15.スマルト共和国の終焉
スマルト共和国の首都ミデュテラトが落城したと知らせを受けた各地の反応はまちまちであった。
元々スパーダ議長に反感を抱いていた議員を擁する都市は、その知らせに喜び開城し服従を申し入れて来た。この段階で降伏し税金と兵士の拠出をするのであれば、都市の自治と議員の地位は保証するという布告に食いついた者も多いだろうが、それでもスマルト共和国の都市のうち、3分の2ほどは即座に服従したのだ。
残りの3分の1の都市は、スマルト共和国の民主主義に誇りを持っていたり、スパーダ議長にとって代わってやろうとする野望を持つ議員がいたり、はたまたメイズ大公国やムタルド教国など他国への臣従へ向かった都市もあった。
我々近衛軍はこの反乱した都市や敗残兵をひとつづつ潰して回った。
元々スマルト共和国の兵数は多くない。広大な湿地帯や丘陵地帯を持つスマルト共和国は、食糧事情があまり良いとは言えず、人口が少ないからだ。
ある程度近衛軍を分散しても、各都市の制圧に困る事はなかった。結果として1年半という短期間で大半の制圧が終わったのだ。
残されたのはムタルド教国に臣従した国境近くの4都市で、保護の為に兵を出して来たムタルド教国との数度の小競り合いを経て、こちらからの手出しは行わない事とした。
「ムタルド教国め……出て来ることは予想していたが、実際に来られると面倒な事この上ない」
近衛騎士団のみを随伴とし、1年半ぶりに王都へ戻ったエメリヒ王が、玉座に座して最初に言った言葉が愚痴だ。
「たった1年半でスマルト共和国を平定するとは…流石にございます」
共に戻って来たボウデン総団長がエメリヒ王に言葉を返すが、エメリヒ王の表情は晴れない。
たった1年半という短い期間で1つの国を滅ぼし、自らの傘下に組み込み、安定させたのだ。王国人の中には偉大な王と呼ぶ声も増えている。これで機嫌を悪するのは完璧主義とも言えるエメリヒ王の悪い所が出た形だ。
「ボウデンよ、近衛軍の司令官として今回の戦役をどうみる?」
「近衛軍の練度もかなり良くなりました。随時王国内から徴兵しておりますが、一連の行動で逐次実戦訓練ができております。軍の規模も9500に達し、今年中には1万となるでしょう。各部隊の将軍も揃ってきました」
「ふむ……そうか。では、私や君が指揮を執れない時に代理で近衛軍の指揮を執れるものはいるか?」
「私としては……」
ボウデン総団長が自分に視線を向けた。
どういった意図があるのか分かりかねていると、ボウデン総団長がエメリヒ王に再度視線をもどした。
「リデル・ホワイト伯の部下、エドガーなどが宜しいかと」
驚きのあまり目を見開いてボウデン総団長を見てしまった。
エドガーは確かに有能だが、今回のミデュテラトの戦いから掃討戦まで、自分の領地から徴兵した者達を指揮した程度で、300か400程度の兵士しか扱っていないはずだ。そこまでの判断材料になるとは思えない。
自分の驚きを余所に、エメリヒ王は機嫌の悪そうな表情から明らかに興味を持った表情に変化している。
「ほう!ボウデン、その心は?」
「聞けば、エドガー殿はカーマイン侯の下で小部隊の隊長、リデル副団長の元では副官として活躍していたそうで、これまでの実戦経験に指揮経験も十分、兵士と指揮官の両方の心を理解しています。特に小部隊の運用は目を見張るものがありました。大部隊の運用もある程度出来ていたので、直ぐにいい指揮をするようになるかと」
「そこまでか」
「はい、ですからリデル副団長が許すのであれば指揮官代理として適当でしょう」
エメリヒ王から視線を向けられる。
エドガーは優秀な副官であり、いつもは領地の守備を任せているので、手放したくないところだが、エドガーの為を思えばこの機会を自分が潰す訳には行かない。
「どうだ?」
「……エドガーは優秀です。必ず陛下のお役に立ちましょう」
「では、まずは男爵に叙するか…暫く様子を見て代理として適するとなれば子爵としよう」
エドガーのいないところで勝手に彼の将来が決まっていくのは可哀想であるが、能力を評価されて相応しい地位を手に入れるのであれば、この戦乱の世で生き抜くのにより力になるであろう。
「旧スマルト共和国の兵士はモーヴ協商国に備えさせよう。ところで郡令を誰に任せるか」
「序列で言うのであれば、東方大公の配下にいた諸侯から選ぶのが妥当でしょう」
「ふむ、では決めるとしようか」
この話し合いから近くに行われた諸侯との折衷の結果、ペルシア城主であったパーシアン候がとガランス伯が旧スマルト共和国領の郡令として任命された。それぞれに要衝となる場所に新たな居城を築くことを許可されている。
スマルト共和国の兵力はこの二人の郡令のもとに集約され、パーシアン候はムタルド教国との国境に備え、ガランス伯はモーヴ協商国に備えた。
これにて完全に旧スマルト共和国領の処置は終わり、ベルディグリ大陸の地図から姿を消す。だが、更にオロール王国の拡大は息をつく暇も与えないものとなる。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




