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4.パウラの怒り


 また馬を駆り、王都街壁の北にある弓兵訓練場へと向かう。

 堤防の坂を利用して作られた弓兵訓練場は、王都の外側にある不便さをを除けば広さも設備十分なものだった。


 訓練場の中に入ると、端の方で話し合っている弓を手に持った一団がいた。その周りには兵士然とした感じのしない者達も多数。その一団の中央には見覚えのあるエルフがいた。

 彼女らは議論に集中しているのか、近づく自分に全く気が付かない。


「パウラ」


 呼びかけに反応したパウラは恋人に名前を呼ばれた女性のようにこちらに小走りに走って来て……「これムリなんだけど!!扱える人いない!」と、顔に少し怒りを浮かばせながら言う。


「えっと、「リデルが簡単だって言ったんでしょ!?自分で教えたら?私は無理!!」


 さらに捲し立てられ、言葉を挟む隙間もない。出会った頃と比べ物にならない元気さだ。

 家族と故郷をスプルース帝国の人間に奪われたパウラは、人間と言葉を交わす事を避けていた。その中で自分には比較的心を開いていたのだが、それは15覚醒であるが風魔法を使う自分と、種族として風魔法を使うエルフの匂いが似ていたからだそうだ。自分達普通の人間には分からないのだが、彼女には魔法の匂いが分かるらしい。


 自分に対して恋人というよりは、失った家族の代わりとして自分に心を寄せていたパウラであるが、内乱が収まるに伴い自分に付いて王都まで来た。結果的に彼女の故郷があった北方樹海から離れたのがよかったのか、徐々に周りの人間と交流を持てるようになった。そこで王都の第一近衛騎士団付の弓兵として身分を用意し、色々自分の仕事を手伝わせている訳なのだが……


「落ち着いてくれ。どうしたんだ?」


 内乱が小康状態になり、カーマイン辺境伯領に一度帰った時に、パウラに15覚醒の風魔導士を集めるように頼んでいた。ここに居るのは集めた人間と、パウラが声を掛けたエルフに、兵器開発室の人間たち。つまり、その仕事になにかあったのだろう。


「リデルは訓練したらマジックアローくらい直ぐに使えるようになるって言ったでしょ!?」

「あぁ、言ったな。実際パウラは使えただろ?」


 マジックアローは妻となったルーシーと出会ったきっかけだ。

 彼女が魔力を貯める魔石と、旧カーマイン辺境伯領の鉱山で偶々採れ始めた魔法を増幅させる増幅石を組み合わせてた事で出来上がった、風魔法使いであれば風魔法を込める事で並外れた強弓を放てるようになる矢。これは7覚醒よりも魔力量に劣り仕事の場所が無かった15覚醒の風魔法使いにとって、軍隊にその責を確保できるような代物だった。


 自分もこのマジックアローを自分以外の者が使えるようになればと、パウラに15覚醒の風魔導士を集めさせた。実際正式に王命も下り、王の名の下に研究と開発、訓練が始まると、パウラを始めとするエルフは直ぐに使えるようになったのだが、他の15覚醒の魔導士は始めて2年たってもまともに使えるようにならなかった。


「だから、私たちは使えるよ!でも、人間の風魔導士が使えなきゃ意味ないでしょ?」

「それはそうなんだが……」

「もう希望が見えない!無理!ちょっと一回リデルがやって見せてあげてよ!」


 パウラに背中を無理やり押されながら輪の中央に出されて更に注目を浴びた。皆口々に「おぉ、近衛騎士団長殿」とか「見本らしいぞ」などと、やるという前から好き勝手言ってる。


「…一回だぞ」


 体に通していた自分の弓を手に持つと、机の上にあったマジックアローを一本手に取って番えた。目標は200フィート(約60メートル)先の木で出来た人型の的だ。この距離なら普通の矢でも外しようがない。


 重心を意識して、姿勢を整え、弦に指をかける。


 弓を持ち上げ、矢に最小限の魔力を込め始める。


 弓を引く時に鏃に向かって流すイメージに変えて、引き切る。


 シャフトに玉が付いている分少しだけ長く重い、バランスが難しい。


 狙いを200フィート先の的に定める。


 魔法の放出は、逆刺部から螺旋状に流すイメージ。


 そして放つ。


 自分の手から離れたマジックアローは確かに顔に打ち付ける強い風を残して、真っ直ぐ的へと直進した後、丸太の胴体に大穴を開けた。イメージ通りのマジックアローの使用感だった。


「こんな感じだ」


 周囲の感心するような声に思わず格好つけたような言葉を言ってしまった。


「じゃあ、次にこの人たちのを見て」


 パウラに言われて進み出たひとりがマジックアローを放つと、あらぬ方向に飛んでいく。次に呼び出された人はほぼ風魔法を貯めることが出来ていない。その次は魔力を込め過ぎて、周りに集まった人間(勿論自分含め)を吹き飛ばした。


「ゲホッ!ゲホッ!…ね?分かった?これが2年間みっちり訓練した成果だよ」


 口に入った砂を地面に必死に吐き捨てながら、自分に仕えて他の人間に使えない理由を考える。

 逆か、使える理由を考えよう。エルフはそもそも風魔法と共に生きる寿命の長い種族で、自分は15で覚醒した時から自分が涼む為や掃除のゴミを飛ばすのに使い続けて来た。本来だったら15覚醒の風魔導士が就く仕事などなく、魔法を使わずに過ごす人も多いだろう。つまりは練度の問題だと思って2年も人を集めて訓練し続けている訳だ。


「うーん、時間が解決しそうな気もするけど」

「時間かけていいの?」

「いや……」


 王命は次の戦争までにマジックアローを使える者を増やす事だった。

 これでは達成出来そうもない。明日の謁見が憂鬱になってきた。


はじめまして。都津トツ 稜太郎リョウタロウと申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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