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12.ホリゾン平原の戦い4


 初めての敵の襲撃は日中のみであった。

 それぞれが堀を埋め立てようとする兵士や、矢を射かけて来る敵を弓矢で撃ち抜くのみで乱戦にはならなかった。モーヴ協商国軍も複数の攻め場所が出来るまで、正面の出入り口を攻略するつもりは無いようで、一切の前進が無い。


 初日以降の防衛戦は3日に渡って同じ内容が続いた。

 我々は夜中に堀の中に投げ込まれた廃材などを除去したり、土魔導士の力で堀を深く掘り直そうとしたのだが、3日とも夜襲を受けて作業が出来ない。更にその翌日からは、敵が全力で堀の埋め立てを始めて、それは夜中まで続き、お互いに睡眠不足の中戦っている上に、視界も悪い事で夜に行われた埋め立ては防ぐことは難しかった。


 そして4日目の朝、陽が昇り我々の視界に入ったのは、何か所も埋め立てられた堀だった。この状況を見て皆「これから本格的な戦闘が始まる」と理解する。

 そして大方の予想通り、本格的な攻勢が始まった。


「来るぞ!!盾の間から敵の横腹に矢を射れ!!取りて付いて来ている奴らには、槍を突き立ててやれ!」


 敵兵が埋め立てた柔い足場に少し速度を落としながらも、盾を前に構えながら土塁に取り付き始める。頭上に掲げた盾に守備側から槍が突き立てられるが、それを物ともせず登る勢いだ。我々アーチャーは彼らの防御されていない横腹を狙い、矢を放つ。

 ある者は脇腹を抑えながら中間まで登った土塁を滑り、下にいた他の兵士達を巻き添えにして落ちていく。ある者は横腹を防御しようと盾をこちらに向けて、頭の上から突かれた槍にバランスを崩して、落差が20フィート(約6メートル)もの高さから落ちていく。

 滑り落ちる味方の下敷きになったものは肺が潰れて死に、上にいた者もどこかしらを痛めて味方に後送されている。堀に落ちた者は大抵動かなくなるが、偶に動けるものがいても助ける事が出来ずに放置されていた。


「もっと矢を持ってこい!!もっとだ!!」


 背中と腰にある矢筒が軽くなり始めた。両方とも30本入るものを使っているので60本近くを短時間に射たことになる。これが無くなってしまえば、足元にある樽の中に入った3~4人が共通して使える矢を使わなければならない。


 矢の補給に2~3回人を走らせた頃だろうか、やっとのことで日没を迎えて敵軍が波の如く退き始める。初心者が使うグローブをしたのにも関わらず指先は赤く腫れていて、握力はなくなり、背中の筋肉が痛い。この初日の戦闘でどれほどの矢を放ったのか覚えていないほどであった。他の者より鍛えている自身がある自分でもこれなのだ。他の者達はパンを持つことも苦労するほど消耗しているだろう。


「フレディ、カンブリー指は大丈夫か?」

「大丈夫じゃないです」「辛うじて繋がっているくらいです」

「パンも持てないほどだったら、俺がそのパン貰ってやるよ」

「「いや…」」


 両隣の二人も相当消耗しているようで、自分の軽口を言い返す余裕もない。


「後は任せて交代だ。ゆっくり休んでいろ」


 今回の戦闘は地味につらいものだった。狭い城壁の上と違って、包囲陣を受けていることもあってか戦力が分散していて、弓兵の余裕が無い。戦いの最中にも何回か交代したが、休憩の時間が短すぎて、矢を補給して水を飲んだら直ぐに交代の感覚だった。



「王陛下」

「リデル、戻ったか」

「戦況はいかがでしょう」


 一度解散となった軍議の天幕にてひとり座って地図を眺めるエメリヒ王がいた。


「うーむ…難しいな。良いところと悪いところがある」


 まず良い点として、ホリゾン城側の攻撃が一切なかった。正確にはこちらのトレビュシェットや投石機の攻撃で出て来れなかったと言って良いだろう。ホリゾン城も戦闘の決着が見える場面以外で、門を開けたくはない筈だ。もうひとつは、どこも突破されていない事だ。

 次に悪い点…それは予想以上に敵の攻撃が激しいことだ。モーヴ協商国軍にもガランス伯の状況が入って来ているのか、最初から全力に近い攻めを受けている。特に出入口よこに集結した敵の土魔導士によって、堀が埋め立てられてしまった。これにより非常に苦戦を強いられ、犠牲が出た地点があるらしい。長い範囲を埋め立てれると、弓兵を置く隙間が無くなり、近接戦闘のみでの戦いになる為に被害が大きくなりやすいのだ。


「まぁ、こちらも土魔導士を集めて掘り返した訳なんだが……」

「だが…ですか?」

「敵の土魔導士を逃がした。直ぐに敵軍が土塁に取り付いて来たらしく、アーチャーで狙う場面を作れなかった」


 敵の土魔導士は明日も、明後日も倒されるまでどこに出現するか分からない状況で、動き続けるだろう。攻撃が薄いからと他の場所に人員をまわす余裕が無くなる。


「明日はある程度ホリゾン城側の兵と人員の交代をする。近衛騎士団のアーチャーも一度下がってよい」

「大丈夫でしょうか?」


 近衛軍の中で一番練度が高いのは我々近衛騎士団のアーチャーだろう。それが戦線から離れても大丈夫なのだろうか。今日でさえ厳しい場所に自らの身を置くことで何とか維持できた場所もある。


「仕方ないのだ…やってもらう事がある」


(あぁ…察するべきだった)


 エメリヒ王が簡単に自分を下げる訳がない……つまり王の小間使いの役目があるのだ。


はじめまして。都津(トツ) 稜太郎(リョウタロウ)と申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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