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10.悪天6


 更に進むと毎回驚かれながらも、確かに近衛軍の前線指揮官の元まで辿り着いた。


「いや、驚きましたよ」

「味方に毎回驚かれている」


 向こうは近衛騎士団が来てくれたと安心して言葉を投げかけて来るのだが、貴族の社交界のように言葉を交わしている時間は無いので少し苛立ちを隠せない。


「我々は騎兵が居ないと思っていますから、いきなり現れた騎兵は帝国軍かと思います」

「それは確かにな…いや、そんなことはどうでもいい。突破してきた帝国軍の規模は?状況はどうなっている?」

「かなり大規模で突入してきた帝国軍は5~6千はいました。状況は何とか食い止めていますが……陣が薄いのでいつ、どこを突破されてもおかしくない状況です」

「左翼はどうだ?」


 その指揮官は静かに首を横に振った。


「完全に分断されているので状況が分かりません。」

「分かった。帝国軍の厚さは?どれくらいだ?」

「全く見当も…もしかして突破するおつもりで?」

「そうだ」

「もしや…王陛下が?」


 首を縦に振ることしかできない。この場で戦う近衛軍の兵士に動揺を生じさせたくなかった。


「助かった…ではな」


 再びゆっくりと進み始めた自分達は、いい加減驚く味方を無視しながら帝国軍との前線まで到達する。見えてはいないが敵味方入り乱れた戦いの気配が確かに感じ取れる場所だった。一度停止した自分達を追い抜かしていく近衛軍の兵士達の表情には、不安が溢れている。ここは過酷な戦場だ。もしかしたら彼らは2度と姿を見ることが無いかもしれない。


「よし!お前たち聞け」


 振り返り、たった7人の味方の表情を見る。

 カールはいつも通り気負わない自信にあふれた表情。その弟子のライアンも同様。フレディ、ソルディとアントンは「いつも通りでしょう?」と言いたげだった。セッターとテリアは自分の武器を振って具合を確認している。

 唯一緊張しているのは、最近、近衛第一騎士団に入ってきたヨスくらいなものだ。とはいえヨスも十分強い事はここ数年の訓練で把握済みだ。ヨスの武器は両手剣だ…少し小柄なその体格からは想像できない程軽々と振り回して、訓練の時なんかは片手剣で受けようとした獣人のセッターを体ごと吹き飛ばしていた。近衛騎士に相応しく戦える。もしかしたら、この中で一番近接戦闘を苦手としているのは自分かもしれないと考えると、少し可笑しくなってきた。

 自分でも意外に感じるが、追い込まれ、エメリヒ王の生存も分からない状況で落ち着いていた。大丈夫だろう……


「これから敵陣内を突破して王陛下の元まで駆け付ける!世話が焼ける王陛下を助けに行こうではないか」

「「「「おう!!」」」」

「相手はこの靄のせいで上手く応戦出来ないだろう。駆け抜けろ!一度も止まるな!!止まったら死ぬと思え!!!」

「「「「おおぉ!」」」」

「近衛第一騎士団、突撃!突撃!!突撃!!!」


 徐々に加速を始めた我々は、先程自分達の前に進んで行った不安そう表情をした味方を追い抜かしていく。まだスピードは大して乗っていないが、靄が掛かり視界が悪い分、人間があっという間に飛び出してそのまま消えていく感覚だ。


「どけぇ!!どけぇぇぇ!!!!」


 先頭を走る自分は全力で声を張り上げる…味方を蹴り飛ばすのなんて御免だ。

 靄と雨の中でも高い場所から発された声だけはある程度届く。自分達の声と馬の蹄が地面を蹴る音を聞いた味方は、我々の姿を確認すると全力で避けるか、その場で固まってくれた。


 そして我々8人はあっという間に最前線に到達する。


 敵味方が入り乱れる最前線は、自分達が声を張り上げても反応できない者、そもそも聞こえていない者ばかりだ。ここまで来てしまったら、もう味方を気にしている余裕はない。自分達が体勢を崩すよりも味方が吹き飛ばされる方を選ぶしかないのだ。


 我々は全力で最前線を駆け抜けた。数人は近衛軍の兵士を吹き飛ばしてしまった気がする。だが、その甲斐あってか帝国軍が進出してきた場所まで突破することが出来た。ここまで8人は誰も欠けていない。


 そして帝国軍の反応は鈍かった。


 靄と雨の中で視界が悪く、彼らは騎兵を見ても味方だと一瞬思ってしまっていた様子だった。なんせ王国軍に騎兵が居ない事はこれまでの戦闘から分かっているのだから仕方がない。

 帝国兵を切りつけ、吹き飛ばし進む度に後ろから大きな声がする。「敵襲ぅ!!」「敵騎兵!!」「突破された!!」「止めろぉ!!!」内容は様々だが、一貫して味方に危険を知らせる為の掛け声だ。


 それでも我々は止まらなかった。

 帝国軍も靄の中からいきなり出現する、速度の乗った騎兵など簡単に止められるものではない。槍を持って突こうとしても、いきなり熟練の近衛騎士団に対して有効な突きを繰り出せる者はそう居ない。


 後ろに遠くなっていく近衛軍と帝国軍の喊声が、周囲は帝国軍しかいない事を思い出させる。

 周囲は静かではない。自分達を止めようと靄の奥から声がしているのが分かった。だが、まだ陣地構築など出来ていないだろう。簡単に騎馬の脚は止まらない。


はじめまして。都津(トツ) 稜太郎(リョウタロウ)と申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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