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8.大陸東岸の冬2


 白い息を吐き出しながらエメリヒ王は考え続けていた。

 徐々に振りを強めて来た雪がエメリヒ王の両肩に積もり始める。これはあくまで個人的な経験則であるが、この大陸東岸の雪は肩にのった雪が直ぐに溶けないと、積もる合図だった。今回の雪は少し積もりそうだ。


「ここが決戦か?」


 エメリヒ王が姿勢を変えた事で、肩に乗った雪が地面へと落ちた。


「リデル、近衛軍を含む陸軍は海戦に関与できないな?」

「協商国の海軍が戦闘後に帰港する場所は、確実に安全で大規模な港を持つオリエンタル港でしょう。海は任せるしかありません」


 少し首をひねり自分に視線を向けたエメリヒ王は更に問う。


「王国の東部軍…ガランス伯の出撃はいつ頃になる?」

「使いが協商国の領域を通ることが出来ない為にかなり時間がかかります…到着は晩冬、出撃は春の初旬から中旬かと」

「そうだよな…こちらの進軍が予想以上に順調過ぎた」


 我々は事前に情報を持っているはずの協商国が、十全な防備を整えて迎え撃ってくるものと想像していた。よって現在の地点まで到着するのは春先になるだろうと予想していたのだ。春先になるとガランス伯の軍が前進し、それに対応するようにメイズ大公国が軍を動かし、どこかの地点で決戦といった具合だ。数で劣るモーヴ協商国の軍が、単独で我々に戦いを挑んでくるとは予想していなかったというのもある。


 また少しの時間頭の中で情報を処理したエメリヒ王は馬首を返した。


「うむ……よし、ボウデンに使いを!軍をこちらに寄せよ!決戦だ」


 エメリヒ王の決断は呟き通り決戦だった……と思ったのだが、続く言葉に我々は驚いた。


「我々その間に包囲陣を敷く!!」

「ホリゾン城の包囲ですか!?」

「そうだ!もう一つ伝言がある!敵中を突破できる奴を呼べ!」


 エメリヒ王は決戦と言った割には攻城戦に入るのかという疑問を口に出す雰囲気ではない。断固とした決断がその表情には見えていた。


 海岸線を進むボウデン総団長麾下の近衛軍が到着するまで、我々はホリゾン城の包囲の準備を進めた。トレビュシェットや投石機、バリスタを城の東と南に配置し、城内からの突撃を抑えるため、包囲陣の全周に柵や土塁を全力で築いていく。更に包囲の外側我々の背面にも同じく柵や土塁を築き、更には堀まで造成し始める。軍が出入りする場所にはトレビュシェットなどを乗せて来た馬車の荷台を置き、更には糧食を保管する建物を建築し、最低限の馬車を除いた全ての荷台を障害物とした。

 軍の西端は川に守られ、東端はホリゾン城に続く崖の始まりが守る、長期戦を見据えた完全包囲陣だ。


 ボウデン総団長に軍の集合を呼びかけ、彼らが到着したのは我々がホリゾン城に到着した13日後、丁度包囲陣が完成した頃だった。まだモーヴ協商国の本軍が動いたという報告は入っていない。


「ボウデン及び4000の近衛軍、只今到着致しました」


 遠くでトレビュシェットや投石機が稼働している音が響く包囲陣にて、ボウデン総団長は困惑の表情を浮かべながら到着の報告を行う。


「海岸線の攻略ご苦労であった。伝令の通り糧食は徴発してきたな?全軍を包囲陣に入れるのだ、仔細な担当は追って伝える」

「はい、攻略した港にあった物は最低限を除いて全て。ところで……野戦ではないのでしょうか?」


 今までエメリヒ王に誰も聞くことが出来ていなかったことを、ボウデン総団長が口にする。


「そうだ、野戦ではなく包囲戦を行う」

「相手は我々よりも少ない兵力で、わざわざ戦いに来るというのにですか?」


 エメリヒ王を臆病とでも言い出しかねない、畏れ知らずなボウデン総団長は率直に疑問をぶつける。


「……だからだ。ここはモーヴ協商国の土地であり、我々にほぼ情報は無い。これだけの兵力差を覆す事が出来るという自信があるのだろう」

「我々の進軍が早すぎただけでは?急ぎ対応しようとしただけなのでは?」

「それならば良い…無策に突っ込んでくるだけならこちらも対応できる」

「安全策という事でしょうか?」

「そうだ、この時間を使って周囲の地形は粗方調べさせた。ここらは兵を伏せるような場所、ひそかに動かせる場所が無い。野戦をするのであれば我々が布陣しているホリゾン城前の平原を使う。我々が戦場を選ぶのだ」

「あまり時間を掛け過ぎては、メイズ大公国の援軍が……」


 ボウデン総団長の疑問に、トレビュシェットの発射音の方向にエメリヒ王は視線を向け、話を続ける。


「であるならばさらに良い。ガランス伯には急使を出した…順調に伯の元に到着したのならば晩冬には動き出す」


 モーヴ協商国・メイズ大公国が連合軍になるとして兵力は海軍を抜くと1万3~4000になるだろう。一方の我々は近衛軍・ヴァトー連合軍として1万1000に、ガランス伯が率いる予定の6000を加えて1万7000の兵力となる。


「どちらに転んだとしてもだ…我々近衛軍はモーヴ協商国とメイズ大公国の軍を誘引するための囮となる。それが一番確実に今回の勝利を拾う方法だ」


 エメリヒ王はいつものような賭けとも言える戦法を取るつもりは無いようだった。


はじめまして。都津(トツ) 稜太郎(リョウタロウ)と申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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