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1.メイズ大公国


 オロール王国建国以来の仇敵であるメイズ大公国。

 度々登場するこの仇敵とオロール王国の話はしておかなければならないだろう。


 メイズ大公国はオロール王国の前に、ベルディグリ大陸の全土を支配した王国の、公爵家から生まれた国だ。旧王国建国時の王弟の家であったメイズ公爵家は、大陸統一までの5代とそれ以降の4代に渡り、旧王国内で王家に次ぐ…時にはそれを凌ぐ権勢を振るう大公爵家であった。

 大陸の中央を区切るレイトリバーの西側に旧王国の王都があり大陸の西側を、東側にメイズ大公爵領が現在のオロール王国王都オレンジが在るあたりを領有し、その東側に本拠を構えて大陸の東側を取り仕切る様な役割を担っていたのである。

 旧王国が様々な要因から大陸全土を巻き込む内乱状態となった時、意外にもメイズ大公爵家は旧王国の復興を目指していた。それはこれまでの権益の維持というのもあるだろうが、王国を最も古くから支え続ける公爵家としての誇りがあったのだろう。だが、このメイズ大公爵の旧王国の再興を目指した戦いは全く上手く行かなかった。

 各地に旧王国の貴族家や人種や宗教によって纏まった国家が生まれ、民衆によって議員を選出する共和制の国が生まれ、それぞれの勢力圏を広げようと争い、もはや旧王国時代の権威に従うものは居なかったからだ。


 そしてこの戦乱の世が50年近く続く中で、現れたのがオロール王国だった。

 オロール王国は、大陸中央部レイトリバー東岸(現在のベゴニア辺境伯領の南側に暫く進んだ場所)に旧王国の男爵として領地を持っていた。オロール男爵家は周囲の旧王国貴族との婚姻を駆使して旧王国内で勢力を伸ばすと、旧王国が内乱状態となってからは同盟も駆使し、婚姻関係の貴族を吸収しながら積極的に領土を広げた。そして、メイズ大公爵領と隣接することになる。


 50年の戦乱の中でメイズ大公爵家は再興を諦め、メイズ大公国を名乗るようになっていた。当初はメイズ大公国との戦争を避けて東へ拡張したオロール家であったが、それに反発したメイズ大公国との戦いが始まった。

 その戦いは30年以上に及び、当初は数の有利で戦況を優勢に保ったメイズ大公国だが、内乱発生直後から実戦経験を多く積んでいたオロール家との戦いに幾度かの致命的な大敗を喫し、徐々に東へと追いやられていった。現在の王都であるオレンジを制圧し、オロール王国を名乗り始めたオロール家との戦いに負けが込み始めたメイズ大公国は、ついには元のメイズ大公領から追い出され、新たに確保した領地へと逃げ込むと、更に追撃を続けたオロール王国にノワゼット山脈とアイボリー山脈に囲まれた山地に追い込まれていった。

 山地に追い込まれたメイズ大公国は兵力も少なく、伝統と名声のみを持つ国家となり、現在では我々オロール王国に周囲を完全に囲まれている。だが、彼らは決してオロール王国に簡単に屈することは無いだろう。それは旧王国の崩壊から始まった戦乱から続く100年近くの戦いの歴史があるからだ。



「王都には帰れんぞ」


 エメリヒ王はホリゾン城主の間で自分と二人きりの時に呟くように言った。

 目の前にはモーヴ協商国が持っていた地図と我々が持ち込んだ地図に、手紙を書くための道具と印章がある。エメリヒ王は春から始まるメイズ大公国との戦いの為に、各方面に書状を送り、戦略を練っている最中だった。


「……」

「リデル、王都へ戻りたいか?家族に会いたいだろう?」

「いえ、陛下をお守りすることが、家族を守る事に繋がりますから」

「素直になれ」

「…会いたいですね」

「だよな、私もだ」


 目の前の物から目を逸らし、首を後ろに伸ばすと一息ついた。

 エメリヒ王が吐いた少しの弱音は、寝る時間以外の全てをこの場所で過ごしている疲れかもしれない。


「動員する兵力などは決まったのでしょう?」

「あぁ、今回の戦いは近衛軍と東方公の軍を用いて戦う事になるな」

「ラルス・バーガンディー東方公ですか」

「そうだ。彼の父には世話になった……」


 目の前で懐かしそうにするエメリヒ王は、その世話になった父の東方大公を嵌めたのかもしれないが、今ここで言ってどうにかなる話ではない。


「東方大公家は長らくメイズ大公国と戦ってきたとの事ですし、さぞ気持ちが入っているでしょう」

「予定ではメイズ大公国の領地は東方公爵家に与えるつもりだ」

「おぉ!それは大公と呼ぶにふさわしい大領地になりますね」

「だが現在の東方公領からの転封になる」


 最後のエメリヒ王の言葉に自分は言葉を継げなかった。伝統として侯爵以上の領主は新しい領地を与えらえても、持っていた領地は奪われる事は無い。侯爵以上の爵位はそれほどまでに力を持っているという事で、更にこれまでの東方大公家の貢献を無視しての転封となれば領地は大きくなると言えど反発は必至だ。


「それは、大丈夫なのでしょうか」


 思わず王の言葉を心配するという差し出がましい自分の行動を抑える事が出来なかった。それにエメリヒ王は言葉で答えずに、静かに頷いただけだった。大公家の体裁を傷つけることを容認するような反応に、自分はエメリヒ王の狙いを何となく察した。前東方大公の戦死から今日までの大公家の冷遇は、大きな権力を持ってきた大公家の弱体化を狙ったものなのかもしれない。それこそ、旧王国がほろんだ理由の一つ、権力を持つ公爵家が増え過ぎた事を教訓としているかのように。


はじめまして。都津(トツ) 稜太郎(リョウタロウ)と申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
国替えを強制できるようになるといよいよ中央集権も仕上げの段階だよねえ
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