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5.マイゼーナ城塞攻略戦2


 晩夏の時期に入っている。

 メイズ大公国は山間部で、このマイゼーナ城塞も盆地となっているために標高が高い。そのために晩夏であっても朝には少し肌寒い。


「上着が居るなこりゃ」

「カール、お前は筋肉と脂肪があるだろ」


 カールが自身の分厚い体を太い腕で包み込むように抱いてさすっている。


「だから人より寒く感じる部分が大きいんだよ」

「よく言う」


 軽口を交わしている内に、準備を完了したと近衛第一騎士団それぞれの小隊長が報告に来た。

 目の前には寒さからか、緊張からか少し表情の硬い騎士達が並ぶ。装備はいつものような派手で磨かれた鎧ではなく、隠密の為に革と鉄を使った近衛軍の装備を借りている。


「よし、少し長旅に行こうか」


 出発の号令は大きな声ではない…落ち着いた声色を意識した。一緒に行く彼らにはあまり気負ってほしくなかったからだ。

 偵察に英雄的な行動はいらない。それが必要な状況になるのであれば、なにかしらの失策が重なって起きてしまっている。だから、気合を入れていくようなものではない事を意識して声を出した。



 我々は味方にも悟られないように、薄明の味方陣地を北進し陣地を出る。

 見張りの兵に脱走兵かと疑われ少し手間取ったが、途中まで同道していた近衛第二騎士団の兵に説明をさせた。

 味方が布陣している陣地の北は暫く畑が続き、それを抜けると背丈の低い草地が現れる。この草地沿いに西へと針路を取ると、今度は針葉樹の森にぶつかった。これが最近マイゼーナ山地と呼ばれ始めたマイゼーナ城塞周辺の山々の裾野となる。この針葉樹林は丁度マイゼーナ城塞からの視界を塞ぐことが出来るため、樹林の影に沿って我々は順調に北進を続けた。


「此処で夜を明かすぞ、各自準備を始めろ」


 夕暮れ時の少し前、まだ太陽が出ている時間帯に草原の中で少しだけ開けた場所を見つけて、野営の準備を始める。ここからは全く情報を持っていない土地に入りに行くために、いつ安全で十分な広さの場所が確保できるか分からないからだ。それに、ここら辺までならば軍の展開の範疇で、炊事の火を起こす事も許されるだろう。温かい食事がとれる最後の機会と考えている。



 翌日の朝からも森に沿っての北上が続き、昼過ぎの休憩をしたのちに西側へ針路を向ける。マイゼーナ山地の山が少し低くなっている場所だ。と言っても地図も無く情報も無い上に、敵が何処かに潜んでてもおかしくない。


 我々は針葉樹林に入った。まだ晩夏だからか地面に生えている草は青いが、針葉樹林の特徴として下草が少なく、他の森より足元が見やすい。

 これは自分達近衛騎士団には嬉しい事で、森歩きに慣れている自分やカーマイン辺境伯領で北方樹海を経験している者達以外は、まともに森を歩く経験をしたことが無いからだ。足元が見えやすいだけで、機動力が上がる上に、何より障害物を発見しやすく怪我をしづらくなるのだ。

 一方で木の枝も背が高くなっているために、森の中では視界が良く通り過ぎていた。慣れている者達(ここではメイズ大公国の兵士)が哨戒ポイントを作って、歩くことが出来る場所を監視していたとしたら、一方的に見つかる事になりそうだ。なので、目が良く森に慣れている自分や、カーマイン辺境伯領から来た者達、獣人達が隊列の中で周囲を見やすい先頭や外縁部を担当した。

 その日は森の中にある小川の近くに野営することを決めて、偵察を始めてから2日目も何事もなく終わった。


「こいつは鹿の糞か?」


 翌日の昼前、木漏れ日が綺麗で少し心が落ち着く景色をぶち壊す言葉が響いた。


「鹿の糞ぐらいなら言うなよ、珍しい事でもないだろ」


 カールの無粋な言葉に森の動物に詳しいセッターが近づいて来て言った。北方樹海近くの出身の彼は元々猟師の家に生まれ、カーマイン辺境伯領時代には冒険者として北方樹海に出入りしていた。

 セッターはカールの視線の先にある鹿の糞を覗き込むように見る。


「んー?鹿か?これ…鹿?」


 更に近づいて人間よりも圧倒的に優秀な鼻をヒクヒクと動かしているセッターに、彼の弟であるテリアまで近づいて来る。


「兄貴、どうした?」

「テリア、コレ何の糞だと思う?」

「……鹿に見えるけど…匂いも鹿だしな」


 返答しながらテリアも下顎の下に手を当てながら考え込んでしまった。そんなに彼らが気になる事ならばと、自分も近くによってその糞を見てみる。


「大きすぎないか?」


 自分が見た感想もそれだった。

 鹿の糞はどんなに大きな鹿でも、糞が指二本分の太さと長さになる事はない。でも、その形は明らかに鹿の糞で、それをセッターが木の棒でつついて出た中身は、木の一部などが入っていて、肉食のものではない。


「団長、これ相当大きな奴が居るかもしれません」

「魔獣か?」

「あり得ます」


 頭を抱えた。

 巨大な鹿かそれに近しい生物(しかも魔法を使う魔獣かも分からない奴)がうろついている森を踏破して偵察しなければならないのだ。面倒な上に被害が出る可能性も高まる。


(陣地に戻りたい)


 エメリヒ王に「魔獣がうろついている為に中断して帰還しました」と言ってしまおうか。いや、見たわけでも無いのに帰還しようものなら、それは王命の放棄のようなものだ。


「注意して進むぞ」


 自分が部下たちに言えるのはそれだけだった。


はじめまして。都津(トツ) 稜太郎(リョウタロウ)と申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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