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2.メイズ大公国2


 近衛軍がホリゾン城から動き出したのは、周囲の雪解けが始まったばかりで、メイズ大公国が存在する山地が未だ深い雪に阻まれている時期であった。

 この時期に動く狙いは、メイズ大公国の援軍の到着を遅らせながら、メイズ大公国に付いた旧モーヴ協商国の城たちを攻略するためである。


 モーヴ協商国攻略後の2年近くで近衛軍はさらに増強を図り、兵数にして1万2千を数えていた。近衛軍単体でもメイズ大公国の兵数の倍近くを持つ。

 近衛軍は無理な進軍はせずに十分な余裕を持って進んで行った。最初の目標はモーヴ協商国からメイズ大公国に付いた城たちである。


「うーむ…それにしても進まん」


 エメリヒ王は春の雪解けによる進軍の遅れを気にしていた。確かに余裕を持った行軍を行っているが、それでも進まない進軍はひとの心を苛立たせる。兵士としても遅々として進まない進軍は、無駄に体力を奪うので好ましくない。


「馬車隊を切り離す訳にはいかないですからね」


 我々の遅れの原因は、攻城兵器や食料を運ぶ馬車隊がぬかるみに足を取られている事だった。食料はまだ領内とそれに近い所を進む為に何とかなるが、如何せん攻城兵器はそういう訳に行かない。我々は城塞攻略を目標として動いているので、それを助ける攻城兵器を行軍から切り離してしまっては本末転倒なのだ。


「こういった時は普通の軍編成であれば良かったと思うな」


 エメリヒ王はため息を一つついた。

 近衛軍は迅速な進軍を実現するために、全員が軍属となっている職業軍人たちだ。勿論職人なども帯同しているが、それは通常の軍の5分の1以下の数であり戦闘にも参加している。であるから現地で攻城兵器などを作ろうとすると、結局切り離した馬車隊が我々の背中に追いつくのと時間は変わらない。


 進軍の遅れのせいで、最初の城に到着するまでエメリヒ王は苦い表情のままだった。

 初春に出発した近衛軍であるが最初の城につくころには春も中頃だ。この頃には地面が乾き、通常の行軍が出来るようになっている。



 この進軍の苦労の先に待っていた城がそれなりに成果が有れば良かったものの、全く以ってそうではないのが、我々を落胆させた。


「もぬけの殻です」


 城内を制圧した部隊の指揮官であるエドガーが王の前に跪くと報告する。


「全くか?」

「はい…城内に兵は居ません。平民は残っていますが貴族や兵士などは全くおらず、食料も残っておりません…彼らは飢えています」


 エメリヒ王は首を落とすと手でうなじをさすっている。そのままの状態で「ご苦労、下がってよいぞ。くれぐれも軍紀を守るように厳命せよ」とエドガーに伝えた。


 メイズ大公国の作戦だった。

 彼らは元モーヴ協商国の全ての城から兵士に適した者達、食料や資材に金を引き上げていて、そこには飢えた平民しか残っていなかった。この事実は侵攻を開始した近衛軍の出鼻を挫いたのだ。

 これから統治しようとする城の平民を飢えさせたままにしておけば、必ず治安は悪化し統治の邪魔をする上に、そこは我々が今から侵攻しようとする場所の補給線となる場所になる。いくら近衛軍が物資を持ち込んでいるとはいえ、後方を完全に遮断された上に現地で調達できないとなれば限界があるのだ。


「如何いたしましょうか?」


 副官の役割としてボウデン総団長がエメリヒ王に問いかけた…が、エメリヒ王はその問いに答える事は無く、ひたすら考え込んでいる。こうなれば我々が何か言う事は出来ない。エメリヒ王の答えが出るまで待つだけだ。


 エメリヒ王の答えは翌日になっても出なかった。安全が確認された城内に入り城主の間に腰を下ろしたエメリヒ王はひたすら考え続けている。エメリヒ王が答えを出したのは更に日を跨いだ2日後だった。


「進軍を止める……取り敢えず…だ、元モーヴ協商国の城を落とすところまでやる。攻略部隊を出せ、各部隊には食料を乗せた馬車を同行させよ。あとは各地に食料を拠出させる使いを出せ」

「承知しました」


 各地に走った大量の急使はそれぞれの領主に食料を求めた。そして近衛軍は城を守る部隊、東西に分かれて攻略に向かう部隊の3つに分かれた。東西に分かれた部隊は、それぞれに出来るだけの糧秣を積んだ馬車を付けている。


 メイズ大公国についた元モーヴ協商国の5つの城の攻略には大して時間はかからなかった。

 時間がかかったのはその後だ。全ての城にいる飢えた住人に食料を行き渡らせるために、周囲の村から食料を買い取ろうとしたのだが、メイズ大公国も徹底的で周囲の村からも余分な食料は徴発していた。


「いつの間に!!ここまで動いていたのだ!!!密偵は何をやっていた!!!!」


 報告を聞いた時のエメリヒ王の怒りはかなりのものである。特にその場にいた誰に向けたわけでも無い怒りであったが、隣で警護していた自分が体をびくつかせてしまう程の剣幕だ。

 

 近衛軍はオロール王国領から食料が届くまで全く動くことが出来ず、結果として進軍を再会したのは初夏も過ぎようかとする所までずれ込んでしまっていた。


はじめまして。都津(トツ) 稜太郎(リョウタロウ)と申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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