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2.古馴染


「よう、久しぶりだな!!侯爵様よ!」

「カール”男爵”、お前はその年になっても声のデカさは変わらんな!」


 ニヤリと笑う熊のような男、おおよそ男爵と言われても信じられない、山賊のような男であるカール。彼ははもうちょっと中年らしくなって良いと思うのだが、未だにその風格が若さを出していた。


「息子は元気か?」

「おうよ、立派な跡継ぎになりそうだ」

「お前に似てるから、山賊に間違われないように注意しろと伝えとけ」

「余計な世話を!」

「ハハッ、お前の”愛弟子”のライアンは元気か?」

「”押しかけ”弟子のライアンは、すっかり城代が板に着いたよ。これから家宰としてうちの家を支えるとさ」

「そうか、そうか!」


 自分の執務室の中でカールとの雑談を暫くしていると、部屋にサルキの先触れが来る。

 そうして大した間もなくサルキが到着して、どかりとカールの横に座った。まるで野生の熊と狼が並んでいるようだ。いや、サルキは獣人であるからそれもそうなのだが…


「リデル候、壮健そうでなによりですな」

「サルキこそ、60も越えるのに変わらんな」

「獣人は見た目にあまり出ないですから」

「貴族も板についている」


 サルキがもう一度立ち上がり、恭しく自分に礼をしてきたところで、部屋に笑いが満ち溢れる。


「皆は元気か?」

「カンブリーもセッターもテリアも元気ですよ。それぞれの役職で頑張ってる」

「何よりだな」

「皆、家族の時間が取れて喜んでいます」


 暫く談笑をした後、最後に到着したのはエドガーであった。


「おぉ、皆さまお揃いで!遅れましたかな?」

「いや、こいつらが早いんだよ。集合は日暮れだと言っているのに、昼前に来てるからな」

「この時間が待ち遠しいのは私も一緒ですよ」

「皆は元気か?」

「アントンとソルディは子供の世話で死にかけてますな」

「そうか、そうか…取り敢えず元気そうだな」

「ヨスは結局近衛から引き抜いたんです?」

「あぁ、今は領内の地図作りに尽力してもらってる」


 馴染みの者達は、近衛を去る時について来てもらった。旧帝国領として長い間治められてきたこの地を統治するために、馴染みがあり実力を知っている者達の助けが必要だと思ったからだ。これはエメリヒ王も渋々ながら承諾してくれた。


「カーマイン公はご健在なんでしょう?」


 我々はカーマイン辺境伯領からの付き合いで、当然の如く元々の主人の話が出て来る。


「うむ…来年に入婿の儀を行う際、こちらに来てくれるそうだ。そこで会えるだろう」

「含みがありそうですな」

「いや、カーマイン公も代替わりしたからな、もう丸くなっていらっしゃる」

「カーマイン公は、王国の辺境を守り続けましたから…王国への貢献を考えたならば、もうそろそろゆっくりしても良い頃合いです」

「あぁ、公が生きている内に完全な平和の訪れたベルディグリ大陸を見せたいものだな」


 カーマイン公爵家を継いで代替わりした長男のベンノ・カーマインであるが、あまり評判が宜しくない…決して無能という訳ではないのだが、公爵家の男、王国を支える公爵という爵位につくには力量の不足を否めないのだ。平凡、凡庸という評判である。父親が忠義に篤い傑物である為に比較されているのも大きいだろう。一方我がホワイト家に入り婿するフェリックスは、公爵家の継承順位は下から数えた方が早いが有能という評判だ。

 果たしてこれが、カーマイン家の為になるのかは分からないが、平和な時代に入ろうとしているベルディグリ大陸において、王家に目を付けられずに生き残るためには、多少侮られるくらいが脅威とみなされないかもしれない。東方大公と現東方公のラルス・バーガンディーのように、余りにその影響力と能力を警戒されると冷遇に繋がる。


 友人とその子孫がこれからの時代を平和に生きてくれるだけで良いと思えるようになったのは、年老いたからだろうか?それとも元々の出世欲のなさからだろうか。

 自分達の前にある少し低いテーブルに夕食が出て来て、それを皆で囲みながら食べる事が何よりもうれしい。この時間は我々が森の中、戦場の中で囲んだ小さい焚火と、血抜きして捌いたばかりの動物を食べていた頃と変わらない。


「色彩の神々の御加護があらんことを」

「おいおい、あのカールが信心深いぞ」

「リデル候、申し訳ない。カールがおかしなことを言ったせいで、婚姻の儀での天気が悪くなるやも」

「おい!カール!今すぐ撤回しとけ!!」

「本心だわ!!撤回しないぞ!!また明日からの仕事でな」

「おうよ」「うむ」「あぁ、また明日」


 解散の挨拶も下らない言葉を交わし続ける。そこに戦場に居た時のような、明るい別れの言葉の中に、明日の身も分からぬ、今生の別れかもしれないという深刻さはひとつもない。ただ、また明日会えるという明るい希望の籠った別れだ。


 静かになった自分の執務室で、ゆっくりと腰を落ち着けて夜の星空を見上げる。色とりどりに輝く星々に願わずにはいられなかった。


(あぁ、この大陸…オロール王国、全ての住人と友人達に色彩の神々の御加護があらんことを……)


はじめまして。都津(トツ) 稜太郎(リョウタロウ)と申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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