5.初冬
一度家族の顔を見たかったが、自分にその時間の余裕はなかった。
急速に編成された近衛軍の仕事に各近衛騎士団長が掛かりきりになる事で、10人分の近衛騎士団長の仕事に総団長の仕事まで自分にのしかかってきたのだ。
各近衛騎士団長のメンツも何も考えず、全て自分の思う通りに進める最近の環境は、やりやすくもあるが大変であった。もはや自分が近衛騎士団総団長になった気分である。
近衛騎士団は本来攻城戦なんてやる機会はない。
消耗戦が基本の攻城戦に、育成に大金を掛けた貴族や有力者の子息を投入する訳にはいかないのだ。だが、主攻2000のうち500もの数を占める近衛騎士団が、いつ攻城戦に係わらないとも分からないので、基本的な所から教えて行かなければならなかった。
もう一つ自分の忙しさをより加速していた要因があった。
近衛騎士団は12個の騎士団から形成される。
第一から第十までの騎士団は王に直率される軍団であり、役割は王とその親族の護衛から戦場においては威力偵察や後方輸送の護衛などを担う。王の元を離れての輸送護衛などは、威力偵察などをした後の休憩も兼ねて任されることが多い。ここまでが今回のスマルト共和国侵攻にて動員される騎士団だ。
近衛第十一騎士団は王妃や王太子の護衛を担う軍団で、この軍団のみ80人態勢である。親征する場合などに留守居役を担う彼らは、本来公爵家の縁戚や長く近衛を務め前線を退いた者達などの信頼を置ける者達が所属していたが、内乱後はモーラ公の辺境伯時代からの騎士団がそのまま近衛十一騎士団として編成された。王妃がモーラ公の子女であるから当然の事でもある。
最後の近衛第十二騎士団は訓練騎士団である。彼らは本来は戦場に出ず、王城の最外周を警備する騎士団だ。自分はこの訓練騎士団の時代に冷遇されていたエメリヒ王と初陣に出ている。
第十一と十二は今回も戦場に出ないが、彼らの王城の警備計画についての承認やら指摘やらの総団長の仕事も自分の手元に回ってきているのだから、その忙しさったらない。
正直王城の警備計画などは、”分からない!勝手にやってくれ!”とでも言いたい所であるが、王城の事を知らない元モーラ公の騎士団にそういう訳にもいかない。だからといって下っ端でしか在籍した事のない自分が知っているわけでも無いので、夜遅くに燭台を手に持ち王城の書庫で昔の資料や、人数配置まで研究していた。
目の回る様な忙しさから解放される時間が無いまま季節は流れて行く。
中秋から晩秋…そして初冬へ。
戦争が始まる初冬だ。
冬の始まりを知らせる弱い西風が日を追うごとに強さを増していく。真冬に入るまで続くこの風がある内に、我々オロール王国はスマルト共和国へと侵攻を始めなければならない。
「よい風が吹き始めたな……いよいよだ」
エメリヒ王は既に疲れ果てている自分とは反対に、ギラギラとした生命力のある表情をしていた。
近衛軍の徴兵と編成は既に終わり、各地から集めた船が各地のヴァストリバー河畔に係留されている。この近くに2000の近衛軍は細かく分かれて布陣していて、助攻となる4000の軍はボウデン総団長の指揮下でスマルト共和国国境近くまで進軍していた。
勿論スマルト共和国も愚かではないので、近衛軍が国境近くに展開するまでには徴兵を済ませ、その展開を行おうとしているという情報も入って来ている。最早スマルト共和国も衝突を避けられないという事は分かっている筈だ。彼らがオロール王国の仇敵であるメイズ大公国と通じ始めた時点で、こうなる未来は見えていたのだから。
「リデル、各地の諸侯からは何かあるか?」
「今日までに特段の報告はありません。帝国に対する備えはモーラ公とカーマイン侯、ヴィアネッロ侯が既に準備しております。ムタルド教国に対してもカタラーニ侯が居城を移動しました。メイズ大公国につきましては、バーガンディー東方公家がそのまま受け持つと。メイズ大公国以外の各地は動きなく、今回の我々の動きは静観するかと」
メイズ大公国がすぐにスマルト共和国に援軍を送る事は難しい。大公国が籠っている山は深く険しく外の世界を厳しく拒絶し、内からも同様に動くのが難しい土地だ。特に南北の山は高く大軍の通行は東西を利用するしかなかった。よってメイズ大公国が出来るのは数百名単位の援軍をスマルト共和国領内に送るか、東方公領に攻め入る事で後方地域を脅かす事のみだった。
「予想通りだな…ボウデンに進撃を命令する。伝令を呼べ」
「承知しました」
「メイズ大公国が大きな行動を起こす前に決着をつける。これからは時間との勝負だ」
朝のふたつ目の鐘と同時に、伝令を持った早馬が国境地帯にいるボウデン総団長の元へと走る。
ついにエメリヒ王はスマルト共和国に対して、侵攻を開始した。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




