5.ヴァトーへ4
降伏勧告の上に軍を拠出するように要求する。
それをする側の大国の王が、される側に直接乗り込み行うという非常識。これが今まで聞いたことも無い蛮勇の愚行となるのか、それともエメリヒ王が英雄の王と呼ばれる一歩となるのか、未だバルグ首長の口から結果は出ていない。
「……私は首長であるが、全ての部族の首長と話し合わずにこの重大事を決める事はしない」
「勿論、首長たちの話し合いの結果を待とう」
「川沿いに西へ半日行ったところに小さい湖がある。野営に丁度良いだろう」
「承知した」
「後ほど使いを送る」
会談を行った日から16日間の野営の後に、我々は再びヴァトーの首長の元へと戻った。
前回も使った集会場には陸の軍を率いる二人の首長と、海賊を率いる二人の首長にバルグ首長を合わせて5人が座っていた。うち、ふたりの陸の首長は最初の砦と、長城の砦で我々が見た顔であった。海賊を率いる首長の二人は、親子ほどの差が有りそうだが、どちらも風格と顔に及ぶ刺青がある。
「此処にいるのは、各部族の首長だ。私はヴァトー半島東岸、この二人は西岸を分けている。こっちの陸の族長たちはあったと思うが、ヴァトー内陸を南北に分けている」
「お初にお目にかかる。オロール王国国王のエメリヒ・オロールだ」
簡潔な自己紹介、オロール王国国王に即位しミドルネームの”フォン”が消えたエメリヒ王の名前だ。
各部族の首長はいったい何の用だと、厳しい表情を変えない。
「今回皆に集まって貰ったのは、こちらのオロール国王の用件だ」
「……」
「オロール王国はモーヴ協商国と戦をするつもりらしい、我々からも陸と海の兵力を出して欲しいと。私は賛成だ…これまでの食糧支援で、ここ数十年我々は飢えていないからな。それくらいの恩は返さなくてはならん」
「儂も構わん」
最初に賛成の声を上げたのは、海の部族の老いた首長だった。彼自身が食糧支援の効果を実感していたのだろう。それに続いてもう一人の海の首長も賛成の声を上げる。
「多数決であれば、既に決しているではないか」
陸の二人の首長は肩を竦めた。
「いや、今回は全員の賛成を取りたい」
「であれば、私は反対だ」
「俺は賛成」
最初の砦で見た男の首長は賛成、長城の砦で見た女の首長は反対を表明する。
「……反対か」
「確かに恩はあるが、それを盾に我々の命を使い捨てるつもりだろう?」
疑いの目を向けられたエメリヒ王は言い返さない。それを見てバルグ首長がエメリヒ王に返事を促す視線を送った。
「そのようなつもりは無い…と言っても疑われている状況でそれを言うのは難しいな。海からは沿岸の町を奇襲してもらう間に、我々陸の軍は共に動き、一つ一つの城の攻略を目指す。決戦を挑んでくるのであれば、それを受けるという形だ」
「……」
「必ず先陣を切るように言うつもりは無い。共に肩を並べて敵に立ち向かう。若しくは別動隊として働いてもらうか」
「別動隊?」
「あぁ、別行動で城を攻略してもらう。向こうが打って出て来るのであれば逃げても良い。要するに陽動だ」
「城攻めなど多大な犠牲が出る事を押し付けているのではないか?」
「落とした城は、ヴァトーの領地としてもらっていいい」
「……ふむ」
女首長は少し悩み、「であるならば、こちらにも利益はある」と頷いた。
結局のところ囮にされる可能性は余計に上がった気がするのだが、女首長にとってヴァトーと自らの部族の利益になるかどうかが大事なようだ。
「では、我々もモーヴ協商国と戦う事としよう」
バルグ首長の言葉に全員が頷き承認される。
「次の議題だが……」
「オロール国王はここまでかい?」
「いや、オロール国王がいなければいけない話だ」
ここからが本題と言っても過言ではない、またもや身構える時間だ。
「オロール国王はヴァトーに傘下に降って欲しい、と」
直截な言葉に集まった首長は一度聞き間違えかと疑い、次いで驚き、老首長は深くため息を男の首長は手を剣に置き、女首長は剣を抜き放った。
「どういうことだ!!」
女首長の視線がエメリヒ王に向いたところで、バルグ首長が「剣を収めよ!!」と怒鳴る。
「収められるか!王国の傘下に降れと?確かにそう言ったのか!?であるならバルグ首長は、何故聞いた時に切り捨てていない!?」
「…剣を収めよ!此処は血を流す場所にあらず!」
バルグ首長の強い制止の言葉に浮かせた腰を落ち着けた女首長だが、その手に持った抜き身の剣は少し剣先を下げただけだった。
「現実の話として、我々にはオロール王国に対抗するほどの力は無い」
「だが、目の前に首魁の首がある!」
「今その首を取るとなれば、ヴァトーの民全ての首が胴とお別れする」
「しかし、我々にも誇りが!」
「冬に民が飢える事が亡くなったのはオロール王国のお陰だ、エメリヒ王何か言う事は?」
バルグ首長はこれ以上女首長に喋らせまいと、遮るようにエメリヒ王に会話の主導権を渡す。
「勿論ヴァトーの民の全ては王国民と同じように扱われる。首長たちも王国貴族に……ついてはボルグ首長の長男と私の娘の婚姻を進める。今回のモーヴ協商国侵攻において手に入れた土地の配分もする」
婚姻はエメリヒ王の実子はまだ小さいので、最近モーラ公の縁戚から養女として迎え入れた娘の事だろう。
「エメリヒ王!婚姻で釣ろうとは!いくら旧交が有ろうとも!!」
「エメリヒ王、あとは首長たちで話し合います」
「承知した」
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




