3.王都オレンジ
ほぼひと季節ぶりの王都の様子はかなりの変化があった。
既に内乱の跡は残っていないと言っていも良いだろう。城壁も塔も尖塔も元通りになっている。自分達が休暇に入る前には修復中であった場所も既に修復が終わっていた。
ここ3年で王都の活気は元通りに戻っていて、特に平民が住む場所に至ってはここ数年全く王国の戦争が無かったお陰で、人も増えていた。
一方、王都内の旧城壁の跡に作られた道を越えた先、細い道が複雑に入り組み、至る所にポートカリス(落とし格子)を備えた貴族区と呼ばれる場所は以前とは程遠い状況だ。それは、ここに別邸を構えていた数々の地方有力貴族の取り潰しと、特に大きいのは西方大公の下で政治的な権力を握っていた法衣貴族が、ほぼ家ごと断絶したことによる。
西方大公の下にあった法衣貴族たちは、多くは王家の直轄領を細かく分け、代わりに管轄する”城代”で、いわば、今の自分と同じような立場であったのだが、その数が100を超えるという多さで、彼らは軍隊を持たない代わりに、政治力があった。これが、地方貴族と法衣貴族の対立をずっと招いている。
そして、エメリヒ王…当時は妾腹のエメリヒ第三王子であったが、彼の追放も西方大公と法衣貴族の力による。その為に主流派閥でなくエメリヒ王と連絡を取っていた僅かな法衣貴族を残して、残らず処刑された。
残った法衣貴族も今はそれぞれ土地を持つ貴族だ。よって、今は法衣貴族と呼ばれる者が王国内に居らず、彼らが持っていた王国の政治的な役割は、各貴族に分配されている。
「お帰りなさいませ、団長」
山の斜面に建てられた貴族の街を抜けると、王城の前で自分達を待つ者がいた。
素早く自分の馬の手綱をとり、先導していくのはトルガーの代わりに副団長を務める事となったウラシヌだ。戻った近衛騎士団長を出迎えるのは副団長の役目という伝統に則った形だ。
「うむ、変わりなかったか?」
「つい先日、我々の鎧と武器が届きました。あとは……少し慌ただしいですね」
軽くこちらに視線を向けたウラシヌと目が合った。恐らく彼もこれから何が起きようとしているかしっているのだろう。その為の準備に時間を取られているといったところか。
「分かった。王の警護は明後日からだな?」
「はい。ですが、明日の昼に王が来るようにと」
「……うぅん?そうか分かった」
いったい何の用だろうか?
自分の立場も正式に敬意を払われる地位であり、ここのところは平和であった為に、小間使いのような真似はされていないが、いきなり近衛騎士団の総副団長であり、近衛第一騎士団の団長の自分を呼び出すとは何かあるに違いない。
「あとは……」
「どうした?」
言葉に詰まり苦笑いするウラシヌとまたもや目が合う。
「そのー、パウラ殿がお怒りです」
「……分かった。荷物を置いたら直ぐ向かうよ」
「北の弓兵訓練場にいらっしゃいます」
「馬はそのままにしとくように頼む」
その他にもあれこれと話しながら近衛騎士団の宿舎についたところで馬から下りる。カール達がそのまま「団長!また明日!」と荷物を抱えて宿舎の中に入って行くのを見届けて、自分はフレディと共に自分の部屋へと向かった。この二人は近衛騎士であり自分の直属の従者のようなもので、常に自分の側につく。
「フレディ、荷物は俺の部屋に置いておいてくれ」
「了解です」
そのまま一度外に出ると、今度は帰還報告の為に近衛騎士団舎へと向かう。王城の中でも端の方にある団舎は、自分達の宿舎から大して歩かない。第一から第四までの近衛騎士団の特権だ。
「リデル・ホワイト、只今休暇より戻りました」
近衛騎士団総団長室となる一室には、ボウデン伯が書類に目を通していた。
「うむ。家族はどうだった?」
「元気でした。子供たちも少し見ない内に大きくなっていて、驚くばかりです」
「そうかそうか、それは良い」
ボウデン総団長は子供がなんと8人もいる為に、良く分かっているといった風に頷いていた。そして思い出したように書類から顔をあげる。
「ところで明日の呼び出しは聞いているな?」
「はい」
「私も呼ばれている。向かう時にここに寄れ、共に向かうぞ」
「承知しました」
総団長に挨拶を終えた後は、自分の執務室である”近衛第一騎士団長”の部屋に向かう。扉には共に副団長の文字が刻まれた石板が張り付けられていて、自分の職務の重さが部屋の前に立つだけでも分かる。
(あぁ、また家族と分かれて仕事か)
と頭の中に浮かぶのを抑えて、扉を開け放つと最後に来た時以来変わらない飾り気のない部屋が有った。机の上に置かれた書類は積み重なっており、重りの為に置かれた石とその下の書類の山で、冬の岩山かと思う状況だ。
「うん、明日からやろう」
一目見ただけで、先程まで抱えるつもりだった責任もやる気も失せた。ただでさえ長旅で疲れている上に、この後はパウラに何か小言を言われるのだろう。
一度入った自分の執務室という、5年前だったら考えらえない程凄いものに、大した時間滞在せず後にした。そして今度は無駄に多い使用人の人数が必要な王都の自邸へと、眠る為だけに帰る事になる。(どうせならこちらに家族を呼んでしまおうか)と考えない事も無い…諸般の事情が無ければの話だが。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




