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9.悪天5


 自分が決心してからの動きは素早いものだった。

 馬を右へ左へと回しながら、雨の向こうにいる敵指揮官を探す。見つけ次第マジックアローを放ち続けた。途中に普通の矢を使ったのだが、雨や風魔法のせいで数発外してしまったので結局1本、2本、3本と徐々に手元にあるマジックアローが減り、合わせて7本もの数を使っている。


「おかしい…」

「はい、鈍りません」


 既に8人もの前線指揮官を倒している。本来であればこれだけ指揮官が狙い撃ちされて倒されると、多少なりとも士気に影響はでる筈、でなくとも多少の動揺が感じ取られても良いのだが、帝国軍の攻撃の手は緩まず、影響を全く感じない。



「リデル団長!!団長!!!」


 次の獲物、出来れば更に軍の高官である貴族の姿を前線で必死に探していると、唐突に後ろから声を掛けられた。騎乗したヨスだった。


「ヨスか、どうした?走りながら聞く」

「左翼が崩壊しています!!」

「は!?左翼だと!?」


 その瞬間にエメリヒ王の姿が頭の中に浮かんだ。

 自分が前線に出ると言った時に、エメリヒ王は確かに左翼側の激励に向かうと言っていた。


「王陛下は!?王陛下はどうした!!??」


 馬首を翻し、本陣側へと全力で走るように馬を促す。ヨスはそれに何とか付いて来ながら、続きを話している。


「王陛下が最左翼の激励に向かっていた際に、中央寄りの左翼が崩壊しました!!現在中央と左翼側の連絡が完全に遮断されています!!」


 顔から血の気が引いたのが分かる。先程まで気になっていた痛いほどの水滴も、余りの状況の悪さに気が付かない程であった。


「くそ!!何をやっていた…いや、本陣の近衛騎士はどうしている!?」

「急ぎ、突破と救出の為に全員が出ました」

「分かった、そこまで案内してくれ!!」

「了解!!」


 ヨスがスピードに乗り、自分の前に出て来た。

 手だけで背中にある矢筒を確認する…そこには少し使って残った普通の弓矢が20と、残り3本のマジックアローがある。いつも馬に備えつけている予備の矢は今回持って来ていなかった。魔力の残りは半分程度、大きな壁となっている帝国兵が居たのならば、突破の為に一度使えるかどうかだ。


 血の少ない頭でどうにか考えを巡らせる…最早状況は最悪と言っても良い。前線が崩壊し、片翼がもがれた状態なのだ。ここから兵数が上回る相手に対して、逆転の奇跡など起こすことが出来るとは思えなかった。


「サルキ!ボウデン総団長の元へ走れ!!事情を話し、全軍撤退の具申を!王陛下の指示を仰ぐ時間が無い」

「了解!!」

「左翼側に乗船可能な船が有ったなら、そのまま王陛下を縛ってでも王国領までお連れする!お前も遅れるなよ!!」


 自分の言葉に返事の代わりに片手を挙げたサルキが、左側へと遠ざかっていく。


 そこからは本当に長かった。これほど馬の脚が遅いと感じた事があるだろうか。いくら走っても左翼側へと到達できない気がした。頭の中では「頼む、耐えててくれ」と必死に祈っている。



 我々が進む方向から雨音に混じって大きな喊声が聞こえ始めた。

 視界は相変わらず悪い…雨は徐々に弱まってきているが、靄が戦場全体を覆っている。この状況ではいきなり帝国軍が目の前に現れても驚きはない。馬の歩様を少し緩めて、味方を蹴飛ばさないようにも注意しなければならなかった。


 帝国軍に遭遇した際に、馬の歩様を一気に加速できるように慎重に進んで行く。自分は靄の中で暫く過ごした事で、現在位置が分からなくなり始めているが、地形を地図で見ただけのヨスはこの靄の中でしっかり場所を把握している。流石の能力だと言わざるを得ない。


 喚声が徐々に大きくなる。

 感覚としては大して離れていないだろう…恐らく矢が届く距離で戦っている事が分かった。だが、靄と雨の向こうにいる筈の姿が見えない。


(ゆっくりだ)


 手信号で味方を促すし、更に馬の歩様を弱める。

 慎重に視線を左右に振りながら進み続けた。そしていきなり靄の奥から人間の影が現れる。背中の矢筒から矢を引き抜いて矢を番えた。その人影達はまだこちらに気が付いていない。


「のわぁぁぁ!!」


 残り100ft(約30メートル)となった所で、ようやくこちらに気が付いた兵士達はこちらの姿を見て恐慌状態に陥った。だが、我々は焦っていない。短い時間であるが彼らの鎧と、持っている旗を見て味方だという事を把握できている。


「お前ら落ち着け!!近衛騎士団だ!!」

「……あぁ。近衛騎士様達で…後ろに騎馬が現れたもので、周り込まれたのかと」

「こちら側は敵を一切見ていないから安心しろ。お前らはここで何をしている?突破してきた帝国軍はどこだ?」

「我々は中段の予備部隊です。もう少し先で味方が交戦しています」

「突破した敵の兵力は?」

「分かりません!」

「では、指揮官は?」

「もう少し前に」

「助かった、我々は先に向かう」

「御無事で…」


 半ば儀礼のような言葉を後ろに置き去りにして、我々は再び前へと進み始めた。ひとまず指揮官から状況を聞かなければ、敵も味方も分からない。


はじめまして。都津(トツ) 稜太郎(リョウタロウ)と申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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