13.マイゼーナ城塞攻略戦10
朝の薄明の中で付近を静かに見回すと、全員の視線がそこに存在する門に集中していた。
マイゼーナ城塞の予備補給路に繋がる門…それは正面と背面に比べて良く言えば簡素なもの、悪く言うのであれば粗悪な門であった。確かに鉄で補強されているが、全体として木造であり周囲の石積みとの境目も歪な形となっている。初めて見た印象だと、急いで”後付け”した城門といった感じだ。
(弱点ですね)
(そうだな)
フレディと視線のみで言葉を交わすと、もう一度観察を始める。
門の両側には塔があるが、城壁の向こう側に後付けした形だ。奥側に少し高い壁が見えている事から奥にも、もう一つ城門があるのだろう。城壁の上にいる兵士は多くない。
(十分見た、退こう)
まだ暗い時間のうちに離脱しておきたい。
我々は予備補給路の城門から離れて、味方の陣へと動き始めた。
マイゼーナ城塞に警戒させないためにこれからは極力目立たないように、多少動きが遅くなろうとも慎重に行動を続けた。
結果として更に8日の時間を要してようやく森林を抜けることが出来た。エメリヒ王に偵察を命ぜられ、出発してから22日目の事だった。それから更に1日かけて帰陣する。その頃には自分達は緊張から解放されて、疲労がどっと出ていた。
「お前らは良く休んでおいてくれ、俺は陛下の元に報告へ向かう」
途中で見つけた部下である近衛第一騎士団の騎士達と言葉を交わしながら、エメリヒ王の元へと向かうと、待ち侘びたのか進展が無い事に苛立っているのか、少し疲れた表情のエメリヒ王が、軍議の天幕で自席に座っていた。
「王陛下、只今偵察より戻りました」
「先に帰ってきた者達から大体は聞いている…ご苦労であった。どうであったか?」
「一つだけ…マイゼーナ城塞の南西側に予備の補給路がありました。そこから繋がるようにマイゼーナ城塞に粗末な後付けの城門も」
「決め手になりそうか?見ての通り正面からの攻めに進展は無い」
エメリヒ王の言葉通り天幕から見える景色に対して変わりはない。城壁に浴びせられるトレビュシェットや投石機は確かにそれを削ってはいる。だが、この調子であればマイゼーナ城塞が陥落するのは、来年の同じ頃になってもおかしくない。
「城門自体は弱く試す価値はあるかと……ただ、敵の哨戒網は十分に張り巡らせられています。奇襲というのは難しいでしょう。場所としても攻城兵器を持ち込むことは非常に厳しいかと」
「近場で攻城兵器を作れそうな場所は無かったか?」
「ありません…本当に山の間を縫うように馬車が通ることのできる道が存在している程度です」
エメリヒ王は考えるように上を向いた。
「その道にはどれくらいの兵士が展開できる?どれくらいの兵士が有れば落とせるか?」
それは近衛軍の指揮官であるエメリヒ王の仕事ではないのか?と言い返したくなるところを我慢した。疲れからかどうにも心が荒んでいるのかも知れない。考えている素振りをしながら半分の時間を心の安定のために使い、残りの時間を使ってゆっくりと頭を回す。
あの道は横に7~8人並ぶと一杯になる……つまり戦闘となれば5人が限界といったところだろう。城門前にも場所は無かった…補給の際には一度城内に引き込んでから物資の入れ替えをするのだろう。よってそこに展開も出来ない。5人だけが交代で矢面に立ち続けるなど、全く以って城攻めの悪手だ。
「道自体は横に5人が限界です。山の中にも展開は出来ますが……正直なところ地形が悪すぎるので、慣れている者達でなければまったく思い通りにいかないかと」
「そうか……」
エメリヒ王がまた考え始める表情を見つめていると、自分の頭の隅に何かが引っ掛かった。
記憶にあるのは…ホリゾン平原での2重包囲戦だった。
「土魔導士を集中導入してはどうでしょう」
「……ほう?」
ライラック王が用いた土魔導士の集中運用だ。
攻め辛い地形なのであれば、地形ごと変えてしまえば良い。城壁の上まで地面を押し上げて、道を繋げる事までは出来ないが、周辺の地形を変えて城門の前だけでも兵士を展開できるようにする。そうなれば人数有利を押し付ける事が可能になる。
「アリだな」
「土魔導士も攻めに使える事はライラック王も証明しましたから」
「あとは、こちらで練っておこう。ゆっくり休んでくれ、次の出番は部隊の先導だ」
最後にヨスの描いた大量の地図と、所見を書き記したメモを警護の近衛騎士に渡して軍議の天幕を辞す。体も洗わずに倒れ込むように自分の天幕に入った後の記憶は無い。
そこから数日はいくら遅く起きようとも良い生活だった。エメリヒ王の配慮で自分達近衛第一騎士団のは完全な休息を与えられたのだ。と言っても件の予備補給路からの攻略準備が整うまでの間であったが、それでも自分にとっては、戦場に入ってから久しぶりにゆっくりとした気分を味わっている。部下たちも、そろそろ晩春に入り、気温が上がって来ているにも関わらず、焚火の周りで集まって時間を潰していた。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




