11.悪天7
速度のままにひたすら靄の中を進んだ。
8人という少人数であったことも幸いしたのだろうか、敵に妨害を受けることも少なかった。そしてどれくらい進んだか分からないところ…普段は本当に小さな小川であろう増水した川を水飛沫を上げて突破したところで、前から喊声が聞こえ始めた。左翼側の前線だ…まだ完全に圧し潰されてはいない様子なのは幸い。エメリヒ王の性格からして簡単に味方を置いて撤退するとは思えない。まだ左翼の軍団の中にいるだろう。
「どけぇ!!」
前線が近づいて行くと今度は帝国軍に声をかける。
これで避けてくれるのであればそれが一番いい。もしかしたら帝国軍の味方かと思って簡単に通してくれたなら、我々の負担も減るというものだ。
「どけ!!どけぇぇ!!」
自分の声に驚いた帝国兵が後ろを振り向いて驚き、簡単に道を開ける。呆気にとられ、自分達が通った後で、やっと声を上げるのだ。その声は簡単に置き去りにできる。
「おらぁ!!!どけぇ!!」
こちらの最前線でも同じ状況だ。敵味方入り乱れている状況では多少味方を吹き飛ばしてしまった気がする。そして、我々は最前線を抜けて、近衛軍左翼側へと到達した。
「止まれぇ!!何者だ!!」
味方陣地内に入ることが出来て、ようやく馬の歩様を弱めた自分達に周囲から槍を向けられる。彼らは敵の方向から来た騎馬ということで、完全に誤解していた。
「落ち着け!!我々は近衛第一騎士団だ!!ここの指揮官は何処か!?」
彼らが向ける穂先から殺意が抜けるのが分かった。更に我々が装備している鎧や外套を確認した事でようやく認識出来た様子だった。
「し、指揮官にございますか?」
「そうだ!ここにはいないか?」
「おります!!ここにおります!!」
自分達の後ろから申し訳なさげに手を挙げた中年の男が近づいて来る。
「ここの指揮官か!?」
「はい」
「王陛下は!?王陛下は何処に居られる!?」
「…恐らく更に奥かと?最初に激励に来られて以来見ておりません」
エメリヒ王の事だ、どこかの前線で一緒に戦っている可能性もある。なれば急いで駆け付けなければならない。
「そうか!助かった。おい、余りの槍はあるか!?」
「は、はい…これを!」
それをフレディに受け取るように指示して、直ぐに出発する。
「団長!この槍どうするんですか!?」
「外套を巻いて、簡易的な近衛騎士団旗としろ。いちいち味方に槍を向けられてたらたまらん!」
近衛騎士団の統一された外套は、背面に近衛騎士団旗と同じく、オロール王国の国花である”オロール・ドゥ・ジャックマリー”をあしらった近衛騎士団の紋章が金色の糸で刺繍されている。それは戦場でよく目立ち、存在を知らしめてくれるのだ。
そのまま我々は最前線の少し手前を丁寧に進んで行く。その間、外套を掲げていたお陰もあってか、我々が通り過ぎても槍を向けて来るものは居なくなった。
「おい、そこの!!王陛下はどこに居られる!?」
「分かりません!」
このやり取りを5~6回ほど繰り返した後だろうか。
「こ、ここから更に進んだところに居られます!!」
ようやく、有益な返事を得た。
そこから更に駆ける。雨がまた強くなり始めた…川の様子は見えていないが、増水し切っていない事を祈るしかない。
「団長、あそこに!!」
左側面にいたテリアが指を差した方向、味方の陣側にはオロール王国旗が雨の狭間でチラついて見える。それに近衛騎士の鎧を身に纏った兵士の姿も見えた。
「テリア!良くやった!!」
急いで駆け寄るとまたもや一瞬の殺気を向けられたが、自分達の顔を確認すると直ぐに警戒が解かれる。
「副総団長殿!」
「王陛下は!!」
「…あちらに!」
急いで下馬するとその兵士に手綱を任せて、近衛騎士達で固く守られた場所の奥へと進んで行く。
そこでエメリヒ王は静かに座っていた。
頭上に掲げられた近衛騎士達の外套が王に当たる雨を防いでいるが、当のエメリヒ王は既にずぶ濡れで…右腕は血に染まっていた。
「王陛下!!大丈夫ですか!?」
「リデルか」
周囲に侍る近衛騎士に思わず厳しい目線を向ける。こいつらは何をやっていたのだ…王に怪我をさせるなど近衛騎士の仕事を放棄していたのか!?
「敵陣を突破して参りました」
「帝国軍突破の先鋒は帝国騎士団だった…奴らの重装歩兵と騎馬の突破力は、歩兵だけでは止められないな」
「お話されると、お体に障ります」
「既に血は止まっている…一度押し返そうと帝国騎士団と戦ったのだがな、その時に気概ある帝国騎士団の騎兵共が全滅覚悟で突っ込んできてな。ひと突き入れていきよった」
エメリヒ王は自嘲気味に笑っているが、自分でも驚くほど周りを固めていた近衛騎士への怒りが収まらなかった。今、この場にいる近衛騎士に話しかけられたら、一言目には怒鳴ってしまいそうだ。
「そういきり立つな。私が制止を無視して前に出過ぎただけだ」
傷を受けたエメリヒ王に窘められるとは…なんとも情けない。自分は”やるべきことをやらなければならない”。
取り敢えず、今この場で自分がしなければならない事はひとつだ。
「王陛下、退却いたしましょう」
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




