6.悪天2
「帝国軍だぁ!!敵が来たぞぉ!!!」
方々から声が聞こえ始めたのは雨脚が更に強くなり、200フィート先でさえどうにか見えるといった具合になった時だ。天幕を強く叩く雨の音に紛れて、敵味方の喊声が徐々に大きくなっていく。全方位からの全面的な攻撃である。
「陛下!!帝国軍の襲撃です!全方位から来ています!!」
エメリヒ王へ息も絶え絶えに報告する声を聴いていると、心の中が騒めき始める。
分かっていたことではあるが、この戦いはかなり不利である。この視程ではマジックアローの強さを十分に発揮できないから、大逆転の手も無い……
「耐えろ!耐えだ!!全軍に伝えよ!!!この雨を乗り越えろ!!!こちらの機動力は少ないがこの雨では相手も変わらない。目の前の敵をひたすら倒し続けたならそこに勝利がある!!」
エメリヒ王は立ち上がり剣を取った…自ら戦場に立とうとする素振りだ。
「陛下、お待ちください!」
周りの人間は彼の引き留めに必死だ。今から混乱の最中に入ろうとしている前線に王が向かうと、いざ撤退しなければならない状況になった時に、後退の為の経路が無くなってしまうかもしれない。それに自分達はまだ馬を持って来ていないのだ…機動力も無い。
「私が今前線に立たなくてどうする!?オロール王国の為に命を賭けている者達に顔向けできるか!?」
「お待ちください!!」
エメリヒ王は制止を振り切り、剣とヘルムを片手に雨の中へと飛び出していく。こうなれば近衛騎士達も続かない訳に行かない。外に出ると痛いほどの雨粒が顔に打ち付ける。井戸の水を頭から被ったように、あっという間に鎧の下までびしょ濡れになっていた。
エメリヒ王のみが持ち込んでいる彼の名馬に跨り、前線に向かって走り始める。付いて行く我々も、何とか目を開けてエメリヒ王の姿を見失わないように必死に走る。エメリヒ王は流石に幾分か速度を緩めて我々が置いて行かれないようにしてくれているが、水を吸って重くなった装備と、歩く度に水が溢れ出して来る靴は、それはそれは動き辛かった。
徐々に近づいて来る前線からは、沢山の喊声が聞こえて来る。雨が強くその姿は見えないが、場所も関係なく聞こえて来ることから、混戦の最中の様だった。先程送り出したエギルはどこで戦っているのかも分からない。予定では我々が向かっている中央付近で戦っているはずなのだが…どこも帝国軍の圧が強くマジックアローが放たれたと思しき場所も無い。
「王陛下!!王陛下!!!」
「なんだ!?」
「これ以上前線に行ってはなりません!」
自分の声は確かにエメリヒ王に届き少し速度が緩む。
「せめて一度最前線に顔を出さなければならん!!」
「おやめください!!これ以上進んだ場合に陛下をお守りすることは困難になります!!」
「ならば、ここまで来た意味が無かろうが!?」
確かにそうなのだが、徒歩の自分達には前線に行かれると護衛が出来なくなってしまう。どうにか代わりの策が無いかと必死に頭を回した。ここまで走り熱い体と頭が豪雨で冷やされていく…その過程で頭の中にひとつだけ策が思い浮かんだ。
「有ります!王陛下!!この前線の一歩後ろでオロール王旗と近衛騎士団旗を掲げましょう!!そのまま右翼から左翼まで全体を回るのです!!さすれば「王陛下が我々の為にここまで来た!」と近衛軍の兵士達は思いましょう!!」
エメリヒ王は一度ついて来た近衛騎士達の姿を見回す。
「……分かった。そうしよう」
渋々従うといった態度を見せるエメリヒ王の肯定を確認した。あとは自分達の出番だ。エメリヒ王が安全に戦場全体を回れるように動かなければならない。
「カール、一番背のデカい奴と二番目に背のデカい奴にオロール王旗と近衛騎士団旗を持たせろ、槍を括り付けてでも、周りから見えるように高くしろ」
「この雨だぞ?見えないんじゃないか?」
「周りにいる味方に見えるだけでいいんだ。あとは勝手に全体に伝わる」
「分かった」
そして周りに集まったのは、本日エメリヒ王の周りを固めるためにいた5個近衛騎士団だった。250名の徒歩の近衛騎士が、中央にいるエメリヒ王を守るように周囲を固める。中央には騎乗で目立つエメリヒ王とオロール王国を象徴する二つの旗である。
「王陛下、準備が整いました」
「よし、進め!!」
「王国近衛騎士団!前進、前進、前進!!」
我々の上から降る雨は、未だに我々を濡らし続けていた。
最初は中央から右翼側に向かって進む。エメリヒ王が最前線で戦う味方の少し後ろを、ゆっくりと通過していく。その光景を見た近衛軍の兵士は喊声を上げ、「オロール国王陛下の為に!」「国王陛下万歳」であったりと、前線に響き渡る声で叫んだ。戦っている近衛軍の兵士は、戦場にあって既に興奮状態だ。そこに加わる忠誠心の存在は非常に大きく、エメリヒ王が通った後の場所は明らかに近衛軍兵士の動きが違った。
エメリヒ王はその姿を大いに晒したまま最右翼まで走り抜けた。これによって、若干であるが近衛軍右翼側の戦線は持ち直すことになる。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




