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4.戦へ


 エメリヒ王率いる近衛軍の出発は仲春となった。


 王都の外には近衛軍2万5千が既に野営しており、残りの5千は王城の中から出発することになる。

 曲がりくねった細い道が続く王城の中を5千の兵が通り抜けると、整備された大通りで整列する。先頭にはエメリヒ王と右脇には近衛騎士団総団長のボウデン、左脇には近衛騎士団副総団長であり近衛第一騎士団団長の自分が控える。


 よく手入れされ光り輝く近衛騎士団の鎧は、出陣の様子をひと目見ようと集まった衆目を集め、エメリヒ王の堂々とした姿は王都民に勝利を確信させ、カールが抱えている特大のオロール王国旗は王都民にオロール王国への愛国心を沸き立たせた。


 周りからの大歓声に背中を押される近衛軍は、昼頃にようやく王都から出る門へと到達した。後ろから来る近衛軍は未だに大歓声を浴びている最中であろう。

 騎乗したエメリヒ王は門兵に一瞥をくれることなく、既に開け放たれた王都正門から一歩を踏み出した。その視線の先にはスプルース帝国の軍勢が見えているのかも知れない。



 これだけ壮大な出陣をしても、簡単に進むことが出来ないのが軍隊だ。

 出発日は進軍の為に近衛軍の陣形を整えるのみで終わった。翌日の日出と共にようやく出発となった。


 近衛軍が通る各地の村や街では、王と近衛騎士団の姿をひと目見ようと、沿道に沢山の王国民が駆け付けて、盛大に送り出される。進軍速度は遅くなる上に、王の護衛の事を考える自分達近衛騎士団としてはあまり嬉しくないのだが、それでも我々を送り出すために態々農作業を止めて、泥だらけのまま沿道に駆け付けた王国民を見る度に、その考えは何度も追い出される。

 進軍を続け、帝国領に近づくにつれて、徐々に歓迎度合いが上がって来る。そこに住む国民にとって、帝国の脅威というのは王都に住む者達よりも大きなものであるからだ。今まで近衛軍を送り出す中にいた野次馬のような者達の数は少なくなり、大多数が心から我々を応援する者達となる。



 エメリヒ王率いる近衛軍3万は、37日もの日数を掛けて中央平原の中央を横切り、一度陣を敷いた。


「王陛下、ご報告が」


 軍議の天幕の中には、各軍から到着した使者が並んでいた。


「一人ずつだ。東方公の使いは?」

「ここに」

「報告せよ」

「ムタルド教国はシトロン海峡の向こう側に布陣…バルグ候の海軍に苦戦しているようです。それ以降は膠着中」

「ふむ、次」


 簡潔な言葉で報告を繰り返す各軍からの使者は、それぞれの状況をエメリヒ王に報告している。特に大きな戦闘は起きていないが、カタラーニ侯が対している諸国家連合と帝国の軍のみは、レイトリバーを既に渡河して来ており、戦闘が頻繁に起きている。


 各軍からの使者が消えたところで少し天幕が広くなり、中の温度も涼しくなる。


「カタラーニ侯は上手くやっているな……今のところは状況変わらずか」

「左様にございますな」


 ボウデン総団長がエメリヒ王の斜め前の席で頷いている。

 今回エメリヒ王を守る近衛騎士団を指揮するのはボウデン総団長ではない。ボウデン総団長は、大きくなりすぎた近衛軍をエドガーと共に分担指揮する。大本はエメリヒ王に代わらないが両翼の指揮官がその二人になる予定だった。そのためにボウデン総団長はエメリヒ王の後ろに立たず、エドガーと共にいつもは軍指揮官の座席となる場所に座っていた。

 こうみると自分はエドガーに出世レースで抜かされたように思う。爵位は確かに自分の方が上だが、彼の指揮下にあるのは1万の兵で、自分の近衛騎士団500とは比べ物にならない人数だ。自分は出世について時の運だと思っているので嫉妬はしないが、少し置いて行かれたような気分になっている。


「調略の方はどうだ?」


 エメリヒ王が気に掛けていたのは、王に即位した当初から仕掛けていたスプルース帝国の諸侯に対する調略であった。自分はあくまで後ろから聞き耳を挟んだ程度であまり知らないが、主にレイトリバー渡河の為に河岸を領有する帝国貴族達を調略していたそうだ。一部だけでも裏切ってくれるのであれば、我々にとって一番の難関である渡河に余裕が出る。


「難しいですな…調略を進めていた諸侯は転封されてしまい、いま国境河岸を領有するのは帝国に対する忠誠心を持った家ばかりです。こちらも同じく裏切りそうな諸侯は内乱で死ぬか、転封しているので問題ないかとは思いますが」

「向こうの水軍は?」

「未だ到着せずです」

「こちらも海軍が到着するまで、大きな動きは出来んな」


 レイトリバーは非常に川幅が広い、1マイル(約1・8km)にもなるのだ。下流ともなれば3マイル(約5.4km)にもなる。この川幅はそう簡単に渡れるものではないし、迂闊に渡ろうものなら退路が無くなってしまう。


「そうだなぁ……誘い込むか」


 エメリヒ王は帝国に川を渡らせるつもりらしい。


「当初の計画をもう変更なさるのですか!?あまり、時間を掛けては南方のカーマイン公が危機に陥るかと」


 カーマイン公が指揮する対帝国戦線の南方では、唯一王国が対岸に橋頭保となる城を3つ領有しているために、最初からレイトリバー東岸で戦う。孤立しているとも言って良いカーマイン公の軍に敵が集中する展開は避けたかった。


はじめまして。都津(トツ) 稜太郎(リョウタロウ)と申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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