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9.ホリゾン平原の戦い


 ホリゾン城の前、ホリゾン平原と呼ばれる場所に我々が包囲陣を敷いたのは冬の真っ只中であった。

 この年はベルディグリ大陸の東岸にしては珍しく雪が良く降った。我々が包囲陣を完成させ、トレビュシェットを稼働している間に、雪は一晩で腰のあたりまで降り、更に数日置いて細かく降り続けた。

 そんな中、ついにモーヴ協商国の本軍がモーヴから進軍を始めた情報が我々の元に入ったのは、晩冬に入ろうとしている頃だ。


「陛下、モーヴ本軍が進軍を開始しました。我々に真っ直ぐ向かってきます」

「そうか」


 モーヴ本軍が集結を始めたという情報からそれなりの時が経っている。この遅さは本当にまともな戦略が無く、急ぎ対応しようとしているのかも知れないと全員が思った。


「我々は動きますか?」

「いや、動かない」



 エメリヒ王の言葉通り、我々は迫るモーヴ本軍に対して一切の動きを取らなかった。

 モーヴ本軍が我々から西に半日程度の場所に陣取ったという知らせを受けたのは、出発の報告から15日後であり、彼らの進軍速度は大雪の影響を受けた場合の通常通りと言って良い。


「モーヴ本軍の編成です。騎兵が1000程度他4000は歩兵、指揮官はモーヴ2王のひとりである、クロッカス王です」

「ふむ…ではモーヴ海軍の方の指揮官はライラック王であろうな」


 ボウデン総団長は視線を向けられて「恐らく」という答えしか出来ない。

 つい先日モーヴ海軍の方も動き出したという報告は受けたが、それ以降の続報は入っていない。


「向こうは野営していますが、陣を立てる様子は見せていません」

「我々の様子見だろう…ご苦労であった。我々はホリゾン城攻めを続行する」


 エメリヒ王にはこの長引くホリゾン城攻めを終わらせるために、自分からマジックアローの使用を提案した。確かに2重の鉄門を持っているホリゾン城であるが、二日に分けて2度放てばいい話だ。

 この提案にエメリヒ王は決して首を縦に振らなかった。


 結局我々近衛軍は動きを起こすことなく、それを見たモーヴ本軍は前進を開始し、我々の後背面に陣を敷いた。これはホリゾン城を包囲する我々を更に包囲する2重包囲のような形だ。後背面の包囲は広く薄い形となっており、彼らが陣を形成している間に我々が突撃すると十分突破可能であったのだが、エメリヒ王はそれをしなかった。それどころか彼らが広く陣を広げるために柵と土塁を作る作業も妨害さえしなかったのだ。当然この動きには軍内で疑問と不満が溜まる。


「エメリヒ王、近衛軍内から不安の声が……」

「分かっている」


 ボウデン総団長が兵士の声を代弁すると、エメリヒ王は静かに言うと更に続ける。


「皆に説明せよ、我々の後ろに陣を敷いたのは愚か者だと」

「愚か者…ですか?」

「そうではないか?我々の兵力は包囲の2倍だぞ、半数の兵力で包囲するなど聞いたことが無い。いくら土塁を高くして、柵を組み上げようと、近衛軍を二手に分けて突撃してしまえば彼らは倍の兵力に成す術なく敗北する。正直包囲してくるとは思っていなかった…が、それは彼が…少なくとも彼の周りは賢いと思ったからだ。それにこの景色を見ろ、大陸東岸にしては珍しく雪が深く積もっている。我々の強みである騎兵も生かせない」

「それは、そうなのですが…如何せん包囲される状況というのは、兵数の有利不利に関わらず兵士には圧迫感を与えます」

「分かっている…それを宥めるのはひと苦労だろうが、近衛軍の指揮官たるボウデンとエドガーに頼みたい。幸い我々は食料も春まで心配無いほど持っているからな」

「…はい」


 頑固な態度を崩してボウデン総団長を頼む姿を見せると、それに応えない訳にはいかなくなる。少しの弱みを見せるのはエメリヒ王の人使いの上手いところだ。


「ライラック王は勇猛果敢で戦略眼もあるのだがな、クロッカス王は…この状況を見て分かる通り戦下手だ。モーヴ協商国に2人の王が居らず、全てがライラック王の支配下にあったのならこの選択はしなかっただろうな」


 エメリヒ王の表情は遠い昔を見ているようだった。

 そう言えばエメリヒ王は王国の内乱の際に、我々が今攻略している大陸東側諸国を糾合してオロール王国の打倒を狙おうとしていたと言っていた。つまり、王はそれぞれの国に足を運び、その権力者と面識を持つことをしていた筈だ。これは、エメリヒ王が実際に顔を見て、話した上で決した策なのだろう。


「ヴァトーの海軍はどうなっている?」

「何度か衝突しましたが、決着つかずと」

「長引かせるように伝令を送ってくれ、出来れば終戦までモーヴ海軍を釘付けにしてくれとな。ライラック王には海の上でずっと戦っていて貰おう」

「はい…ヴァトーは海軍であれば引き延ばすのは得意でしょう」


 海賊国家と呼ばれていたヴァトーの海軍だ。少し交戦しては逃げて、致命傷を与えず、与えられず動くのは得意な筈だ。


 ホリゾン城を包囲するオロール王国近衛軍とヴァトー陸軍の包囲を行う、数で不利なモーヴ軍という混乱する2重包囲の状況は、状況が動かずしばらく続くこととなりそうだ。


はじめまして。都津(トツ) 稜太郎(リョウタロウ)と申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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