4.マイゼーナ城塞攻略戦
エメリヒ王が自分に命じた任務は内容を聞く限りだと簡単だった。
1.マイゼーナ城塞付近の山間部を偵察し、軍をまわして包囲できる地点が無いか偵察
2.城塞向こう側のメイズ大公国領内に抜けることが出来る道が無いかを偵察
3.完全包囲をした場合にマイゼーナ城塞はメイズ大公国側以外の門でどこかから食料を搬入する場所が無いかを探す。
そう、言葉を聞いた限りは馬を駆って周囲を偵察してしまえばすぐに終わる任務のように見えるが、我々が偵察しなければならないのは3000ftの高さを誇る山々の踏破だ。もはや真実の色教徒の一部派閥がする聖地巡礼の為の登山のようなものだ。
もう近衛軍も十分な実戦の回数を踏み、指揮官も育っているのだから彼らに頼んで欲しい所だったが、今回自分が任命された理由もわかる。
猟師の家系で森の歩き方を知っている自分は、昔に北方樹海を踏破して敵陣の後ろに出た事もあるし、その過程で山越えもしたことがある。この経験はエメリヒ王との会話の中で共有している事で、当然それも織り込み済みだろう。確かにこの長距離・長時間に及ぶ偵察は自分と自分が率いる近衛第一騎士団に適任なのだ。
「という事で、明日の朝から出るぞ」
夕刻の近衛騎士団の天幕に全員を集め、エメリヒ王からの下命を皆に伝える。反応は様々で「またかよ」という反応は最初期から近衛騎士団に居る者と、カーマイン辺境伯領時代から自分と共に戦って来た者達。「やっと仕事だ!」という反応は比較的新参な者達と分かれている。
「今回は近衛第一騎士団の50人全員で動く。皆準備をしておいてくれ」
「偵察なんだろ?人数絞った方が良いんじゃないか?バレるぞ」
カールはいつも通り文句を垂れながらも、頭の後ろに両腕をまわしながら的確な質問を投げかけて来る。
「そうは思ったんだがな…これは王命だよ。敵にあったら戦えとさ、つまり威力偵察も兼ねるってことだな。メイズ大公国の力を確かめたいんだろう」
「まぁ、威力偵察って話なら、近衛騎士団の仕事ではあるか」
王国のみならず、王国や帝国の近衛騎士団やムタルド教国の宗教騎士団など、各国が抱える最精鋭と呼ばれる騎士団の任務のひとつに威力偵察と呼ばれるものがある。普通の偵察とは違い、敵の位置や数を見るだけでなく、実際に交戦し敵の練度を図り、布陣などを知るために行われる偵察である。この威力偵察というものを各国の近衛騎士団がするようになったのは、ある伝統が関係しているのだ。
昔々旧王国以前に各地で様々な国家が鎬を削っていた時代において、軍の指揮官が一騎打ちをする習慣があった。自らの勇名を轟かせるためであったり、味方の犠牲を少なくするための逆転の手としてであったりと、理由は様々であるが戦場でそれはそれは頻繁に行われていた。この一騎打ちを挑まれたならば、受けなければ臆病者として誹りを受けるために、どんなに有利状況であっても受けなければならなかったのだが、挑まれる側は総指揮官が負傷することや死亡することも多く、名誉以外に余りに得るものが少なかった。
そこで大陸国家の全体の流れとして、代理に近衛騎士団の腕利きや軍の中でも武勇に優れる者を代理に立てた事をはじまりとして、一騎打ちから3番勝負へと参加する人数が増えた。更に時が流れると完全に戦が始まる前に騎士団同士の前哨戦(無論死傷者が多く出る)となり、更に時が流れると次第にそれは布陣してからでは無く、戦が始まる前の偵察段階で発生するようになったのが、威力偵察と名前を変えて今も大陸全体に残っている。
「一周ぐるりと偵察した後に、経路を確保して襲撃ってところだな」
「で、敵の騎士団が出て来たならそれを見極めると」
「メイズ大公がいるならばメイズ騎士団が出て来るだろうし、そうでなくとも敵の最精鋭を出してくるだろうから、だれがマイゼーナ城塞の指揮官か分かる」
「はぁ、こりゃまた危なくて手間な仕事だな」
ため息を大っぴらに吐くカールを口では窘めるが、自分も本当にそう思う。
本来、威力偵察は軍の最精鋭が出て来るものであるから、エメリヒ王からの信頼が厚いと考えるのであれば、それは大変名誉なことに違いないが、それにしても自分達はこういった仕事が多い気がする。折角今回のメイズ大公国侵攻では、マジックアローを使わないと言われて前線に出る事は無いと安心していたらこれだ。
「まぁ、王はこの威力偵察がメイズ大公国侵攻で、最初で最後の出番と言ってくれてるからな。少し気張って生き残るとしよう」
「団長ぉ~それ本当に信じたんですか?」
情けない声を出しているのはフレディだ。確かにこの戦役で自分達の最初で最後の出番になるなんて思っていない…また何かしらの小間使いが出てくるはずだ。だが、それを皆にいう訳にもいかない事を察して欲しい。全く間に挟まれる仕事というのは面倒臭い!
「信じるに決まってるだろ!王陛下のお言葉だぞ…お前もだらけ過ぎだ、口を慎め!それでは今日は早めに寝て明日に備えよ!日の出と共に出るぞ!」
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




