諸国家連合・帝国の連合軍との戦いだが、良くも悪くも引き分けという言葉が正しい。既に幾度か戦闘を重ねていた両軍であるが、城の奪い合いにまでは発展せず、所々にある要衝や砦を奪ったり奪われたりを繰り返していた。

 カタラーニ侯が守っている場所はまだ良いのだが、パーシアン候はあまり守りの戦いが得意でないらしく、時々要衝を失陥しては、自らの力で取り返すという戦いをしていた。これにより多少の戦線の動きと兵の犠牲により1万8千の連合軍と1万2千の王国軍という変化があるが、趨勢は変わっていない。


 この戦いは全て進軍を開始した春から夏までの季節に起きた事である。


 全体としてオロール王国とスプルース帝国は五分五分と言っても良い戦況だ。



「王国軍を再編しよう」


 この状況を見て導き出される結果はこれである。

 北側の兵力と南側の兵力の釣り合いを取る為の行動だ。


 エメリヒ王はモーラ大公とカーマイン公との連絡の後に直ちに行動を起こすと、近衛軍の一部を分けた。その数5000である。


「リデル伯、この5000の軍を率いよ」


 エメリヒ王がカーマイン公からの手紙を見て言った言葉に、自分は聞き間違えを疑い、返事をしなかった。


「どうした?」

「わ、私ですか?」

「そうだ。5000の兵を率いるんだ」

「近衛騎士団総団長の役職は…?」


 軍の再編の間に、自分は近衛騎士団の総団長になっていた。前総団長のボウデン総団長が戦死したのだから、次席である自分が引き継ぐのはごくごく自然である。だが、軍を率いるとなると話が違ってくる。


「それは近衛第二騎士団のジャスマン伯だな。本来は近衛第一騎士団長だが、現団長のトルガーは少し順番を飛ばすことになるだろう?」

「もしや、本当に……?」


 エメリヒ王の顔に見覚えがある。これはもう決定事項を言い渡すときの表情だ。


「私の言葉を疑うか?」

「いえ、滅相もございません!」

「近衛第一騎士団から人数を連れて行っても良いぞ」


 自分だけいきなり近衛軍に飛ばされるとなれば、随分と大人になった自分でも少し不安が大きいが、昔なじみを連れていけるのならばまだマシだろう。


「承知いたしました…後ほど考えさせて頂きます」

「考えている時間は無い。明日…は流石に厳しいな。明後日に出発するように」

「その、出発ですか?目的地はどこに?」


 エメリヒ王はハッとした顔になる…言い忘れていた様子だ。


「南方、カーマイン公の軍と合流せよ」


はじめまして。都津(トツ) 稜太郎(リョウタロウ)と申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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