7.マイゼーナ城塞攻略戦4
出発から5日目、我々は山の麓に流れる小川の側から出発した。
今日は西南方向に針路を取りながら、マイゼーナ城塞の視認を目指す。そこから視界の端にマイゼーナ城塞を捉え続けて、弱点を探っていく方針だ。
川沿いに進むことが出来た為に若干楽に動くことが出来ていた自分達だが、楽なことがあれば次に厳しい現実が迫るものだ。
「団長!ちょっと来てください!」
先頭の右側を担っていたテリアが自分を大声で呼ばわった。つまりは敵兵でないから…魔獣か?と考えながら彼の横に並ぶ。
「どうした?」
「これっす」
彼が手に持った枝で示すのは”糞”である。前回見た鹿の魔獣の糞のような大きさのもの……
「多いな……2頭分?3か?」
「それにこっちも」
「こっちは少し小さい糞か…子供?」
「あり得ます」
「やたらデカい糞をする鹿の家族か……」
後ろ髪を両手で撫でながら周囲を見回してみるが、それらしい気配はない。
「面倒だな……」
家族連れ…単純に警戒心が強く、狂暴である。これはどの動物・魔獣にも共通した事で、子供がいる動物には近づかない方が良い。普段だったら人間を見て避けるような動物も、積極的に攻撃を加えて来ることが多いからだ。
「少し離れて休憩だ。周囲を探してみよう…木に毛がついてたりしないか見てみる」
騎士達が休憩中に猟師の家出身の自分と獣人数人を連れて、小川の側を歩き回る。鹿の魔獣と考えるのであれば、水回りにもっと痕跡がある筈だ。不自然にめくれた木の皮や植物が引きちぎられている場所を探し、その周囲を歩き回って足跡を探す。
「これ…足跡だな」
「大きいっすね」
やっとのことで見つけた足跡に、セッターも驚きと戸惑いを隠せない。
蹄の長さが1フィート に近い。今まで見た事のある鹿の足跡で最大の物はハーフフィート程度だ。それでも6フィートを越えた大きさだった。単純に予想するのであれば、その倍である12フィートに及ぶ高さになるだろう。
「どおりで随分高い所の樹皮がめくれている訳だ」
「いや、絶対に会いたくないデカさしてますよ、これ」
「救いなのは糞を見る限り草食なところだな、肉食獣みたいにこっちを狩りに来ることはないだろう。それに体も大きいからこの針葉樹林では比較的見つけやすいと思う」
「なるべく避けましょう!こいつらの行動範囲から、いち早く出たいですね」
急いで休憩中の近衛騎士達の元へ戻ると情報を共有し、先を急ぐ事にした。
今日を含めて2日ほど南西に進めばマイゼーナ城塞近郊に出るだろうから、偵察を始める前に疲れたくないという考えは一回抜きにして、なるべく休憩も減らしていく。近衛騎士達には、近衛騎士たる誇りを根性で見せてもらうしかない。
1日目は何もなかった。
問題は2日目、マイゼーナ城塞まで半日程度のところで起こった。先頭を歩いていたフレディとテリアが足を止めて屈む合図を出した。自分は近衛騎士団の中で抜群の視力を持っているが、彼らの目線の先には何も見えない。
「どうした?」
先頭まで中腰で向かい彼ら横に並ぶ。
「何か動いた気がします…奥、右側の少し斜めの木が交差するら辺です」
「カンブリー、臭いは?」
「先程一瞬だけ」
「人間か?」
「恐らく」
言われた場所を凝視してみるが、やはり自分にはその姿が見えない。
「ついて来てくれ、確認に行くぞ」
「「了解」」
木の影から影へと姿勢を低く移動し、正面から視線を外さずに動き続ける。
手には弓を持ち、矢を番えた状態でいつでも放てるように保持した。
(動いた!)
確かに動いた。松の木が交差するように斜めに生えている根本の辺りに、一つの人影がある。一瞬の目配せに二人も頷いたところを見ると確認したようだった。
どうも動く影は二人居るような動き方をしているように見える。木の根元に草で隠蔽して周囲を監視しているのか、首をたまに左右に振っていた。恐らく見張り要員だろう。
まだ明確に二人の姿を確認していない状態で矢を放つことは出来ない。更に矢を放つことが出来る限界の距離まで静かにゆっくりと動き距離を詰める。
自分とフレディとテリアは2人いる兵士の姿を確認し、あと2~3本分の木を伝って距離を詰めれたら必ず倒す事が出来る所まで進んだ。
あと少しで解決という場面だが、往々にして”一番起きてほしくない事が、一番起きて欲しくないタイミングで起きる”ものだ。
「うわぁぁ!!」
後ろから大声の叫びが聞こえる。自分が率いて来た近衛第一騎士団の者達だ。
その声に反応して見張りの二人が慌ただしく動き始めたのが分かる。自分は後ろで起きている事を把握している間は無いと判断し、全力で敵兵との距離を詰め始める。
(ここで逃すことは出来ない!)
番えた矢が狙う先は最初に体勢を起こして走り出そうとしている奴だ。ゆっくり狙う暇はないが、とにかく動きを止めることが出来ればいい。
腰のあたりを狙った矢は真っ直ぐ進み、走り始めた敵兵の臀部を射抜く。
もう一本の矢を番えている間にその男は地面に転がり、もう一人の動きが鈍い敵兵は驚きながらも転がり起きようとしていた。動きの鈍い方は足を狙い、右太腿に矢が吸い込まれていく。
「フレディ!テリア!止めを刺しておいてくれ!俺は後ろに戻る!!」
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




