3.結末
(神は安息がお嫌いか……?)
知らせは突然だった。
7日間に及ぶ旧帝国領北部諸侯の会議と宴は無事に過ぎる。我々はその宴の雰囲気のままに、ホワイト家の誇る二人の子供の婚礼の儀へと移行していた。
最初に行われたのは、エメリヒ王の出席が必要ない、フェリックス・カーマインの入婿の儀からだった。我が領に遥々遠路を来たカーマイン前公との再会に、それに続く一人娘とその娘から更に7つほど年下のフェリックス…まだ幼さを残している。
入婿の儀が終わると、今度は”息子”フェリックス・ホワイトとクレア・ホワイトに共同の領地を与えるという宣言を行い、その統治を公の下に認めた。本来、土地の与奪は国王しか行えないものだが、エメリヒ王が出席できない代わりに、老体となったカーマイン前公が孫に顔をほころばせながら宣言した。
この入婿の祝宴は更に20日程続く……
ついにクレア・フェリックス夫妻が領地へと出発したのを見届けたのは、大陸北西の初夏を感じさせるカラッとした陽気の中であった。
続いて行われるのは、自分の自慢の息子であるラフナ―とエメリヒ王の娘の一人であるマリエレの婚姻である。この時から少し異変の空気を感じ取ることが出来た。
本来オロール王国をはじめとする真実の色教徒である貴族子女の結婚は、その両親と共に夫となる者の領地へ向かい。婚礼の儀が始まるのである。ところがマリエレは、お供回りの者だけを引き連れて来た。
王妃は先日体調を崩したので致し方ない部分もあるが、エメリヒ王もついて来ないのは伝統に反していると言ってもいい。人によっては失礼に感じる者もいるだろう。付き合いが長い自分でさえもあまり良い気はしない。
「ここはもうすぐ君の故郷になるのだ。気を楽に過ごしてくれ」
「は、はい!ありがとうございます」
暫く待つことになるマリエレにはなるべく優しい言葉を掛ける。マリエレは成人であるが若く、まだ幼さも残していて、今回の事が彼女の負い目になって欲しくないという配慮だった。
「して、王陛下はどうされたのでしょうか?」
マリエレに用意した部屋から離れ、マリエレに付いて来た侍女長に問う。
「それが、東方公が帝国の残党征伐の帰途で王都に寄って行かれると…」
「東方公が要求されたのか?」
「我々も詳しい所は…ですが、ここ5年近くに渡って兵を出し続けた東方公を労わないのは、余りに薄情であるとの声があったようで」
「……ふむ。確かにそれはそうだ」
「…直ぐにこちらに来られる事でしょう」
まぁ、良い…仕方がない。東方公爵家を冷遇していると言えど、ここ暫くの間働き続けた東方公を労わないのは違う。
ここで自分が騒ぎ立てても意味は無い上に、遠く離れた土地にあってエメリヒ王を批判するような事はしたくない。そう自分を納得させ、エメリヒ王の到着を待つことにした。幸い元々婚姻の儀は20日程先の予定だ。その間旧交を温める事にしよう。
そうして3日後に婚礼の儀が迫り、各地の諸侯の名代が到着した頃…もうそろそろエメリヒ王の先触れが現れても良いような日になった。
王都では、徐々に本格的に夏の暑さが感じられるはずの時期、このホワイト領では短い夏が目前に迫った昼間だった。執務室で日々の仕事をこなしている時に、突然騎士の一人が部屋に駆け込んで来た。
「侯爵閣下!!」
書類を見続けてぼやけた視界を瞬きで戻しながら、その騎士に視線を向ける。彼の顔面は蒼白であった。嫌な予感がする…
「いったいどうした?」
「それが、それが」
「落ち着け」
「ホワイト城の城門に血だらけの近衛騎士が…!」
「…なんだと?どういうことだ?」
頭の中に様々な思考が駆け巡る…エメリヒ王がこちらに向かう途中に襲撃されたか!?帝国の残党でもどこかに隠れていたのか!?近衛騎士のみならず選抜された常備軍合わせて1000の兵士も倒せるほどの数を…か!?
