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16.ホリゾン平原の戦い8


「近衛第一騎士団!前進!前進!前進!!敵土魔導士を仕留めるぞ!!」


 軍馬は出さなかった。

 真正面であれば馬に乗る必要もない距離だ。騎士団という名前を背負った50名は地べたを走り、敵の姿が見える土塁の上へと向かって行く。


「俺が仕留める!お前らは周りの敵を寄せ付けるな!!」


 土塁の上に駆けのぼり、目に飛び込んでくるのは特徴のある敵兵の姿。モーヴ協商国陸軍の鉄をふんだんに使った鎧と違い、革を基本とし急所のみを鉄で防御するような鎧だった。昼間だったら見える筈の敵が掲げる貴族旗は見えない。だが、松明の下で揺れる彼らの姿は不気味であって、影の揺れは海の上に浮かんでいるように見えた。ここで目の前の軍隊の所属を察した。


(こいつら…ライラック王麾下の海兵だ)


 敵の誇る最精鋭が目の前にいる。


「地面が揺れてるのか?」


 自分の横を守るように立ったカールは、盾の隙間から地面を見て驚きを含めて呟いた。

 カールにも松明で揺れる彼らの姿が海の上にいるように見えるのか?これはやはり海兵であろうと確信を持った自分に、カールが更に続けて呟く。


「おい!土魔導士は見つけたか!?」


 このカールの言葉で目的を思い出した。

 そして自覚する…松明でも確かに地面は揺れているように見えるが、影となっている堀の部分が揺れているように見えるのは、土魔導士が魔法を発動しているからだった。揺れる地面の先、どこかに先に魔石をつけた杖を持つ兵士が居るはずだ。


 目を細めて敵が掲げる松明の光を頼り、地面をなぞるように往復しながら土魔導士の姿を探す。注目すべきは堅く守られていそうな場所で、矢が飛んできていない場所なのが……肝心の矢が夜の闇に紛れて見えない。


「……どこだ」

「あっこじゃねぇか?」


 カールが指さす先にはシールドウォールが見えた。

 確かにシールドウォールの裏にいる可能性は考えられるが、それだけで言うのであれば他の場所もそうだ。土魔導士を探している間にも、モグラが地面を潜っている様を上から見ているように、地面がボコボコとせり上がって来る。土魔導士の魔法によって徐々に埋まり始めた堀に時間の猶予は無い。


「何故そう思う?」

「あそこだけ盾で隙間なく上を守ってるだろう?普通アーチャーが居るんだったら、あそこまで隙間なくやらんだろ」


 確かにそこは盾がしっかりと上空を守っていた。それに観察していてもその盾を動かして矢を放つ様子も見えない。つまり、そこに居るのは前線にいる必要があり、守られる必要のある者達かつ、アーチャーでは無いという事が分かる。敵を見渡す限りそのような場所は他にない。であるならばそこに居るのは土魔導士である可能性が高い。


「カール、助かった」


 自分の狙う先が決まった。



 マジックアローを手にして弦に指をかけ、弓を持ち上げると同時に矢に魔力を込め始める。

 魔力量は……あの盾ごと周囲を吹き飛ばす勢いだ。全魔力の3分の1程度か?


「後ろを支えるぞ」


 自分が集中している時は、普段絶対に話しかけてこないカールが静かに呟いて自分の背中に体を押し当てた。全く意識していなかったが、確かにここでマジックアローを放つと、後ろに吹き飛ぶ先は30フィートも下の地面だ。当たりどころが悪ければ死ぬこともある高さになる。

 

 カールの配慮に感謝しながら頷き返し、弓を引く時に鏃に向かって流すイメージに変えて、弦を引き切る。


 深く息を吸い込み、狙いを堀の先に見えるシールドウォール中央に定める。自分の息遣いに反応したカールが、踏ん張るように体を固めて自分を支えた。

 カールの動きで少しだけズレた狙いを修正し…魔法の放出は、鏃の逆刺部から螺旋状に流すイメージ……


 そして放つ。



 マジックアローは凄まじい風を残して標的に向かい直進していく。

 本来は後ろに吹き飛ぶはずの自分は少し後退した程度……目の前の柵に付けられていた盾は風圧で吹き飛んでいった。

 今までは後ろに吹き飛んで風圧を受け流せていた事を思い知るほど、体が風の壁に当たったような痛みに襲われる。意外に吹き飛ぶのにも効果は有ったみたいだ。だが、その痛みに蹲っている暇は無い。目の前の盾が剥がれて敵の目の前に、カールに体を支えられた自分が晒されているからだ。


「カール!もういい!!隠れるぞ!」


 急ぎまだ無事な盾の裏に隠れ、マジックアローが巻き上げた土埃が収まるのを待つ。見える限りもう地面のうねりは無くなっているように見えた。

 土埃が晴れた闇の中で一部だけがいやに暗い。地面に落ちた松明がいくつか見えるが、それだけでそこには闇が広がっていた。それでも確かにそこにあったはずのシールドウォールは無くなっており、地面のうねりが無くなっているのだ。それに松明の光が無い範囲があるという事は、マジックアローによって壊滅したとみていいだろう。敵の喊声が少し静かになり、うめき声や戸惑いを露わにした声も聞こえ始める。だが、


「お前ら!!耐えるぞ!!こっから耐えきるぞ!!!」


 最早マジックアローで敵が倒れているかいないかは関係ない。今はただ敵を追い返す事だけに集中するのみだ。


はじめまして。都津(トツ) 稜太郎(リョウタロウ)と申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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