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14.悪天11


 この”レイトリバーの戦い”の顛末を話そう。


 スプルース帝国領へレイトリバーを渡り上陸した我々だったが、帝国軍4万の兵に対して1万8000程の兵士が上陸した状態で戦闘が始まった。そこから更に3000の兵士が到着し、戦闘に参加した近衛軍は2万1千程。

 帝国軍に対して有効に働くと思われたマジックアローは敵の対策により全く通じなかった。

 これは捕虜となった帝国軍部隊長が拷問の末に語った話であるが、帝国軍はオロール王国がベルディグリ大陸東側で連勝していた際に、その戦略や情報を必死になって集めていた。その中で明らかに不可解なほどの威力を誇る矢を王国が用いている情報を得た。

 帝国はそれを王国がどういった場面で運用していたかを徹底的に分析していたらしい。主たる運用場面は大人数が集まっている場所や、固定された構造物には破壊の為に大威力の矢を…大軍勢の当たり合い敵指揮官を狙い撃つという事まで分かったそうだ。とはいえ、これらに用いられている矢が同一だとは気が付いていないらしい。

 帝国が出した結論は、エメリヒ王を守る近衛騎士団のアーチャーの中にその複数種類の矢を運用する者達がいるという事だった。


 その対策の為に帝国は戦場に立つ帝国軍の前線指揮官や、それを率いる将軍達にある策を授けている。それは”指揮官は決して目立つ格好をせずに、騎乗もしない”というものだった。それだけかとも思えるだろうが、今回のレイトリバーの戦いに於いては大きく役に立ったと言わざるを得ない。

 前線指揮官は騎乗せずに、配下の従者やそこら辺で見つけた声の通る兵士を騎乗させた。その馬を曳く従者のように指揮官たちは側に付き、逐一騎乗した雑兵から報告を受け、指示を与えて伝えさせた。

 これによりエギルと自分のマジックアローが放たれても、死ぬのは指揮官役をしていた雑兵のみで、指揮官は生き残った状態になる。つまり、戦場の状況は何も変わっていないのだ。


 マジックアローによる狙撃が封じられたオロール王国近衛軍は、苦境に立たされることになる。当初の予定であった、混乱の隙を突いた中央突破による両翼の分断は叶わず、只々倍の兵力に退路を断たれた状態で包囲、攻撃されたのだ。


 あとは自分達が見てきた通り、左翼と中央の間に帝国騎士団が全力で突撃分断し、騎馬を持ち込めず機動力が劣る近衛軍は、傷を塞ぐことも出来なかった。

 別にこちらから帝国領に攻め入る必要は無かった。マジックアローが無ければ、近衛軍は自分達の領土にて敵を待ち構えたであろう。今までの連戦連勝で、いささか油断と驕りがあったと言わざるを得なかった。


 そしてこの油断は近衛軍に大きな打撃とオロール王国近衛軍の完全敗北という結果を残した。


 戦士、捕虜などで失った近衛軍の兵士は9千と500近くまで上った。兵力の3分の1を失ったのである。

 これが陸戦であれば近衛軍は壊滅、即座に追撃を受けて更に犠牲を増やしただろうが、我々の敵であった悪天が唯一味方した。確かにこちらに渡ることのできなかった兵士は捕虜となったが、徐々に増水し荒れ始めたレイトリバーを帝国軍は渡河することが出来なかったのだ。これにより状況の収拾をする時間が我々に与えられた。


 その過程で分かったことがある。


 ボウデン総団長の戦死だ。


 ボウデン総団長は最後まで殿軍として、レイトリバー東岸にて戦闘を行っていた。途中に何度も乗船を具申されたが、断り続けていたらしい。そして…帝国騎士団の突撃により本陣が陥落すると同時に討ち取られた。


「そうか……見事な死に様であったと」


 エメリヒ王がボウデン総団長の死の報告を受けたのは、総団長付きの近衛軍兵士からであった。この兵士は荒れたレイトリバーを、鎧や装備を全て捨てて泳いで渡りきったらしい。他にも飛び込んだ者はかなりの数が居たが、王国領まで帰還できたのは数えるほどだった。


 エメリヒ王はボウデン総団長の訃報を受けて、静かにその場で目を閉じていた。エメリヒ王にとっては旧モーラ辺境伯領に放逐され、現モーラ公に付けられた付き合いが非常に長く深い者である。自分とは比べられない程にエメリヒ王とボウデン総団長が過ごした時間は長いだろう。彼らの関係は傍から見ていても、王と近衛騎士である以上に盟友めいたものを感じる時があった。


「報告ご苦労であった…体を休めるが良い」


 近衛騎士に支えられながら出て行く兵士を見送ると同時に、エメリヒ王は自分を含めた全員に天幕から出て行くように命ぜられた。

 天幕の側で待機している我々の元には雨が天幕を叩く音と共に、中にある物という物を蹴り飛ばしている音が聞こえた。その様子から見るに慟哭の声が聞こえないのは、エメリヒ王に残された自制なのだろう。


 結局その一晩は我々がエメリヒ王の天幕の中に入ることは許されなかった。

 翌日早朝にはいつもと変わらない表情のエメリヒ王が天幕から顔を出したのだが、掃除を任された近衛騎士が目にしたのは斬られ、破壊された荷物だったという。


はじめまして。都津(トツ) 稜太郎(リョウタロウ)と申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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