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12.ミデュテラトの戦い4


 自分は近衛騎士団の最後尾に付いた。

 近衛軍の横陣の右端を通り過ぎ、敵左翼の姿が見える位置まで来ると、右に移動する土埃で相手の騎兵も反応したのが分かる。

 近衛騎士団が衝突する味方と十分な距離を取り、いよいよ敵陣へと向かおうとすると同時に、メイズ大公国の騎兵がスマルト共和国の歩兵陣の裏から出現した。


「進めぇ!!」

「近衛騎士だぁーん!突撃!突撃!!突撃!!!」


 エメリヒ王の号令とそれに反応したサルキの声が、地面を蹴る蹄の音と擦れる鎧の音に混じり、風に乗って最後尾の自分まで届く。

 それを合図に自分は最後尾を離れて、さらに右にある少し窪んだ地形へと進み始めた。

 徐々に離れていく近衛騎士団の動きに合わせるように、相手の騎兵も戦場を駆けてその勢いを止めんと動きを加速させる。


 距離が十分近づくと互いにその横腹を取ろうと旋回運動を始めた。

 横腹が取れない間合いになると、今度は互いに最後尾に喰いつかんと運動を始める。その間に近衛騎士団側から弓兵の射撃が始まり、それを相手の風魔導士が叩き落している。だが、メイズ大公国の騎兵から弓の撃ち返しは一向に来ない。


 これは彼らの誇りに関するモノなのだ。

 現在のメイズ大公国の騎兵は数こそ少ないが、遥か昔から騎兵を扱っていた伝統がある。彼らはオロール王国の前に存在した王国から、少数精鋭で充実した装備の騎兵を用いて来たのだ。実のところオロール王国が騎兵の運用をするにあたって最初に参考にしたのは、当時のメイズ大公家で運用されていた騎兵である。実戦経験豊富なオロール王国の近衛騎士団でも簡単に勝てる相手ではないし、それに誇りを持つ彼らは騎兵に槍と剣と盾以外の装備を決して持たなかった。


 歩兵の戦場の横で行われている旋回運動に終わりが見えたのは、近衛騎士団の最後尾にメイズ大公国の騎兵が食いついたところだった。最後尾で旗を掲げる近衛第九騎士団がその後完全に捕捉されると、徐々に騎兵同士の乱戦が始まる。周囲に歩兵が居ないことを利用して、完全に騎馬の足を止めた戦いだ。遠目に見ると詳細な情報は分からないが、お互いの旗の状況は良いので五分五分といったところだろうか。

 矢筒から普通の矢を1本手に取り弓に番えながら、周囲を警戒してみるが人の気配はしない。隣で行われている歩兵同士の戦いは若干王国側が押している状況に見える。


 自分は戦場の奥で発生している戦いを、遠目に見る事しかできない。

 身を隠している窪みは腰ほどの深さしかなく、馬は大人しくしてくれているが体の半分以上が見えている状況だ。よく見ている敵だったら、伏せている自分の姿まで見えるかもしれない。


 出番の為に少し体を動かしながら戦況を観察し続けると、近衛騎士団がメイズ大公国の騎兵に徐々に押され始めたのが何となく分かった。近衛第八騎士団の団旗と近衛第九騎士団の団旗が少し揺れているのだ。恐らく敵が近くにいるからだろう。

 団旗が倒されてしまうと士気に大打撃を与えてしまう。騎馬戦の訓練も旗を倒す事を勝利条件とすることが多いので、誰もがどこか敗北条件のようなものとして考えている節がある。

 さらにいくつかの近衛騎士団旗が揺れ始めたが、メイズ大公国の旗は揺れているものがほぼ無い。これは押され始めているのだろう。外からその状況が分かり始めると同時に、近衛騎士団が乱戦を解く合図である鏑矢の甲高い音が聞こえた。


「……出番だな」


 無意識に言葉を呟いた。

 既に昼を過ぎ、初冬に合わない南の暖かさが包む戦場は、1日目で佳境に入ろうとしていた。


 近衛騎士団旗が同じ方向に傾き移動を始める。それを追うようにメイズ大公国の旗も同じ方向に傾き始めた。メイズ大公国からもエメリヒ王が居る証拠であるオロール王旗が見えているはずで、100年来の仇敵である彼らもこの好機にそれを決して逃したくないだろう。


 徐々に加速を始めるお互いの騎兵達は、長い列になって戦場を離脱し始める。

 近衛騎士団の目的地は自分のいる窪みで、分かりやすいようにオロール色の旗を1本立ててある。途中まで行き場所を見失ったようになっていた近衛騎士団が、オロール色の旗を見つけたようで、こちらに正対し一直線に駆けて来る。


 今まで番えていた普通の矢を矢筒に仕舞い、マジックアローを取り出した。

 最も硬い木で作られたシャフトに、鉄の鏃の手前にあるきれいに加工された増幅石と魔石の二つの玉。存在を確かめるように二つの玉を撫でて弓に番えて出番を待つ。


 徐々に大きくなって来る近衛騎士団の姿は壮絶だ。全員が綺麗だった鎧が血と土埃に塗れ、折れた武器を抱えた者や腕を失ったものが、必死に馬を走らせている。自分の部下である近衛第一騎士団の姿を探す余裕はない。

 王の一番側にいる部隊で、いつも通り王旗と共に近衛第一騎士団旗が並んでいるのだ。彼らの無事を信じるしかない。誰も彼もがこの戦場で命を賭けているのだ……次は自分の番だろう。


 自分と向かってくる近衛騎士団兵がお互いに存在を認識できる距離まで来た。自分の姿を確認した先頭が、大きく手を振ったのが見える。


はじめまして。都津トツ 稜太郎リョウタロウと申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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