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5.エメリヒ王


 パウラと共にマジックアローについて悩んだ翌日、エメリヒ王に謁見の時間がやってきた。


「入れ」


 王の執務室に直接伺った自分とボウデン総団長が部屋の前で名乗ると、中から短い返事が聞こえた。

 ちなむとすれば、今この時点でマジックアローの進捗についてどう報告しようかと思い悩んでいる最中で、正直他の事はあまり考えられていない。

 こんなことであれば、パウラに任せて逃げるように帰郷するのではなく、もう少し練習内容なんかを考えておけばよかったかと今更ながらの後悔が襲ってくる。


「ボウデンは元気そうで何より、リデルも妻と子に会えて幸せそうな顔をしているな」


 この場に居るのは王と近衛騎士団の団長と副団長のみだ。本来王に対して使われる長ったらしい挨拶は省略されて、少し軽い社交辞令が交わされるだけ。それほどまでに我々とエメリヒ王は長い時間を共有していた。


「陛下もご壮健で何よりでございます」


 そこからしばらく他愛も無い会話が続く。近頃の国の様子についてだったり、市井の様子だったりと普段王が見ることが出来ない場所の意見も、我々の口からあくまで一個人の意見として王は吸い上げる。


 一通り話を聞き終わった王はひと呼吸置き、立ったままの自分達を見上げた。


「王国は内乱から立ち直ったと思うか?」


 これから本題に入ろうという意思を持った王の一言に、意図せず若干背筋が伸びる。


「私共からは何とも」

「構わず申せ」


 ボウデン総団長の遠慮を王は制した。

 意見を求められたのは我々だけではないだろう。おそらく我々の前に(まつりごと)を行っている貴族達に聞いている。


「では、私から」


 ボウデン総団長は、端的に食料はある程度回復した事と、兵力も内乱以前と大差ないほどまで回復したことを話した。元々内乱であったために王国人同士の戦いに抵抗が有ったのか、戦闘での死者はそこまで多くない。


「一番の問題は軍指揮官の不足です」


 その言葉に自分も深く頷いた。

 確かに”王国民”の死者は多くないが、指揮官となる貴族の大粛清が我々の弱点となる。

 今のところは善政を敷いているエメリヒ王が断頭王と呼ばれなくなって日が浅いが、彼が処刑や隠居を命じた者達が歴戦の猛者であったことには間違いないのだ。

 王国の北と南の戦線を支えた大公二人は戦死と病死、政治に長けた西方大公は内乱首謀者として一族丸ごと処刑され、味方として戦っていた東方大公も今はこの世に居ない。

 王家の親戚としての公爵家は他に2つほど家が残っているが、零細で今回の内乱も全く動きを起こさず傍観者となっていた。それに領土も小さく、内乱以前から兵を拠出するのみで前線にも出て来ない彼らが役に立つとは言えない。

 となれば頼りたいのは他の貴族だが、戦闘経験豊富なのは東軍としてエメリヒ王に付いていた東方大公麾下の貴族達と、助命されたカタラーニ侯爵とヴィアネッロ侯爵くらいだった。

 抱える敵国の多さに比べて、完全な頭数不足だ。


「リデルも同じ意見か?」

「はい。全てにおいて同意いたします」


 自分の返事に片眉を上げたエメリヒ王は、ここ1年で伸びた顎髭を撫でて考え始める。


「既にスプルース帝国との不戦協定は切れているな」

「はい」

「帝国の戦線を支えられるだけの指揮官はいるだろう?」


 頭の中に浮かぶのは、今は王の義父となり公爵位を与えられたモーラ公とカーマイン侯、それに助命された二人の侯爵か。頭に浮かぶのはそれくらいであるが、これに王を加えて5軍も編成できるのであれば十分だ。ただしこれは後背面に抱えるメイズ大公国に対する守りを考えていない。


 ボウデン総団長が「頭数は十分ですが指揮官の下が…」と答えようとしたところを、エメリヒ王が手で制す。


「それは貴族達からも聞いたよ。だが、実戦を経験しなければ成長はしないだろう?」

「もっともです」

「そうだな……カタラーニ侯をメイズ大公国とムタルド教国の備えに、北からモーラ公とヴィアネッロ侯、カーマイン侯を帝国への備えにしよう」


 これであれば、経験豊富な各人が散らばり防衛だけであれば十分出来るであろう。と、思った後に予想外の言葉が出て来た。


「そして私が遠征軍を率いる」

「お待ちください!」


 ここでとっさに声を上げたボウデン総団長は優秀だ。自分は話の急流に置いて行かれそうになっている。これは次の戦争につながる話だったのだ。


「今決めた事だ。貴族達とも話をしたし、君たちの考えを聞いて分かった。遠征軍に回す人材がいないのであれば、自分が率いるしかあるまい」

「陛下!陛下は今、オロール国王なのです」


 自分とボウデン総団長が必死に止めようとする言葉は、エメリヒ王に届いていない。


「各貴族を招集せよ、王国会議を開く」

「お待ちを!王が…「先代、父に当たる獅子王も軍を率いて各地を征伐していただろう?」

「それは、20年に渡り力を蓄えた国と歴戦の指揮官がいたからで」

「その指揮官は実戦を経験せねば出来上がるまい」


 王は既に心を決したようだ。内乱が集結してすぐに遠征を開始しようとしていた事を考えるのであれば、長い時を待ったとも言えるが、それにしても早急な気がした。


「いつかは動かなければなるまい。それも早いうちに」

「早すぎませんか?」

「帝国との戦争が再開されることとなれば、もはや遠征も容易に行えない。今しかないのだ……王国会議を招集せよ」

「……承知いたしました」

「あとリデル、君に話が」


 エメリヒ王と目が合った瞬間に嫌な予感が過った。

 この目は見た事がある…雑用を頼まれるときの視線だ……


はじめまして。都津トツ 稜太郎リョウタロウと申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。


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