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2.ヴァトーへ


 ヴァトーへ出発したのは晩夏の頃だった。

 近衛軍は正式な常備軍として編成され、農作業などの仕事に従事しないからできる動きだ。


 王都を出発した近衛軍は大きな街道を通り、現在はモーラ公の居城となっている元北方大公の城、タリヴェンド城に到達した。近衛軍はそこで短い休息を挟んだ後に北西進し、ローシェンナ地峡へと進入する。

 ローシェンナ地峡の南側に巨大な城壁の如く聳えるノワゼット山脈の山頂付近は、既に白く染まっている。今のノワゼット山脈は秋の紅葉と白い雪のコントラストが美しく輝く季節に入っていた。

 実は自分がローシェンナ地峡を通るのは初めてだ。内乱の頃にモーラ辺境伯領へ向かおうとした時は、北方樹海を通らざるを得なかったからである。だから、まだ始まったばかりの秋でこんなにも綺麗なのかと少し驚いた。是非とも家族に見せたい光景だった。


 景色に目を奪われ、家族の事を考えながら進んだローシェンナ地峡はあっという間に過ぎ、ワイングラスの形をしたオロール王国の底の部分、ブルーエへ2回目の到着となったのは、晩秋に入ろうとする頃だった。


「久しぶりだな」


 景色を見た時に出た言葉は、懐かしさから出た本心だ。目の前に広がる光景は数年を経ても変わらない。


「故郷でもないのに懐かしい気持ちになる」


 隣にいたカールが同調するので、少しエメリヒ王に視線を向けた。

 エメリヒ王がこの中で一番長い時間を過ごしたのだ。妾腹の子として疎まれ、放逐された先はこのブルーエであった。彼にとって忌まわしい場所か、それとも決意の場所かは分からないが、エメリヒ王の目に昏さは見えなかった。


 ローシェンナ地峡を通過の為に細く縦に伸びた近衛軍は、集結に時間が掛かった。その間も近衛騎士団はしっかりと仕事がある。ヴァトーへ向かうエメリヒ王の護衛だ。


「陛下、準備が整いました」

「うむ、では我々不在の間の近衛軍の指揮はエドガーとする」


 いつになく緊張したエドガーが「畏まりました」と、糸で釣られた人形のように挨拶する姿に吹き出しそうになってしまう。

 エドガーはスマルト共和国攻略の功により、初夏の頃に正式に男爵に叙され、スマルト共和国の余った領地を与えられていた。自分のホワイト領のように王家直轄領でないから、より正式な貴族とも言える。


「目指すはヴァトーの首長が居を構える半島東岸だ。進め!」


 近衛軍の完全集結を待たずに出発したエメリヒ王と近衛騎士団は、ひたすらに北を目指した。


 ヴァトーは成り立ちとして実はかなり古い。

 その昔に大陸を統一していた旧王国が成立する少し前から、半漁民半海賊たちが深い入り江をいくつも持つヴァトー半島を根城としたのが初めだ。そこから隣国に協商連合が成立するまでの間に、流れ者や野盗崩れ、海賊が大陸最北のヴァトー半島へと流れつき、定住していった。

 旧王国崩壊後に成立した当時の協商連合と新大陸との交易が本格的に始まると、ヴァトーはそれを襲い始める。大陸でも最北に位置するヴァトー半島は、農作が困難で冬場の漁も難しかったのだ。この頃から海賊国家と呼ばれるようになり、勿論これに怒った協商連合は幾度もヴァトーへ侵攻した。だが、彼らが知り尽くした地理と築いた長城に自然の要害と阻むものが多く、それも上手く行かなかった。

 戦争していない期間が無い協商連合と海賊国家ヴァトーであるが、そこに我々オロール王国の横やりが入る。協商連合のひとつであるブルーエ王国への侵攻だ。

 このブルーエ王国がモーラ辺境伯領となり、今はジェルソ辺境伯領と呼ばれるようになるのだが、これにはヴァトーとの密約があった。海賊行為を認め冬季の食料支援をする代わりに彼らは海と沿岸を荒らし、ブルーエ王国の兵士を引き付けその間にオロール王国が侵攻するというものだ。

 結果としてこれは成功しオロール王国はブルーエ王国を打ち倒し、危機を察知した残りの協商連合2国が合併し協商国となった。そしてオロール王国と和解する。


 ここまでが海賊国家ヴァトーとオロール王国の歴史だ。


 そして目の前にはその歴史を証明する一つ目の関門が見える。

 北方樹海から北の海へと流れ出る西の川と東の丘陵地帯に挟まれた僅かな平地…ここにヴァトーが幾年にも改築を続けた巨大な砦が横たわっている。深く広く掘られ、川の水を引き入れた堀に高い土塁とその上の木柵、木で組み上げられた高い櫓。そこにうっすらと積もる雪が、既にベルディグリ大陸最北の土地であるヴァトー半島は冬の様相であることを示していた。


「先触れによると、通行可能とのことです!」


 近衛騎士が報告を上げると静かにエメリヒ王は頷く。それに反応したボウデン総団長が近衛騎士団に前進を命ずると隊列が前進をはじめる。

 これから我々が向かおうとするのは、海賊、山賊、野盗、脱走兵とその子孫たち、正直褒められた経歴を持つ者がいない土地だ。


(あぁ、自分とエメリヒ王は生きて帰ることが出来るのだろうか)


 頭の中に去来する思考を振り払うように頭を左右に少し振った。


はじめまして。都津トツ 稜太郎リョウタロウと申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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