13.ミデュテラトの戦い5
大きく振った手の合図と共に、もう一度集団の中から鏑矢が放たれた。
手にしたマジックアロー使い慣れた弓に番えた。今日の体の調子や良しだ…体から少ないながらもしっかりと魔力を感じることが出来る。
重心を意識して、姿勢を整え、弦に指をかけた。
弓を持ち上げ、矢に全力の魔力を込め始める。
この一撃で全てを吹き飛ばすのだ……近衛の後ろに迫るメイズ大公国の旗が見える。まだ引き離せていない様子だ。これでは味方を巻き込むことになってしまう。
馬の余力をすべて使いきってでも、早く敵を振り切ってくれ……部下達を巻き込んでまでマジックアローを放つ勇気はない。弱気になったその瞬間に、自分の祈りが届いたのか、余力を振り絞ってさらに近衛騎士団が速度を上げた。
先頭を走る近衛騎士が交代し、土と血に汚れて見慣れた風体のサルキとなる。
そのサルキが地響きかと思わずにいられない大音声で”さんかぁーい!!”と叫んだ。それと同時に放たれる鏑矢。動き始めたのは距離にして1000フィート程。
川の流れが大きな岩にぶつかった時のように、近衛騎士団が左右の2手に分かれていく。あらかじめ決められた部隊がそれぞれの流れに乗って、分かれた集団に各近衛騎士団旗と王旗が見える。
これだけ動きを出せばメイズ大公国の騎兵も引き離せるだろうことを確信し、弓を引く時に鏃に向かって流すイメージに変えて、引き切る。
久しぶりに放つ全力はどれほどのモノだろうか……最後に放ったのはエメリヒ王が性能を検証したいからと、妻であり開発者であるルーシーと自分と、カーマイン辺境伯領の頃から付き合いがある護衛達だけを連れて秘密に注意を払い性能検証した時以来だ。
カールとライアン、カンブリーをはじめとする馴染みの連中のみが、護衛の為に自分に向かって突進してくるが、それ以外は集団が完全に左右に割れた。
そして姿を現すメイズ大公国の騎兵。
黄色に近いメイズ色の旗を掲げている彼らは、身長ほどのショートスピアに大公国旗が描かれたカイトシールドを持っている。簡素だが実用的な鎧は磨かれ夕日を反射していた。既に左右の視界の隅へと消えて行こうとしている近衛騎士団と比べると、随分目立たない。
彼らは横幅の狭い隊形を取っていた…自分の放つマジックアローに好都合だ。
自分の所を飛び越す勢いで突っ込んできたカール達を無視するのと同時に、左を王旗が通過するのが見える。丁度、メイズ大公国の騎兵はここから1500フィートを通過したところだろうか。
そして完全に近衛騎士団が自分の横を通過した時には500フィートの距離に迫っていた。全速力で走る騎兵にとって500フィートの距離など息をゆっくり2つ吸ったら、届く距離だ。もう時間の猶予はない。
狙いは先頭を走る、いかにも猛者といった雰囲気の髭の男に……魔法の放出は、逆刺部から螺旋状に流すイメージで……
放つ。
体に今までに無いほどの衝撃が加わった。
世界がゆっくりと動いている気がするが分からない……体の調子が良く、数日魔力を使わずに充実させているとこれ程の威力が出るのかと、驚かざるを得ない。
……こんなことを空中に浮き、空の青に視界が支配されながら考えられているのだから、世界がゆっくりと動いているのだろうか……いや、正確には自分の考える速度が上がっているのか?
まぁ、そんなことは今はどうでもいい!!このままだと頭を打ちつける。
左手に弓を持ったまま右手で頭を抱え込み、体を空中で丸めた。
その瞬間と言っても過言ではないほど短い時間の後に体が地面に打ち付けられた。受け身を取る準備をしていたお陰で、大きな痛みがあるだけな気がする。
痛みに思わず体を伸ばしながら、ゆっくりと目を開けると周囲には地面から巻き上げた砂埃が舞っていた。周囲は茶色に染まり非常に視界が悪い。どうやら、自分が打ち付けられたのは窪みの反対側のようで、それが自分の周囲の傾斜から分かる。
近くに立てていたオロール色の旗は無い上に、一緒の穴にいた馬は驚いて、どこかに行ってしまったのか姿が見えない。
もしかしたらマジックアローが敵に効かず突進してきているかもしれないという事に思い至り、体を起こして剣を抜く。
「おい!大丈夫か!!」
声のもとに思わず剣を向けるが、茶色い砂埃の中から現れたのは馬に乗ったカールの顔だ。
どうやら後ろに退き、マジックアローの発射を確認してからこちらに来たらしい。馬の驚きを抑える為にも、敵を欺くためにもそれが一番だ。
「あぁ」
「じゃあ、取り敢えずこっちに剣を向けるのをやめてくれ!」
「あぁ、すまん」
剣を今度はカールが顔を見せた方向と反対に向ける。敵が来るならその方向だ。
「おっ!いた!!」
視界の悪い中、自分とカールの会話を頼りに次々と知った顔が集まってきた。
フレディは逃げ出した自分の馬を曳いて来てくれている。
無事にマジックアローの威力が発揮されたならば、続いて行われるのはメイズ大公国の騎兵を掃討する戦いだ。徐々に落ち着き始める土埃の先に見えるのは何だろうかと、全員が静かに見つめた。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




