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9.マイゼーナ城塞攻略戦6


 近衛騎士達の被害は少なくなかった。

 最近、近衛騎士になったばかりの若者が鹿の魔獣の角で鎧を貫かれて、そのまま地面に叩きつけられて死んだ。もう一人は東方大公配下東方騎士団から来た男がいた…そいつは風魔法で吹き飛ばされると当たりどころが悪く、折れた木の枝に叩きつけられてそのまま串刺しとなってしまった。亡くなったのはこの二人。

 小さな傷を含めた負傷者でいうのであれば全員と言っても良いが、特に重症な骨折や深い切り傷を負ったものは4人にもなった。これで深刻なのがこの4人に戦場の医者である火魔導士と対弓兵防御の要である風魔導士が含まれていた事だった。これでは治療が出来ない上に、近衛騎士団の戦闘力まで下がってしまっている。更に脚や腕をやられて上手く動けない者は7人出てしまっていて、近衛騎士団は戦力を激減させていた。


 この現状に思い悩んでいると、すっかり存在を忘れていたメイズ大公国の哨戒兵の処理を終えたフレディとテリアが戻って来た。二人はこの状況を苦々しい表情で見ながら近寄って来る。


「こちらは大丈夫すか?」

「いや、かなり悪い状況だ。そっちは?」

「これを見て下さい」


 フレディが手に持っているのは2枚の黄色い布だった。メイズ大公国は真実の色教において、イエロー派だ。よってメイズ大公国の兵士は国色である黄色系統の物を身に着けている者が多い。


「間違いなくメイズ大公国の兵士だな」

「はい、それに十分隠蔽に配慮された哨戒ポイントでした。脱走兵などではないでしょう」

「うーむ…敵は近いか」


 敵の哨戒ポイントがある地点は、守りが薄いか備える必要があるか、近くに街道が有ったりするかのどれかだ。メイズ大公国にとって弱点となりうる場所が近くに存在する可能性が高い。


 自分達にとって今一番の問題は鹿の魔獣との遭遇によって、戦力が激減してしまったところだ。13人もの部下がこれからの行動に付いて来れない事が分かり切っている。今、頭の中に浮かんだ言葉は”中止”と”撤退”だった。


「皆を集めてくれ。負傷したものや手当をしている者はそのままでいい」


 集まった者達は努めて何事も無かったかのような表情をしているが、その裏に隠れた不安が見て取れた。これから王から与えられた任務を続けるのか、撤退するのか。続けるのであればこの人数で大丈夫なのか。不安を抱える要因は様々ある。


「聞いてくれ!負傷者と大義に身を捧げた者を味方の陣へ返す」


 負傷している者は少し安心した目を、していない者は不安な目を一瞬覗かせる。だが、彼らも誇り高き近衛騎士としての自覚がある。直ぐに真剣な目を見せた。


「負傷した者だけでは厳しい道のりだろう…護衛を付けてウラシヌを部隊長として自陣へもどす」

「了解」

「次に私と共に任務を続ける者…サルキ、カール、ライアン、フレディ、アントン、ソルディ、カンブリー、セッター、テリア、ヨス以上だ」


 数年前、カーマイン辺境伯領時代からの長い付き合いのメンバーに、地図作成係のヨスを加えた11名だ。これくらいの人数が隠密で動くには丁度良い。


「他の者はウラシヌ指揮の下で自陣へと帰還せよ」


 自分の言葉に表情を動かした者は居ない。

 それぞれがそれぞれの仕事を全うしようとする以外の気持ちは見えない。


 それからの行動は迅速だった。

 最初にウラシヌの指揮で負傷者と死者を即席の担架に乗せて、護衛と共に動き始める。それを見送った自分達は小さな円となって、昔馴染みの者達と顔を突き合わせる。


「団長、また俺達でやるのか?」


 カールは懐かしさを感じているのか、半笑いでこちらを見つめる。


「そうだ、慣れてるし懐かしいだろ?」

「かもな」

「今回は交戦するつもりは無い、この人数では威力偵察は捨てだ。マイゼーナ城塞の弱点になりそうな場所と、補給路を見つける事だけに集中する」

「「「了解」」」


 我々11人は直ぐに南東へと歩き始めた。

 ヨス以外は森や山に慣れた者達だ。今まで近衛第一騎士団として行動していた時よりも、圧倒的に速い速度で森の中を進んで行く。途中で遅れそうになったヨスの荷物はカールとテリアとセッターが分担して持った。

 彼らの顔を見ていると、この敵地の中でも安心を覚える。この頼もしい近衛騎士達は、自分と共に様々な死地を抜けて来たのだ。この男達と一緒ならばどこへでも進み、必ず帰ることが出来るという確信を持てた。


 我々は日が落ちかけるまで針葉樹林を進んだ。

 足元の柔らかい土を踏みしめる度に香る土の匂いに気が付いたのは今日が初めてだった。これまでは50人の部下に対して気持ちを配りすぎて周囲の環境に注意を向ける事が出来ていなかったのかも知れない。


「ここで野営だ。明日にはマイゼーナ城塞に着くだろう…今日のうちにゆっくり休んでおけ」


 こうして偵察に出発して5日目の夜を迎えた。

 共に動く人数は半分以下になったが、頼りがいのある者達も残っている。十分に互いの事を知り、戦い抜いて来た戦友たちだ…これ以上に心強い事は無いだろう。


はじめまして。都津(トツ) 稜太郎(リョウタロウ)と申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。


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