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5.戦へ2


 エメリヒ王は暫く頭を悩ませた。

 彼は確かに戦の勘が良いが、それによって当初の計画を全く無視してしまう事が往々にしてある。しかも今までそれが成功してしまっているのが良くない。自らの感じたものと全体の計画に少しの違いが生じてしまっているのだろう。

 当初の予定はバルグ候が敵水軍を抑えている内に一斉に渡河を行い、帝国領で戦争をすることが決まっている。それに反する余程のことが無ければ、この大戦に於いて大軍の動きを乱すべきではない気がした。


「いや、渡河だな…渡河だ」

「では計画通りに」

「あぁ、それでいい」


 エメリヒ王は考えを頭の奥にしまい込むようにかぶりを振ると、静かに言葉を発した。


 エメリヒ王率いる近衛軍が進撃を再開すると、帝国軍もそれに呼応するように前進を始める。我々がレイトリバー河畔に到着する頃には、帝国軍も対岸にて陣を敷き始めていた。互いにある程度の数が上陸した後に、レイトリバーを壁としてそれに押し付け、包囲することが出来るような形だ。


 つまり、簡単に上陸など出来ない状態。


「さて、こうなることは予想していた訳だが」

「リデル伯とその部下の出番ですな」


 レイトリバーの膨大な水量がゆっくりと流れる音が響く天幕の中で、エメリヒ王、ボウデン総団長とエドガーの視線が自分に向く。


「私めらはいつでも」


 レイトリバーを渡った後、必ず襲い掛かって来る帝国軍に対しての対策がマジックアローであった。上陸隊と共に敵前にマジックアローを持った兵士が現れて、襲い掛かって来る敵軍の指揮官を狙撃し続けるのだ。狙撃に成功したならば必ず連携は乱れる上に敵の攻撃も鈍るので、その隙に更に攻撃を加えて敵を混乱の中に落とし、後続の上陸を援護する。全軍の上陸とは言わないまでも、3分の2程度が上陸できたならば十分互角とも言って良いだろう。そのために全軍にマジックアローを持った15覚醒の風魔導士が配属されている。


 上陸の準備が始まったのは到着から5日後の事だった。

 川に集められた大小の船に分乗し上陸の準備を進める。王国自慢の騎馬隊については船に乗せてしまうと、自分達が乗る場所が無くなる為に安全が確保されてからの上陸だ。それまでの間自分達は機動力を失った状態で戦わなければならない。


 流石にお互いが視認できる状態では周り込もうとしても、敵に知られてしまているのは分かり切っているので、余計な手は使わない。夜に動こうとしても月明かりが無ければ松明を灯さなければならないので、乗船は白昼堂々敵の目の前で行われた。

 こちらの様子を見ても相手も水際で防御しようとはせずに、こちらがある程度上陸した後に殲滅する方針に変わりは無いようだった。それか普通に考えたならば愚かな行動をしている事を警戒しているのか…それは分からない。


「さぁ、お前ら乗れぇ!!どんどん乗り込めぇ!!」

「死地へ行こうか!!帝国を征服しに行こうか!!!」

「オロール王国の為に!偉大なオロール王国の為に!!」


 川岸に付いた船に近衛軍の兵士達が気合の声と共に乗り込む。それが風に乗って我々の元まで届いていた。味方はこれから始まる大きな戦いに相当な気合が入っている。一方でエメリヒ王は船首から敵陣を見つめて微動だにしない。


「陛下、なにかございましたか?」

「……いやな感じがする」


 エメリヒ王は敵陣を右から左へとじっくり眺め続けている。


「渡河を中止いたしますか?」

「……ここで止めると味方の士気が落ちすぎる。それは負けたのと大差ない程にな…中止をするのであればここに到着した時点で話し合いを持った時だった」


 少し後悔の表情を見せた王は、直ぐに表情をもとの厳しいものに戻した。自分も敵陣を眺めてみるが、嫌な予感というのは沸かない。無論、準備万端の敵陣に飛び込むのだからそれなりの不安はある。だが、自分の背中に入れた30本ものマジックアローの存在と、共に戦場を駆け抜けた経験がそれを押し返している。これは妻であるルーシーと共に戦場に立っているような気持ちになれるのだ。

 それに付き従う近衛軍の兵士達も不安は無いだろう。エメリヒ王は王国の内乱で表舞台に出て以来、戦争にただの一度も負けたことが無い。寡兵であっても不利状況であっても、手元にある駒を使って上手く戦い抜いて来た。その駒にはマジックアローを持った自分も含まれるし、貴族も近衛軍も含まれる。そうして、ついに帝国と雌雄を決するところまで漕ぎつけたのだ。近衛軍の兵士もずっと一緒に戦って来た者達で、エメリヒ王に格段の信頼がある。


「陛下、我々が居ります」

「あぁ、そうだな」


 エメリヒ王はようやく少し口角を上げて自分に視線を向けた。だが、その微笑は明らかに不安を隠したもので気になってしまう。


「そこまで不安そうな顔をしているか?」

「はい……少し」

「安心してくれ、これはリデル…お前が隣にいるから見せているんだ。近衛軍の兵士達には見せんさ」


 そこまで言ってエメリヒ王は船首から離れて、船室の中に入って行った。その後ろに自分もついて行く。周囲からは未だに喚声と気合の声が上がっている。


はじめまして。都津(トツ) 稜太郎(リョウタロウ)と申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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