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15.ホリゾン平原の戦い7


 自分が近衛第一騎士団の元へと戻り、暫くするともう一度伝令が走ってきた。


「右翼中央に敵の土魔導士が出現!」


 この伝令に反応しかけるが、中央部であれば土魔導士を狩ることが叶わない事は知っている。近衛第四・第五騎士団に任せて自分達は陣の中央に留まる事にした。

 この夜襲に我々の軍は戦力が明かに両翼へと寄っている。自分の周りにいる人間の数が明かに少なく感じるのだ。勿論先程まで他の近衛騎士団が居たのもあるが、ここ数日の魔導士による急襲で両翼に援軍を送る手際が良くなったお陰で、近衛軍も向かう速度が速くなっている。


 自分の中で嫌な予感がした。

 連日の両翼に対する急襲に、自分の周りの疎らな兵士の状況と夜で見通しの悪い状況。土塁の向こう側にいる軍隊が動く気配。どうにもこの闇の中にいる軍隊がライラック王の海兵である気がしてならなかった。


「エメリヒ王に伝令を……」


 予感が確信に変わりかけ、エメリヒ王を呼び出そうと伝令に声を掛けた瞬間だった。


「敵前進!全面的な夜襲だ!!!」


 土塁の上に居る兵士が叫んだ。

 それと同時に陣地に警鐘が鳴り響き、その音を聞いて敵は松明を点けたのか空が明るくなる。モーヴ協商国軍全軍での奇襲だった。


「トレビュシェットを!!早く!!!」


 後ろから叫び声が聞こえる。

 振り返ると見える松明に照らされたホリゾン城の城門は徐々に開き始めていた。散々の投石で溜まった石、崩壊した城壁などが門を塞ぎ、直ぐに開けることが出来ていない。このもたつきの隙を突こうと、眠っていた者達が叩き起こされ、幾つかのトレビュシェットが轟音と共に動き始める。



「右翼!苦戦中!!」


 静かに戦況を見守っていた我々近衛第一騎士団の元に伝令が届いた。


「動くか?」


 カールの言葉に自分は静かに首を横に振る。

 ホリゾン城に籠る兵力を含めた全面的な夜襲だ…何か狙いがある。両翼の突破や、3回土魔法が仕えるのであれば中央突破を狙っていることも考えられる。


「伝令!!」

「はい!」

「右翼の敵兵の所属は分かるか!?」

「…分かりません!」

「海兵はいたか?」

「……多分いないかと」


 昨日までの布陣では土魔導士が堀を埋め立てた後に来るのは、ライラック王麾下の海兵が主力であったが、今日は見ていないかもとの話だ。まだどこかに本命の攻めが控えているに違いない。あまり中央から兵数を割きたくないのが本音である。


「近衛騎士団で余裕がある者達に向かうように言え!それで局地的に有利を作ることが出来る」

「確かに伝えます」


 ホリゾン城からの出撃は、トレビュシェットや投石機から放たれた礫の嵐によって、全く持って統率の取れていない状況であった。これだけでも我々の後背面が楽になる。

 一方、土魔導士の奇襲を受けた右翼側は川から船に乗った部隊の奇襲もあり、更に苦戦しているという続報が入って来る。

 援軍を送ろうかと迷い…やめた。必要なのであれば近衛軍総指揮官のエメリヒ王が決断を下すだろう。自分の手元にある近衛騎士団という兵力は、敵の土魔導士を狩ることにのみ集中するべきだ。


 こういった決断を下すと、それを揺るがす事が起きるのが戦場というものであるという事も忘れてならない。


「伝令!伝れぇーい!!」


 駆け込んで来た伝令は顔面が蒼白だ。

 彼が来た方向は右翼側、その表情を見る限り更に状況が悪化した事が分かる。そして彼は「右翼西端にて敵の船が出現!!上陸、強襲を受けています!!」と叫んだ。


「知っている!中央からはこれ以上の兵は割けない!」

「ですが……」


 すこしでも援軍を引っ張り出そうとしていた伝令が、周囲の兵士の疎らさに気付き、それ以上の要求は無い。


「敵兵の所属はどうだ?」

「分かりません!!」

「次の伝令からライラック王の海兵が居るかどうかを知らせよ!」


 伝令は忙しそうに走り去った。

 ようやく完全に門が開き、投石の間に城内の兵を吐き出し続けるホリゾン城、土魔導士によって堀を埋め立てられ、守備の力を削がれ続ける両翼の軍隊。これらを支援するために各地に駆り出される中央の軍団。明らかに両翼に力が傾き中央に隙が生まれたこの状況を見て、静かに背中に汗が流れるのを感じる。


 時間が大きな周囲の喧騒と共に過ぎていく。

 夜中を過ぎても敵中央の軍隊はいつも通りの攻めを繰り出してきているが、そこに普段以上の気持ちを感じてどうにも味方が苦戦しているように見える。勿論これまでの防戦の日々に加えて夜襲となれば、疲れは溜まっているのに違いないが、それだけではなく敵の力の入れ方と言ったらいいのか、それが違う気がした。


「まだまだ夜は長いな」


 遠く東の空が少し白く色づき始めるのは、まだまだ先な気がした。

 長引く戦闘は一進一退だ。守るこちらは偶に土塁の上の主導権を取られる場所があるが、奪い返すことが出来ていた。それでも敵軍も諦めずに何度も奪いに来る。


「報告!報こぉーく!!」


 我々の真正面から血相を変えて兵士が走り込み、自分の前に跪いた。


「どうした?」

「正面!土魔導士が現れました!!」


 ついに来た。相手は今日のうちに決着を付けようとしている!!


はじめまして。都津(トツ) 稜太郎(リョウタロウ)と申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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