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3.メイズ大公国3


 近衛軍がメイズ大公国の作戦に足止めを食らっている間、当然の如く西側からアイボリー山脈を縫って侵攻する予定だったラルス・バーガンディー東方公も動けていない。要するに元モーヴ協商国の土地を取り返したのみで、メイズ大公国には全く手出しできていないのだ。


「よし!全軍進むぞ!!」


 やっとのことで状況が落ち着きエメリヒ王が号令をかける。

 その表情にはとうの昔に怒りと諦めの段階が過ぎ、ようやく進軍を再開できるという喜びが若干出ていた。心の根の部分で全く戦争を好かない自分でさえも、やっと動きる事に喜びを覚えていた。


 メイズ大公国が籠る山間部は南東部(旧モーヴ協商国方面)に向かってひらけており、進軍は容易である。特に障害となる地形は無く、そこにある城も堅い部類の物ではなかった。メイズ大公国もそれを重々承知しているために、籠る兵士の数は少なく守りは薄かった。

 我々の動きに合わせ、ほぼ同時に西方より侵攻を開始したラルス東方公は、山間部を進む為に進軍速度が遅く、我々との連絡を取るにも距離がある為に緊密な連携を取ることは出来ない。


 メイズ大公国の城を3つほど落城させたところで、最初の関門に到達した。

 文字通りの関門である。


 北のノワゼット山脈から伸びた山々と、西から南にかけて伸びるアイボリー山脈から伸びた山々が剣先を突き合わせるようにメイズ大公国の南東側を封鎖している場所で、その間には巨大な城塞都市が横たわっていた。

 周囲の山を越えて進軍しようにも、3000ft(約1000m)級の山々が続く場所で、大軍を動かせるわけもなく、中央を突破しようにも関門となっているその城塞都市が邪魔をする要害であった。名前をマイゼーナ城塞という。

 マイゼーナ城塞は西方をオロール王国に塞がれ、南北を高い山脈に塞がれたメイズ大公国にとって、唯一外の世界との連絡を取ることが出来る経路であった。当然そこには旧モーヴ協商国方面を含むベルディグリ大陸南東とメイズ大公国の交易を図る為の都市が発達し、経路を守る為の城塞都市が出来上がる。


「うーむ…これは骨が折れそうだ」


 エメリヒ王の顔には長期の攻城戦を予感した表情が見える。

 マイゼーナ城塞の最外側の街壁が我々の目の前に聳え立っているのだが、それの威圧感といったらオロール王国王都のオレンジと大差ないほどである。年単位での攻城戦を覚悟しなければいけないほどの、堅牢が目の前にするだけで分かった。


「マジックアローはいつでも使えます」

「あぁ、分かった。だが、最初は普通の攻城戦としよう」


 包囲戦を始めた我々の元に次々と情報が入って来る。まずは兵力であるが、近衛軍1万2千の軍に対して、マイゼーナ城塞に籠る兵士はなんと総兵力の三分の二にあたる4000である。城攻めに必要な三倍の兵力を我々は有しているが、攻められる方向が南東側のみに限られている今回は、この兵数差を生かすことが出来ない。

 次に西方より侵攻しているラルス東方公からの情報であるが、彼らはメイズ大公国が山間部に築いた数多くの砦や城をひとつひとつ攻略して進んでいるために、山間部出口の城塞にもまだ到達できていないそうだ。因みにこの西側にある対オロール王国城塞はアイボリー城塞と呼ばれており、オロール王国は何度もこれに挑んだがこれまでの戦いで一度も突破出来たことが無い。たった1000の兵士が籠るだけで、6000の王国軍を弾き返されたという、王国にとって不名誉な歴史がある。




「リデル団長、王陛下が軍議天幕にお呼びです」


 包囲を開始して20日が経った時だろうか…トレビュシェットや投石機の投石が街壁に命中する様を眺めながら昼食のパンを齧っていると、今日はエメリヒ王の側付きをしていたウラシヌが小走りで近づいて来る。

 今日のエメリヒ王の護衛はウラシヌとカンブリーだった筈だ。ウラシヌの表情に焦りや緊張は無いから、近衛騎士が何かをやらかしてしまったわけではない。つまり、エメリヒ王は自分に用件があり呼び出しているのだ。


「おい、嫌な予感がするぞ」

「用件は仰っていませんでした」


 ウラシヌに言っても仕方ない事を投げかけながら、帰ってきた言葉に落胆する。何か自分に直接問う必要がある用件なのだろう。今回の攻城戦でマジックアローは使わないと言っていた事の心変わりであれば自分は歓迎できる…が、これは何か小間使いを頼まれる気がするのだ。


 特段疲れていない体を引き摺るように天幕に向かうと、エメリヒ王とボウデン総団長という、内密な会議が行われるときのいつものメンツに、今日は護衛担当でないはずの地図作りが上手いヨスが居た。ヨスの姿を見た時点で何となく用件を察した。


「おう、リデル来たか」

「お呼びとの事で」

「そうだ、頼みたい事がある」


(ほら、やっぱりだ)


 頭を抱えたい気持ちと、直ぐに出かけた断りの言葉を強靭な精神力で抑え込む。


「マイゼーナ城塞付近の地図を作って欲しい」


 エメリヒ王は頼む口調で言っているが、これは王命であって自分に拒否権は無い。当然「承知いたしました」と返すのみだった。


はじめまして。都津(トツ) 稜太郎(リョウタロウ)と申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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