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17.ホリゾン平原の戦い9


 戦いは空が白み始めても続いていた。

 いつの間にか明け始めた夜が追い出された場所には、血だまりと肉片と死体が広がっている。確かにそこにいた敵はマジックアローで消し飛び、何が起きたか分からないモーヴ協商国軍の兵士はそこを避けるように動いていた。


 我々は夜明けまで敵の絶え間ない襲撃を耐え切った。

 右翼は正面と川から襲い掛かられたが、後退せずに耐えきって見せた。左翼は幾度か敵に土塁の上を占領されたが、追い返して見せた。ホリゾン城に対して備えていた者達は、援軍を送ったために寡兵ながらもトレビュシェットや投石機、バリスタを有効に活用し、一歩も土塁を越えさせなかった。最後に正面…自分達近衛第一騎士団は今も敵の海兵との死闘を演じている。


「こっちだ、こっち!!早く矢の補充持ってこい!!」


 ひたすらに矢を射続けて、手はもうボロボロだった。マジックアローを放った後に付けた手の保護具も、既に破れて血が滲んでいる。それでも我々は奮戦し敵の猛攻を凌ぎ続けていた。

 敵の海兵は強敵で土魔導士の魔法が不発に終わった後でも、堀を埋め立て、土塁を登り必死に我々に挑み続けて来る。



「援軍だ!近衛騎士団が来たぞ!!」


 朝の空気が追い出された時間帯にエメリヒ王からの援軍が到着する。我々が丁度限界を迎えようとしていたところだった。彼らは自分達と交代で持ち場に入り、そのまま戦闘へと突入していく。結果として近衛第一騎士団は奇襲の最初から交代せずに戦った唯一の部隊だった。


「リデル総副団長」


 交代が終わり土塁を降りると下には近衛第八騎士団の団長である、ディルク・アーベレが居た。壮年で金髪碧眼で角張った顔は、古強者の風格を感じる。元はモーラ公が辺境伯だった時代に騎士団の一部隊を率いていた男だ。


「遅れました」

「王陛下は良いタイミングで援軍を寄越してくれた」

「流石陛下の戦勘です。戦況はいかがですか?」

「敵の海兵が中々に粘り強く戦ってくる。土塁に拠点を築かせてはいけない…追い出すのに相当な労力を使う。敵の弓兵は少なめだ、戦い続けている風魔導士を休ませても良いかもしれない」

「分かりました」



 手短に引継ぎを終えてエメリヒ王の元に戻ると、王の周りにはほぼ兵士が居なかった。数えてみても近衛騎士団ひとつ分程度しかいない。


「陛下、只今戻りました」

「奮戦ご苦労であった!」

「流石に守りが薄すぎませんか?」

「正面はお前たちの活躍で良く持っているが、両翼の状況が芳しくなくてな。援軍を早めに送っていたんだ」


 それにしても王の周りに居る者達が少なすぎるだろうと思わざるを得ない。エメリヒ王が倒れるような事になれば、軍全体が崩壊するのだから命を大事にしていただきたいものだ。


 近衛第一騎士団はこの日にもう一度戦場に立つことは無かった。昼過ぎになるとモーヴ協商国軍は全軍を撤退させたのだ。本来であればホリゾン城の軍が城に撤退する隙を突きたいところだったが、半日近く戦い続けた両軍は疲弊し、翌々日まで一切の戦闘が起きなかった。


 そしてこの戦いの結果、我々は勝利に大きく近づくことになる。

 翌々日の昼間から始まったモーヴ協商国軍の攻勢も夜襲の時と比べ、全く勢いのないものになっている上に彼らは土魔導士を失っているせいで攻め手にも欠けていた。防衛戦は更に数日続くことになるのだが、一気に決着の日を迎えた。


「王陛下!!王陛下!!!」

「なんだ伝令、ここに居るぞ!」

「ガランス伯の援軍が見えました!援軍の到着です!!」


 ガランス伯麾下の軍はホリゾン城の西から出現し、二重包囲を行っている二人の王の左翼側に布陣した。戦場は歪な”L”の字の形となり、満身創痍の両包囲軍とホリゾン城の守備兵、到着したばかりのガランス伯の援軍が睨み合った。


 全軍が入り乱れての戦闘が始まったのは、ガランス伯軍到着の翌日の朝だった。

 まず初めにガランス伯が川を越え始めたところで、ホリゾン城とモーヴ協商国の包囲軍が全力で我々近衛軍に攻撃を始めた。彼らの狙いはガランス伯軍の攻撃に耐えている間に、分割された軍の合流を図ることだった。


 この攻撃は熾烈であったが、土魔導士を用いた時ほどの威力は無く、近衛軍は凌ぐための余力も十分にあり、突破される事は無かった。

 近衛軍の突破に苦戦している間にガランス伯の軍は、モーヴ協商国の左翼を突破し、徐々に包囲を崩し始める。こうなれば、あとは雪崩のようなものだった。モーヴ協商国軍は左翼から順に軍が崩れ始め、それを止めることが出来ずにズルズルと後退し続け、結局二人の王を逃がすために忠義の軍がいくらか抵抗した程度で、そのまま解囲されることになる。結果としてライラック王とクロッカス王は逃亡することが出来たが、其々の城に逃げ帰ることしかできなかった。最後にホリゾン城は残存兵による突撃も防がれた事で、援軍の望みも完全に潰えて降伏。


 これにてオロール王国近衛軍によるホリゾン城の包囲から始まったホリゾン平原の戦いは、オロール王国の勝利で幕を閉じた。


はじめまして。都津(トツ) 稜太郎(リョウタロウ)と申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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