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8.悪天4


 中々来ない報告に、エメリヒ王も自分も苛立ちを募らせていた。この間にも状況は徐々に悪化している事が分かっていたからだ。


「戻りました」

「何故だった?」


 最初に戻って来たのは軍医の天幕に向かった近衛騎士だった。彼の姿が雨の中に現れた瞬間にエメリヒ王は歩み寄り問うた。


「エギル殿が意識が有ったので聞きましたが…どうやら、マジックアローを敵の指揮官に放ったものの直ぐに代わりの指揮官が出て来て意味が無かったと。残り2本となったところで雨が強くなり、前線に近づいたところ、帝国軍が全力で襲い掛かってきたらしく…近衛騎士達の奮戦で何とか離脱したそうです」


 直ぐに指揮官が交代するなど今までの戦いで起きたことが無い。それも8本も使っているのだから最低でも4~5人は射抜かれているのに、全く動揺しないなんてことがあり得るのか…?これまで幾つもの戦いでマジックアローを見せてきた為に対策されたのか?原因が分からない。


「エギルの具合は?」

「横腹に深手を負っています。弓を引くのは無理でしょう」

「リデル、行って来てくれ。本当か確かめるんだ」

「承知しました」


 エメリヒ王も何故か分からないといった風情だ。そうなれば、自分が確かめて来なければならないだろう。


「先程報告があった、輸送第一陣の騎馬がある筈だ」

「はい。近衛騎士団の騎馬が運ばれてきているので、それで向かいます」

「その間に私は左翼へと向かう事にする」

「それは……承知しました。近衛騎士団の指揮はサルキが執ります」


 自分が前線に向かうというのに、エメリヒ王の事を制止する訳にもいかない。それにどうせ自分が散々本陣に留まるように言い残しても、王は必ず左翼へと向かってしまうだろう。なれば言い争いの時間が惜しい。

 この状況把握の為の待機時間で、丁度良く運ばれてきた愛馬に跨り、前線へと向かう。供回りはいつもの者達だが、人数を絞った。サルキを始めとした近接戦が上手い8人だ。


 先程まで小康状態だった雨が、馬に跨り走り始めた瞬間にまた強くなり始める。馬上で速度に乗り受ける雨は、目を開けていられない程痛い。必死に左腕で目元を隠しながら雨の中を進んで行くが、今回の戦いはどこか常に運がない感覚を拭えない。


 途中にいたボウデン総団長と少しだけ言葉を交わして、最前線へと向かう。


「団長!もう間もなく前線です!」

「あぁ」


 状況は混迷の中だった。

 前線指揮官は必死に激励と指示を飛ばしていた。随分と指揮官が居る場所と前線が近く、3つか4つの備えを抜かれると、指揮官まで刃が届いてしまう場所にいる。本来であったらいるべき場所ではないのかも知れないが、雨の中で全く情報を取れない事を防ぐために仕方なくこの場に居るのだろう。

 帝国軍は目に見えて分かるほどに押している。いや、近衛軍が良く耐えていると言った方が良いか…どこかが崩れてしまったら、あっという間に軍が崩壊しそうな危うさの下で何とか耐え忍んでいるように見えた。


 ある程度状況は把握出来た…あとは自分の仕事をするだけだ。

 目元に当たる雨を防ぐために腕を額に回して、目を細めて帝国軍の指揮官を探す。雨の帳の中で時々高い位置に見える人影を捕らえた。味方にも敵にも騎兵が居ない為にその標的は少し目立っている。この歩兵ばかりが乱戦している最前線で騎乗して視界を確保しているとなれば、それは指揮官に違いないだろうという事は安易に想像できる。


 自分も10本のマジックアローを持って来ていた。そのうち1本を手に取る。

 今回の目標は敵指揮官のみで距離は近い…それに自分も馬上で射る事になる。最小限の魔力で十分だ。

 

 鐙をしっかりと踏みしめ、重心を意識して、姿勢を整え、弦に指をかける。


 矢に最小限の魔力を込め始める。少し馬が動くものだから、それを内腿で制御しながら敵影から狙いを外さないように注意しなければならない。随分と神経を使う。


 弓を引く時に鏃に向かって流すイメージに変えて引き切る。降りしきる雨やヘルムから滴り落ちる水滴が、時々目に当たるのがうざったい。


 雨の狭間でゆっくりと揺れる馬上の敵に狙いを定めた…距離は300フィート(約100メートル)程だろう。これくらいならマジックアローでなくても良かったかもしれないと少し思う。


 魔法の放出は、逆刺部から螺旋状に流すイメージで……放つ。


 放たれたマジックアローが残した風は顔に付いた水滴を吹き飛ばした。本体は周囲の雨から風の鎧で守られているかの如く、真っ直ぐ馬上の影へと進んで行く……完璧であった。


 マジックアローは馬上の帝国軍指揮官を貫いて、指揮官はそのまま力なく落馬していく。主を失った馬は暴れるが、従者が何とか制御して逃がさないようにしていた。これで状況が少し変わってくれたらいいのだが……


 確かにエギルは敵指揮官にマジックアローを放っても、代わりの指揮官が出て来て効果が無いように見えたと言っていた。油断は禁物だろう。


 敵が代わりの指揮官を用意しているのであれば、自分達がそれ以上の数を射ってしまえば良い。今、自分の手元には機動力がある。前線から見える敵指揮官を全て撃ち抜いてしまおう。


はじめまして。都津(トツ) 稜太郎(リョウタロウ)と申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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