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10.ホリゾン平原の戦い2


 このホリゾン城2重包囲戦にようやく動きが見え始めたのは、季節が過ぎて晩冬を抜けようかとする時期だった。積雪の多かった大陸東岸の雪は徐々に解け始め、地面がぬかるみ始めている。


「伝令です!!」


 声が震えている。入ってきた伝令は晩冬と言えど未だに寒いこの時期に体が濡れていた。

 最近我々の伝令が包囲の隙間を抜けている事に気が付いたクロッカス王が、徹底的に伝令を潰すために警戒を強化した。その為西の川を越える事でしか伝令が届かなくなっていたのだ。


「ご苦労!まずは火に当たれ!当たったまま報告してよい」


 エメリヒ王は火に当たり、濡れた衣服を着替えるように命令すると、上裸になった伝令兵からそのまま情報を聞き出す。


「して、どうだ?」


 この場には近衛軍の主たる指揮官であるボウデン騎士爵にエドガー、ヴァトーから来た女首長までいた。伝令が到着したと聞いて直ぐに開かれた軍議の場である。


「はい、ヴァトー海軍は見事にモーヴ海軍を翻弄しているようです。決着は未だつかず」

「流石の活躍だな。他は?」

「ガランス伯が予定通り6000の兵を率いて侵攻を開始しました」

「おぉ!良い!メイズ大公国の動きは?」

「メイズ大公国は未だ深い雪の中にあり、動けておりません!」

「素晴らしいな」


 全ての報告を聞いたエメリヒ王は笑顔を隠さなかった。

 その姿に少し自分は違和感を覚えて質問してしまう。


「よろしいのでしょうか?」

「ん?何がだ?」

「メイズ大公国とモーヴ協商をまとめて倒す算段だったのでは?」

「それはな…最初はそうだったが、別に深雪の中を強行軍で来ないのであればそれでいい。こちらは兵数有利のままモーヴ協商の軍と戦えるからな。策がどうとかはもちろん大事だが、大前提として兵力の差が出来るのであればそれに越したことはない。正攻法を押し付けることが出来る」

「……なるほど」


 この報告を受けて、包囲の間にある我々近衛軍の士気は上がった。ガランス伯の援軍の到着が30日程度かかるとはいえど、この状況が変わるという希望があるだけで十分といえる。


 ところが、良い知らせの後に、悪い知らせを聞いた時は落胆も激しくなるというものだ。


「それは…本当か?」

「はい」


 我々の元に入った最初の知らせは、何故か2重包囲をしているモーヴ本軍の人数が増えているというものだった。この知らせに最初は我々は、見張りの気のせいだろうと処理していたのだが、その知らせが毎日のように入る上に、見張り以外の近衛兵からも声が聞かれるようになった。

 そこでエメリヒ王は偵察隊の派遣を決定し、2重包囲の敵陣を偵察するに至った。そしたらどうだろう、実際に兵士の数は増えていた上に、現在も敵陣に入る大部隊がいるという話ではないか。


「どういうことか……」


 エメリヒ王は思案した。

 最初の答えは、周囲の城から最低限の守備兵も全て引っ張って来ているのではないかというものだった。実際にその予想は合っていて、掲げられた貴族旗などを見ても、それぞれの城から兵士をかき集めている事が分かった。これは、モーヴ協商国西側からガランス伯の軍が侵入した事で、完全に防衛を捨てて、兵力の結集を図ったものだった。この集結によって1200程度の軍を加えてモーヴ本軍兵力が6200まで膨らむことになる。


「ホリゾン城の軍と合わせて8200か、それならば許容範囲内だな」


 事は解決したかと思われたのだが、その後に明らかに1200を超えた人数が加わって来ているという報告を受けたのは、更に5日後の事だった。


「は!?では、これまで合流した軍は?」

「明らかに1200を超えています…恐らく2000を超えて、未だに合流中だと」

「メイズ大公国軍か?」


 いつの間にかメイズ大公国軍が出撃していたのか、それともメイズ大公国はモーヴ協商国のどこかに兵力を潜ませていたのか。


「いえ、モーヴ協商国ではありません…合流する者達は皆モーヴ協商国の装備で旗を掲げています」

「……」


 エメリヒ王は目を瞑り少しの間考え込んだ。

 そして、ゆっくりと片目を開けると、報告をしていた伝令に質問した。


「海軍…モーヴ海軍の動きは?」

「海軍です…か?特に報告は無いです」

「違う、ヴァトーは最近大規模な艦隊を見たのか?大規模な戦闘は?」

「大規模な交戦はしておりません。王陛下の御下命通り、本格的な戦闘はせずに当たって、逃げてを繰り返しております」


 エメリヒ王はそこで得心がいったように何度か頷いた。


「今、包囲に合流しているのはライラック王麾下のモーヴ協商国海軍の兵士だ。それにライラック王が持つ陸軍兵も送り込んでいるな」


 有能なライラック王はヴァトー海軍が海賊のようなヒットアンドアウェイ戦法に変えたのを見ると、徐々に海軍を港に戻し、クロッカス王の軍を支援するために兵士をこちらに向かわせていたのだ。

 結果としてライラック王は既に、海兵と自らが持つ陸兵合わせて4000近くを送り込んできていた。開戦前の情報だとライラック王の兵力は5500程度の筈で、あと1000は来てもおかしくない。


はじめまして。都津(トツ) 稜太郎(リョウタロウ)と申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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