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6.いつもの小間使い


 ボウデン総団長がこちらに同情にも似た視線を向ける。

 同情するくらいなら小間使いの役割を変わってほしい所だが、立場上絶対に言う事は出来ない。ここ最近、王の小間使いから逃れることが出来ていると思っていたらこれだ。


「マジックアローの方は?」


(これもあった……)


「……丁度その報告をしようかと思っていたところです」

「順調か?」

「一切隠さず申し上げます…全くダメです。ここ数年間訓練を変え、人を変えてみましたが、結局使えたのは7覚醒の魔導士かエルフの一部のみです。自分と同じく15覚醒の魔導士は使えるようになった者は皆無でした」


 口をへの字に曲げたエメリヒ王は、静かに首を後ろに引っ込めて険しい顔をする。叱責が飛びそうな気配はないが、察するに落胆したといったところだ。


「7覚醒の風魔導士は軍において対弓兵防御の要だ。人は出せない。それにエルフか……」

「エメリヒ王が掲げている通り、亜人種を含む全人類種の平等の下では、軍に組み込むのは問題ないでしょうが……」

「数がいないか?」

「その通りにございます」


 エメリヒ王は人類至上主義を掲げる”人間の誇り教”を国教とするスプルース帝国の対抗として、亜人種を含む全人種の平等を宣言した。言葉だけに留まらず、自分が率いる近衛第一騎士団という王の側を最も警護する回数が多い騎士団の半数を獣人等の亜人種が占めている。

 多くは自分がカーマイン辺境伯領から連れて来た獣人と、その知り合いから新たに加えられた者達であるが、それによって公式の場において王の左右を守る者が人間と亜人という組み合わせも珍しくなかった。

 更に亜人種の弾圧を行うスプルース帝国から多くの難民が流れ込んできたことにより、王国の人口を増やす事にも成功していたのだ。帝国の力を削ぎ落しながら、自国の力をつけるのにこれ以上のものは無いが、同時に帝国はいつでも戦争を仕掛ける口実を我々に対して持つことになる。つまりは今と変わらない状況という事。対外的には何も影響はない。

 強いて不安な点を挙げるとするならば治安の悪化や元の住民との軋轢などであるが、それは開拓が進んでいない地域に難民を送り込み、開拓した場所をその者の土地と認める事で今のところは何とかなっている。


「エルフを各近衛騎士団に配置するか?」

「新たな者を育成するより、それが確実かと…ですが」

「数がいない上に、エルフは人間の争いに不干渉を貫くか」

「仰る通りです」


 エルフは基本的に人間に手を貸さない。

 パウラなどは例外であるが、彼女も自分がいなければまた北方樹海へ帰ると公言して憚らないので、本質としては同じだろう。


「分かった。引き続き育成を続けろ、この件はリデルに一任する」

「精一杯務めさせていただきます」


 頭を深く下げて承諾を伝えると共に、これで今回の用件が終わる事を祈ったが、そう簡単に済まないのが現実というものだ。


「もうひとつ」

「はっ」

「リデル、スマルト共和国が共和制を完全に捨てたのは知ってるな?」

「それは勿論、内乱の折はこの場の3人で乗り切ったではありませんか」

「最初の敵はスマルト共和国だ。メイズ大公国との仲を深める彼らは、最早良き隣人では無くなった」


 エメリヒ王が次の標的を言葉にしたのは恐らく初めてであろう。

 自分の耳にはエメリヒ王の周囲の者達から何も届いていなかった。


「スマルト共和国の強みはなんだ?」

「パイク兵です」


 スマルト共和国のパイク兵……20フィート(約6メートル)もあるという長い柄に木の葉の様な穂先が付けられた槍の一種。これをプレートアーマーと鎖帷子を合わせた重装の歩兵が、スマルト共和国の強みだ。

 スマルト共和国の人口は多くなく、常備兵もかなり少ない上に騎馬も少数と戦に弱い要素しかない国であるが、周辺諸国、特に我々オロール王国が仲良くしてきたのには理由がある。このパイク兵というものが騎馬に対して強く、徴集兵の農民であっても簡単に騎馬や歩兵に対して対抗することが出来るのだ。


「そうだ。そのパイク兵を攻略するには何が必要だと思う?」

「……広い戦場、でしょうか?」


 パイク兵の弱点を挙げるとするならば、その歩兵由来の機動力の低さだ。

 特に常備兵の重装パイク兵などは機動力がかなり低い。よってスマルト共和国は狭い隘路や森、街道などを戦場に選び、その機動力に低さを補おうとする。


「その通り、流石近衛第一騎士団長だ」


 取ってつけたような誉め言葉がエメリヒ王から出て来た。

 つまりこの次に来るのは……


「リデル、近衛第一騎士団を率いてスマルト共和国へ出向くのだ。国境線あるいはその奥まで、我々が有利な戦場となる場所を選定せよ」


 そう、小間使いだ。

 だが、今回は簡単に引き受けない。


「我々、近衛騎士団は陛下の御身を固める部隊です。その上第一騎士団となれば、陛下の最も近くを守るべきではありませんか?」

「間違いない。だが、今回は中央軍…王軍を率いて向かうのだ。有力な軍指揮官がおらん上に、近衛も再編してまだ3年だ。この者達が実戦経験と軍指揮官の知識を持っていない事は知っているな?」


 これが現実として近衛騎士団にある問題だ。

 王の直轄軍かつ直ぐに動かせる常備軍としての近衛騎士団は、先の内乱でほぼ全ての人が入れ替わった。それも、自分が戦場経験豊富な軍指揮官たる貴族になる程度には、人材が不足している。


 結果から言うのであれば、エメリヒ王が手足として動かせる中に自分しか適任がいない。


「リデル・ホワイト伯、近衛騎士団副団長、近衛第一騎士団長…貴殿にスマルト共和国の偵察を命ずる」


 正式な王命が下されれば、自分に出来る事は何もなかった。


(またカール辺りが文句を垂れるだろうな……)


はじめまして。都津トツ 稜太郎リョウタロウと申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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