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7.大陸東岸の冬


 ヴァトーを臣従させたのち、我々近衛騎士団がジェルソ辺境伯領に帰還した時には、冬真っ盛りといった具合で連日白い息が出るようになっていた。この寒空の中で戦争をしなければならないのは憂鬱だが、大陸中央北部のカーマイン辺境伯領と違い、大陸東岸は積雪の量自体は多くない。我々に与える影響は少ないだろう。

 もう一つ大陸東側の天候のうち重要な点として、冬季間において山間部に位置するメイズ大公国は積雪が非常に多く、軍を動かす事が困難であるというところだ。よってモーヴ協商国との戦争で、メイズ大公国の大規模な援軍を心配しなくて済む。


 ヴァトーからの援軍が到着したのは、ジェルソ辺境伯領で今年4回目の雪が降った日だった。


「大して積もらなかったな」


 暇を持て余したカールが雪を足で寄せながら話しかけて来る。


「降らなくて良かったよ。ヴァトーの陸軍が到着して明日から進軍開始だってのに、ラッセルしながら進軍なんて嫌だからな」

「それにしても、ヴァトーはたった1000の軍か。臣従したって割に少ないんじゃないか?」

「いや、海賊ばかりの国で陸の常備軍を1000も出したら、ほぼ全兵力と言っても良い。誠意は感じるだろう?」

「ほぉー、そうなのか」

「ヴァトーの陸軍総兵力なんて、全力で徴兵しても1800が良いところだ。ここから追加で来るとしても500くらいだろうよ」

「それじゃあ海軍は?」

「そっちの方が兵力としては大きいな2000はある。遅れて参戦するがな」


 流石は海賊国家といったところで彼らの船は大小合わせて50隻以上持っている。


「はぁ、明後日から進軍か憂鬱だな」

「冬季の進軍は快適ではないからな」



 オロール王国近衛軍・ヴァトー陸軍連合、総勢1万1000の軍は、ジェルソ辺境伯領から南へ進軍を開始した。

 十分な糧食を抱えた連合軍は、大きな街道が通る内陸側にエメリヒ王直率8千の軍が進軍、もう一つの経路である海岸沿いを、ヴァトー陸軍を含む4000名をボウデン総団長とエドガーが率いて進軍した。


 国境線沿いにある小さい町や砦は3日もかからず陥落し、我々はモーヴ協商国の領内へと踏み込んでいく。モーヴ協商国の領内に踏み込むと時を同じくして、足首程度の積雪があったが進軍の足は緩まない。


 街道沿いや街道を睨む場所にある砦や城をひとつづつ時間を掛けて攻略していく。協商国でも海側に当たるここいらは協商国となる前、オリエンタル王国と呼ばれていた場所だ。城や砦に籠る兵力は少なく、多い城でも300程度で20倍以上の兵力を持つ我々にとっては簡単な攻略となる事が多かった。

 その証拠に自分のマジックアローの出番はここまで全く無い。我々が城を囲むとその兵力に驚いた砦や城が先に降伏を申し入れて来たり、忠義を発揮して籠城を選択した城も、全方位から同時に襲い掛かって来る軍に成す術もなくあっという間に陥落する。


 海岸線を進むボウデン軍の方も順調で目立った抵抗にあっていない。これはモーヴ協商国の海軍が南のオリエンタル港に軍を集結していた事によるもので、まともな海兵も軍も残っていなかった。彼らの海軍が出張って来ていない事で、ついに南下を開始したヴァトーの海軍も、陸軍と協調して散発的に沿岸の都市を荒らす程度の事しか出来ていない。



 オロール王国・ヴァトー連合軍はベルディグリ大陸の東岸の半分を占める旧オリエンタル王国領の半分程度まで進軍し、一番の敵は冬の寒さをどう乗り切るかという状態だった近衛軍に、ようやく苦戦する城が出現したのは、沿岸の軍も合わせて17の砦と城を落としたところだった。


 そこは協商国内陸側の旧王国であるコバルト王国の接続点となる街道が交差する場所である。この十字路を西に向かえば、旧コバルト王国の北端の街道へ、南へ向かえば旧オリエンタル王国”首都オリエンタル”であり大陸最大の貿易港であるオリエンタル港へといった具合だ。

 この交通の要衝となる十字路を覗き込むような小高い丘の上に建てられた城に、旧オリエンタル王国領の2000の兵が立てこもっていたのだ。城は丘の西側を走る河川と切り立った北側の崖によって守られ、侵攻路は東か南に限られる攻略が難しい場所である。

 更に時を同じくして南方のオリエンタル港にいた海軍60隻3000名も動き出したという報告を受けて、沿岸部を含む連合軍全軍が足を止めた。


「旧コバルト王国側の軍の様子は?」


 天候が悪化しそうな灰色の空に浮かぶように聳え立つホリゾン城を見上げながら、エメリヒ王が自分に問う。


「報告によれば、続々と軍をモーヴ協商国首都のモーヴへ集結中とのこと。数は5000」

「モーヴから此処までは10日程度だったな?」

「はい、強行軍だと2日短縮できるのではと言われていますが」


 まだ昼時にもかかわらず周囲が薄暗くなってきている…空の模様が段々と悪化してきたようだ。エメリヒ王がホリゾン城を見ながら考えている内に、雪がちらほらと舞い始める。


はじめまして。都津(トツ) 稜太郎(リョウタロウ)と申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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