15.マイゼーナ城塞攻略戦12
「本軍は不甲斐ないですな」
エドガーは自分に向かって悪戯っぽい笑みを浮かべながら、寝つきを良くする酒を持ってきた。我々は城内へと突入した後に、臨時の本陣としている兵舎の一室の中だ。
「敵もマイゼーナ城塞が抜かれることになれば、亡国と言っても過言ではないからな。そりゃ必死に抵抗するだろう?」
「まさか南西側の兵士を見捨てるように、城内の通路を封鎖してくるほどだとは思いませんで」
「相手も覚悟が決まっているという訳だ」
近衛軍4000の兵は城内に流れ込んだ……が、それ以降は進展が無い状況が続いていた。マイゼーナ城塞守備兵は城内の通路を瓦礫と大量の物資などで無理矢理封鎖し、それを守る形で近衛軍の侵攻を止めていた。
本来の目標は城内から南東側の正門を開放し、本軍を中に入れるつもりだったのだが、それが叶わないためにマイゼーナ城塞の南西側を占領するにとどまっている。
「もうそろそろ打開したいところですな」
「もう10日になるからな、このままだと夏が終わっちまう」
「リデル伯の、例のやつ使いますか?」
エドガーの目線は自分が持つ矢筒に注がれている。
「マジックアローか……使いどころがないんだよな」
「瓦礫を吹き飛ばせばいいのでは?」
「いや、瓦礫みたいなバラバラで荷重の乗ってないものは威力が分散されるし、範囲も小さいから大した効果が出ない。確かに敵兵は驚くかもしれないが、全力で防衛に来られたらそれ以上出来ることが無いよ」
1本で戦況を動かす事の出来るマジックアローにとって唯一の弱点と言って良い点だ。雑多に集まった物体に対しては大して効果が無い。よってマジックアローが有効でなく、周りに信頼できる部下達が居ない自分は、本当にこの場ではただの一人の男になっている。
「土魔導士を使ったらいいんじゃないか?」
「呼び戻しますかぁー…本軍に返しましたが、結局向こうでは有効に使えていないみたいですし」
「瓦礫と同じ高さまで駆け上がる坂道を作れたら、大分楽になるんじゃないか?」
「あの足場の悪い中で降りる時が心配ですが」
「だが手を打たない事には、始まらないからな」
「仰る通りで」
本軍に戻った土魔導士の部隊を戻すために更に5日、6日目から土魔導士の力を利用した攻めが始まったが、これが上手く行かない。坂を作って瓦礫の山に駆けのぼるまでは良い。その後の足場が悪すぎて、足並みがそろわない上に負傷者も出る始末で、向こう側で構える敵兵に一網打尽にされてしまう。これを封鎖されている全ての道で繰り返したところで、一時撤退となる。
「こいつは、無理ですね」
「そうだなぁ……」
瓦礫の山を登り何とか帰還して手当てを受ける数人を見て、エドガーは頭を抱える。
「地道に行くしかないか?全ての道の横にある建物一つ一つを制圧して、壁を破壊して前に進む。確かに大人数は動員出来ないが、攻め手が増えるぞ」
「いやーーー、やりたくないんですけどね」
「犠牲は増える上に、住人の反感は買うしな…だが、それはこのまま攻め方を変えなくても変わらないぞ」
「……分かりました。冬に入る前に終わらせるためにやりましょう」
翌日からは近衛軍の兵士が各地に分散して、膨大な時間を掛けて一つ一つの家を制圧していった。一方の本軍はと言えば、力攻めに出ても全く揺るがないマイゼーナ城塞の力攻めを諦めたところで、こちらに糧食と兵士を送ってきた。
自分はマイゼーナ城塞の攻略にこれ以上関与することが無かった。
傍観者と言っても良い。
よって結果だけ言ってしまう事にしよう。
マイゼーナ城塞内にエメリヒ王率いる本軍が入城したのは、秋も中頃になった頃だった。
確かに一つ一つの家屋を制圧していく方法は上手く行ったが、多くの犠牲を出してと時間を使った。この戦法を何回も繰り返すと、当然相手も塞いだり兵士を伏せたりと対策してくるので、また犠牲を増やし、時間を使う。
それでも一歩ずつではあるが前進を続けた我々は、マイゼーナ城塞のほぼ全域を制圧し、残りはキープを含む中央部のみとなっていた。
「半年もかかったな」
エメリヒ王は炎上するキープを眺めながら呟いた。
今年の初の雪が降り始めた初冬に、ついにマイゼーナ城塞の陥落となったのだ。3つの季節を越えたが、この規模の城塞を攻略したとなれば、かなり早い部類であろう。実際にメイズ大公国の反対側で同じような城塞の攻略を行っている東方公が、城塞を落とせたという報告は来ていなかった。
「メイズ大公国の冬は深いですが如何いたしますか?」
「だからこそ、速攻をする。素早く領内を制圧して、アイボリー城塞の攻略を助けなければな……マイゼーナ城塞では、メイズ大公を見つけたという報告は受けていないからな」
メイズ大公はマイゼーナ城塞には居なかった。脱出する時間は幾らでもあったから、既に脱出済みだろう。あと有力な拠点になる場所と言えば、メイズ大公の居城であるメイズ城若しくは、アイボリー城塞だけといったところだった。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




