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8.マイゼーナ城塞攻略戦5


 もと来た方向へと走り出した自分の目には空中に舞う小さな黒い影が見えた。

 何かは分からないが嫌な予感だけはする。


 自分が全速力で森の間を走り抜ける間も先程の叫びが聞こえている。距離が近づくごとに喚声が塗り重なるように響き始めた。


 そして自分の視界に飛び込む大きな影と、それが持つ大きな角で跳ね上げられる人の影。


 2頭の鹿の魔獣だった。


 2頭の鹿の魔獣が、巨大な角で近衛騎士達を木の葉を引っかけて放り投げるが如く、弾き飛ばしていた。その様子をみて自分の一切の躊躇は消える。今すぐにマジックアローを使わなければ、鹿の魔獣が部下たちを殺す事は火を見るよりも明らかだ。マジックアローを使ったことで、自分達の存在が露見するなんて最早関係ない。


 徐々に近づく鹿の魔獣の大きさに体が少し震えるのを感じた。

 体高は近衛騎士の2倍以上の高さ、角は大人一人が両手を広げても足り無さそうな立派なもの。角は鋭利ではないが、あの巨大な体躯で突進されたならば簡単に鉄の鎧を貫きそうだ。もう一頭には角は無い…恐らく雌だ。そちらは角が無い代わりに魔法を使っていた。遠くでも聞こえるその風の音は、たった今持ち上げられて吹き飛ばされた近衛騎士に使っていた魔法だろう。脅威を十分認識している樹海熊や、海の上のウミヘビはまだ納得できる。だが、いつも自分達に狩られる側である鹿が、自分達を倒そうとしているのを見ているとどうにも少しの恐怖が芽生える。


 近衛騎士達はこの巨大な体躯を誇る鹿の魔獣に善戦していた。既に弾き飛ばされて地面に伏している者もいるが、樹木を使い巧みに身を躱したりだとか、手持ちの盾を身代わりに弾き飛ばさせたりだとかで何とか凌いでいる。


 味方の声が十分届き、ふたつの魔獣の巨体の全体が見えるところまで来た。

 マジックアローを2本矢筒から引き抜き、そのうち一本を弓に番えた。最初に狙うのは近衛騎士の盾を弾き飛ばした角がある方…オスだ。


「お前らぁ!!距離を取れぇ!!!!」


 自分の声は確かに届き二頭の魔獣から距離を取り始める。が、魔獣から距離を詰めてしまう為に上手く離れることが出来ていなかった。これは鹿の魔獣の頭を吹き飛ばすのではなく、射抜くイメージで魔力を込めなければ、味方の近衛騎士にまで被害が及んでしまいそうだ。


 足場となる場所に根があった…それを避けて重心と姿勢を整え、弦に指をかける。


 弓を持ち上げると背中が汗ばんでいるのを感じた。これは恐怖心なのか走ったからかは分からない。


 今回は頭を射抜くことが出来たらいい…矢に最小限の魔力を込め始める。


 弓を引く時に鏃に向かって流すイメージに変えて引き切った。


 目と鏃で鹿の魔獣の姿を追う。狙いは大きく黒い目だ…その目は見つめていると飲み込まれそうなほど深い黒を持っている。すこし意識を逸らすために狙いを目の下につけ直す。


 魔法の放出は、逆刺部から螺旋状に流すイメージ。


 そして放つ。


 自分の手から離れたマジックアローは顔に感じる強い風圧を残して、目にもとまらぬ速さで狙い通り鹿の魔獣の目の下に向かって吸い込まれるように直進する。足元の地面は少し濡れていて土埃を巻き上げていない。マジックアローの軌道が良く見えた。

 狙い通りの場所に吸い込まれたマジックアローは、鹿の魔獣の頭に大きな風穴を開けた。頭を下げ始めて突進の体勢に入っていた鹿の魔獣は、その意思が突然なくなり、体が放り出されるように少し前に、地面を抉りながら大きな音を立てて斃れた。


 自分はその姿を確認して、もう1本のマジックアローを矢に番えて弓を引く。


 今度は魔力を込めながら、メスの方に狙いを定めた。


 メスは突然倒れたつがいのオスを不思議そうに…呆然として眺めている。

 一瞬頭の中に鹿にも死を悼む感情があるのだろうかと思案し、それを直ぐに追い出した。今の隙であれば風魔法を発動していないはずだ。


 狙いは同じく目の少し下あたりに落ち着かせると、逆刺部から螺旋状に流すイメージでマジックアローを放つ。


 またもや真っ直ぐに進んだマジックアローは、思った通りの場所に大きな穴を開ける。呆然としていたメスの鹿の魔獣は、その場に静かに…だが重く大きな音を響かせて崩れ落ちた。


 鹿の魔獣が倒れた瞬間に一気に音と世界が戻って来た気がして、ゆっくりと息を吸い込んだ。

 周りの音は少ない。近衛騎士達もその場で静かに息をついている程度で、あとは静かに風で揺れて葉が擦れる音がした。


「お前ら無事か!?」


 カールが遠くで叫んだ声が聞こえた。それに合わせて自分も立膝から立ち上がり、部下の元へと駆け寄って行く。


「こいつらの子供は?」


 人の二倍の大きさの魔獣であれば、子供でも人の大きさぐらいは有りそうだ。そんな脅威が周りにうろついているかもしれない事を気にしない訳に行かなかった。


「最初は親子で一緒にいたんですが、この2頭の魔獣が自分達に攻撃を始めると森の奥へ行きました」

「くそ…逃がしたか」


 ウラシヌの返答に悪態が出る。出来る事ならここで仕留めておきたかったが、森の中で鹿を追いかけるのはそれだけで数日必要になる。今回の偵察の時間で出来る事ではない。再び襲撃して来ない事を祈るしかなかった。


はじめまして。都津(トツ) 稜太郎(リョウタロウ)と申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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