「分かりません!ウラシヌ総団長の使いで、とにかく侯爵閣下にお目通りを!!と」
「分かった!今すぐにこの場に連れてこい!それに全ての諸侯もこの部屋に!」
自分の執務室には自分とルーシーに跡継ぎとなるラフナ―、カールやエドガー、サルキに加えて、諸侯の名代も集まった。カーマイン前公もこの場にいる。各々が中央に跪く応急手当を終えたばかりの近衛騎士に視線を注いでいた。
「こ、近衛騎士団総団長ウラシヌの使いで……参りまし…た」
「大丈夫だ、ゆっくり話せ」
「はい…」
言葉の節々で傷の痛みからか顔を顰める近衛兵を、はやる気持ちを抑えて労う。
「王陛下が…東方公の弑逆により倒れました!」
「……」
部屋に静寂が訪れる…驚きで目を丸くする者、頭を抱える者、自分のように天を仰ぐ者。
誰も最初に否定する言葉を出さないのは、目の前に居るのが正真正銘の近衛騎士団の装備を着た兵士が、血だらけになっているからだろう。
「まことか?誤報ではないのか?」
自分の言葉に近衛騎士がかぶりを振る。
「私もこの目で…」
「お前の装備が近衛騎士団だという事は分かる…私も居たからな。だが、その口から出た言葉は簡単には受け取ることが出来ない。説明せよ」
近衛騎士は一つ一つ思い出すように、ゆっくりと語りだした。
東方公が帝国残党征伐の帰途で王都に寄り、エメリヒ王は短い労いと戦勝の宴を開いたそうだ。その宴は無事に終了したのだが、帰郷する前に東方公が狩猟に誘った。
「護衛は?」
「それは勿論!近衛騎士団が、それも5つの騎士団が」
250名の護衛に囲まれたエメリヒ王と僅か50名の騎士を連れた東方公…誰もそこまで警戒をしなかった。狩猟をする為に王都から北に1日程いった場所にある森へ一行は到着すると、2日に渡って狩猟を楽しんだそうだ。
「狩猟は上手く行き、森から出て解散という段階になって東方公が足を止めたのです」
「足を止めた?」
「はい、森の中で……次の瞬間には伏兵があらゆるところから襲ってきました」
「それで…?」
「我々近衛はエメリヒ王を逃すため敵中突破を図ったのですが…途中でエメリヒ王が落馬、そのまま伏兵に…う、討ち取られました」
頭の中に様々な質問、言葉が浮かんでは消えていく。知りたい事が多すぎる…が、自分の口から出てくる言葉は、「何故、貴様は死ななかったのだ?近衛であろう?王陛下を見捨てて逃げたか?ここで死ぬか?」だった。ここまで生き残って報告に来た彼の胆力は褒められるが、それは近衛の役割でない。
「全てをお伝えした後であれば、その咎も受け入れます」
「他に何がある?」
「我々は王陛下の首が落ちるのを目撃し、取り返そうとしましたが失敗…王都オレンジ、王城にある王太子殿下の保護に動きました」
「…ふむ、して?」
「王城は既に元東方大公配下の諸侯により陥落、オロール王家全員の亡骸は城門前に晒されておりました……」
「元東方大公配下と?」
「はい、パーシアン候やマロカン侯の軍です」
全てが終わった後だ。自分達には出来る事が何も無い……
気が付いた時には自分の座っていた椅子を、窓の外へと放り出していた。そうでもしなければ怒りをぶつける先が無かったのだ。
自分が近衛騎士団の総団長のままであれば、違った結果になっただろうか?謀反の気配を感じ取ることが出来ただろうか?森が得意で猟師の息子である自分がエメリヒ王の御側にいたなら、生き残れたかも知れない。様々な後悔が頭の中を周回し続けた。
戦い続けたベルディグリ大陸に住む人々に許された平和はたった10年も無い。
「色彩の神々は安息を愛さずか…?」
静かに顔を上げると、ルーシーにラフナ―、カール、エドガーにサルキ、カーマイン前公の顔が見える。一様に不安を隠さないその表情であった。
自分が”するべきこと””やるべきこと”は何か?
ここにいる、私の手の届く範囲の大切な者達を守り抜くこと……自分が生きている限り失わないようにすることであろう。
”騎士団のアーチャー~大陸戦争編~” 完
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最後までご覧いただきありがとうございました!!
これにて【騎士団のアーチャー~大陸戦争編~】は完結し、【騎士団のアーチャー】シリーズも完結となります。
全ての方に格別の感謝を申し上げます。
ここまで約2年間に渡って”騎士団のアーチャー”を書いてきました。初めて描いた作品を完結させられたことを嬉しく思うと同時に、投げ出さなかった自分を褒めておきます。出来ればカクヨムの方に加筆修正版を上げたいのですが、暫く無理そうです……すいません!
頭の中に浮かんでいた設定や、状況を文章として書き起こすのは難しいですね…文筆業の方は本当に凄い。
この世界に沢山ある作品の中で、私の作品に時間を使って下さった全ての方に感謝を申し上げて、挨拶とさせて頂きます。
この作品の他にも短編・長編小説を上げていますので、是非ともご覧ください。
恐らく次の長編小説は、年明け?位?から連載するかと思います!多分!!
都津 稜太郎
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




