7.戦況
エメリヒ王や自分達の不安を余所に、帆船は順調にヴァストリバーの流れを遡っていた。
日を経るごとに船団は膨れ上がり、いよいよ国境へ近づいた今となっては前後左右どこを見ても大きな船がひしめいている。
「陛下、ご報告があります」
「なんだ?」
船長室を自室としていたエメリヒ王の元へ報告に向かうと、エメリヒ王が書類から目を上げた。
「既に交戦を開始したボウデン総団長より伝令が」
「申してみよ」
「では、報告申し上げます」
ボウデン総団長は近衛軍を1000で一つの軍隊とし、最北の道を通る軍団、国境中央部に2つの軍団、南端の道を使う軍団の4つに分けた。経験の薄い若手貴族を南北それぞれの軍団長として、ボウデン総団長は中央の軍の指揮を執る。
最北の軍団は共和国の遅滞戦術に苦戦しながらも進撃、共和国最西北の都市であるフィエリアを包囲した。ボウデン総団長率いる中央の2つの軍団は遅滞をものともせず順調に軍を進め、湿地帯の出口と丘陵地帯への入口が重なる交通の要衝である、ヨラルラトの包囲を開始している。
南端の軍団は共和国との戦闘こそ散発的であったが、湿地帯の進軍に大苦戦し、湿地帯の中にある街で足止めを食らっていた。
「以上であります」
「共和国の動きは?」
「ボウデン総団長の報告と間者の報告によりますと、徴兵を完了し兵力を首都に約3000を集結、西方へ進軍を開始したとの事です。議長は首都に身を置いたまま、目的地は恐らく方角で言えばヨラルラトではないかと」
「丘陵地帯を抜けて来ると?」
「ボウデン総団長の見立てでは、共和国しか知らない道があるのではないかとおっしゃっていました」
エメリヒ王は少し考える素振りを見せると、後頭部をゆっくりとした動きで掻いている。
考えがまとまったのか、一度髪をかきあげてから元の姿勢に戻った。
「うーむ。メイズ大公国の援軍が有るかもしれんな」
「……何故でしょう?」
何をどう考えたら今の情報からその結論に行きつくのか、自分には皆目見当もつかなかった。
「まず、軍と議会は指揮系統を分けているから議長が指揮を執らないのは分かる。スパーダ議長の祖先は武家であるが今は政治家だしな。だが、問題は軍の動きだ。スマルト共和国の首都であるミデュテラトから西に向かったのであろう?彼らも我々同様に軍の規模が大きく、それなりの広さの道と戦場が欲しい。そしてミデュテラト盆地に続く広い場所と道は、フィエリアから続く丘陵地帯北端と山脈の間に存在する平原だけだ。他は回り道か隘路となる」
「それが何故援軍に繋がるのでしょうか?」
「北を任せられる兵力が無ければ、進軍が最も容易な場所に軍を展開しないのはあり得ないだろう?確かにボウデン軍団の兵力が一番多いが、それを首都に差し向ける為には、ひと山もふた山も越えなければならないからかなりの時間がかかる。その兆候を察してから動いても、余裕を持って迎撃態勢を整えられよう。それはこちらも同じで主力がボウデン軍団の前に出て来るのであれば、多少の早さがあろうと迎撃の準備が整った後だ」
「なるほど……」
「共和国は防衛側で時間も食料も地理にも利を持つし、わざわざ短期決戦を挑む意味はない。よって共和国は我々が包囲し迎撃準備を整えたヨラルラトを時間を掛けて撃破する準備が有り、その間に北の平原を守る準備が出来ているという事だ」
「それで、兵力の姿が見えないのであれば北のメイズ大公国からの援軍と」
「向こうに北の軍団が1000程度である情報は伝わっているだろうし、それに見合った兵力をメイズ大公国とスマルト共和国の間に跨るグアド山脈を越えさせることは、時間を掛ければ可能であるからな」
わざわざ自分に向けて一通り丁寧に説明を終えたエメリヒ王には感謝せねばならない。エメリヒ王の考え方の一端を覗けただけでも、これからの随分な財産となるだろう。
「とはいってもな、これを伝令で伝える程度しか出来る事は無い。寧ろ、我々にとっては敵の主力軍が首都を離れたという事実が一番大きいな。数で劣った野戦は避けたい」
「では、我々は予定通りにスマルト共和国首都ミデュテラトに進軍という事ですね。先程の話はボウデン総団長にどう伝えましょう?」
自分の問いにエメリヒ王は眉を上げると手元に紙を持ってくると、ペンをもってこちらに見せながら「一筆したためるから伝令に持たせてやってくれ」と言ったまま、紙に視線を落として書き始める。
先程の内容をあっという間に書き上げると、封蝋を施して自分に預けてきた。あとはこれを伝令に渡せばいいという話であるが、如何せんここは船上で最後の停泊場所まで渡す事は出来ない。手元に目に見える責任があるのは何とも嫌なもので、是非とも早く伝令に手渡したいものだ。
我々の侵攻は今のところ順調に進んでいた。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




