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1.更なる拡張へ


 スマルト共和国との戦いを終えて、近衛軍と近衛騎士団に与えられた休息は1年と少しだった。

 たった1年の休息と言っても、その中身は練兵に王の護衛と書類仕事と息つく暇もなく過ぎていく、家族に会うために故郷に帰り、見ない内に大きくなった子供達と触れ合っている時間も大してない。


 そして帰って一息つく間もなく、前回の侵攻前と同様、夏の中頃に王国会議が招集された。


「議題は次の戦いについてだ」


 エメリヒ王が今回も口火を切る。前回と違うのはエメリヒ王の言葉に苦い顔をする者はいない事だ。エメリヒ王に実績が伴った事と、他国の併合と領地の拡大、内乱からの復興がほぼ終わった事で、諸侯に余裕があったのだ。


「スプルース帝国の動きは鈍い、今のうちに出来るだけ領土を広げないといけない」


 我々がスマルト共和国と戦い、休息している間にスプルース帝国は獣人国家のモルドレを半島の先にある3つの城のみまで攻め落とし、滅亡寸前まで追い込んでいる。だが、その後の侵攻は苦戦し、そのせいもあってか、帝国領から必死に逃げた獣人が難民として王国に流入していた。また、帝国は遊牧民族連合体の”シャモア”にも侵攻を計画しているという情報が流れて来ていた。このシャモアまで帝国の手に落ちると、大陸の西側は統一されたと言っても過言でない状況となる。

 そうなればスプルース帝国はオロール王国に集中することが目に見えているので、その前に少しでも王国を強くしなければならないのだ。


「次はモーヴ協商国だ」

「メイズ大公国ではなくですか?」


 モーラ公が出した声をエメリヒ王が制す。


「言いたい事はわかる。最も近く、そして積年の敵であるのはメイズ大公国だ。だが、現状お互いに大軍を派遣することは、間に横たわるアイボリー山脈により困難である。よってメイズ大公国との戦力差を活かすことが出来ない。であれば、先立ってモーヴ協商国を攻略、よりなだらかな地形をしているメイズ大公国東側からの攻略を目指す」

「モーヴ協商国を攻略するとなると、メイズ大公国に助けを求めるのでは?最悪連合という形も……」

「それはそれで、好都合である」

「好都合…ですか?」


 モーヴ協商国は海運が国家事業であり海軍国家である。だが協商国となる前は内陸側にひとつの国が有り、輸送路警備の為に強大な陸軍を持った国家であった。今は一つの国となっているが、輸送路警備の為に1万近くの陸軍という、国の面積にしては多くの兵士を持っていた。そこにメイズ大公国の総兵力である6~7000が加わるとなれば、陸海軍を合わせた総兵力としては近衛軍の2倍以上の兵力を持っている事になる。さらに、モーヴ協商国の海軍がオロール王国沿岸を荒らす訳で、それなりの沿岸警備隊を置かなければならない。


「まとめて蹴散らせばよいのだ」

「……兵力が2倍近いです。更に協商国の海軍まで」

「当然兵力差はあるが、沿岸警備の当てはある。ヴァトーだ」

「海賊共ですか!?」


 海賊呼ばわりされているヴァトーは文字通り海賊国家だ。

 ベルディグリ大陸最北西部の半島であるヴァトーに根を張る海賊たちの国で、協商国家の商船を襲う事を生業としていたならず者の国である。勿論陸地で協商国と接していた頃は陸戦も行っており、半島の付け根にはいくつもの長城が存在している。

 オロール王国とヴァトーの関係は良いが、それはオロール王国が他大陸との貿易を行っておらず、協商国家を攻める際に友好を求めたことによった。


「今回の遠征計画を話そう」

「もしや、また陛下が…「そうだ」」


 今回もエメリヒ王が最前線に立つそうだ。

 いや、王国で自由に動かせる兵力が近衛軍と少しの諸侯だという事を考えると、当然と言えば当然であるのだが、それにしても活発な王だ。


「ヴァトーを王国に吸収する。その後ジェルソ辺境伯(旧モーラ辺境伯領)の軍と共に南下する。モーヴ協商国は北方より近衛軍が、東方よりガランス伯率いる旧スマルト共和国の軍で挟撃する。その間にメイズ大公国が出て来るのであれば、両軍で集結を図り決戦だ。メイズ大公国の周辺の領主には侵入の気配を匂わせ、動きを牽制してもらう」

「もし、お言葉通りヴァトーを味方にできるのであれば可能でしょう……ですが彼らは海賊の集まりですぞ、簡単に味方するとは思えないのですが」

「それには、少し策がある」


 そこからエメリヒ王が話した内容は納得できるが難しいものだった。だが、エメリヒ王が「これでやろう」と言うのであれば、それを覆す程の説得材料を持ち合わせていないのも事実だった。モーラ公は終始厳しい表情であったが、エメリヒ王が根回ししていないとも考えられないので、皆の手前のポーズであろう。もしくは、ヴァトーと隣接する領地を持っていたものとしての本当の懸念か……


「これ以上意見が無ければ、王国会議を閉会する」


 スマルト共和国の戦後処理とこれからの拡張策について話し合われた、20日間の王国会議がエメリヒ王の言葉によって閉じられる。

 王国会議の内容から言って、今回も近衛騎士団は忙しそうだ。たまにはエメリヒ王にも王都にどっしりと居て頂きたいものだ。でないと家族に会う頻度が落ちてしまう。


はじめまして。都津トツ 稜太郎リョウタロウと申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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