可哀想と可愛いを一緒にしてはいけない
「さて、これから本題に戻るが……」
そう言ってホゾマは錦織の方を見る。
「分かってるわ。マナスライムの件よね」
錦織が頷く。
「頼めるか?」
「昨日の今日だからね、まだ準備が整ってないわ。最下層まで行って自分達で運び出すっていうなら案内できるけど」
「とりあえず最低限のサンプルが確保が出来ればいい。気は進まんがな」
ホゾマの回答に錦織が頷く。
「分かったわ。それじゃあ、みんなついて来て」
ホゾマと錦織は互いに頷くと歩き出す。一行は顔を見合わせると、それを追いかけた。
研究所の中を歩き始めてから程なくして、錦織はチコの質問攻めにあっていた。見る者全てが好奇心を刺激してくる空間で、チコの欲求は留まることを知らず口からあふれ出続けていた。
「うわー!?あれは何や!?ニッシー!あれは何や!?あと、ニッシーのボディはどういう原理で……!」
「うふふ……レディのボディの秘密は無暗に暴いちゃダ・メ」
錦織はそんな大量の質問をある時は受け、ある時は適当にいなしていた。
「うわー、チコちゃんすごいことになっちゃってるねぇ」
そんなチコの様子を見てティキは感心する。
「貴方にもあれくらい好奇心を持って勉学にも励んでほしいものだけども」
「うぐっ!?」
予期せぬところからエミリアに釘を刺されて、ティキは思わず呻く。
「言われてしまったな」
そんな様子のティキを見てアネッサが苦笑を浮かべる。
「自分の父親にあこがれているというのなら、剣だけでなく学問を修めるのも必要だろうな。バルト―将軍は軍学や魔法学にも通じていた。それこそ魔族ですら一目置くほどにな」
さらにアイザインが追い打ちをかける。
「ぐうぅぅぅ」
まさかのアイザインからの連撃に、ティキは苦悶の表情を浮かべ、そしてすがるような目でユウを見る。そんな視線を受けてユウは苦笑を浮かべる。
「姉どころかこんなすごい人たちにまで気をかけてもらってアドバイスもらえて結構じゃないか。しっかりやるこった」
「そんなぁ、ユウ兄ちゃんまで……」
がっくりと肩を落とすティキを見てユウは鼻を鳴らすと、改めて周囲を見回す。
「しかし、こんなところにスライムなんて本当にいるのか?」
ホゾマ達の後ろを歩きながらユウは正直な感想を口にし、周囲を見回す。整然とし、厳重に区画整備され、その中をゴーレムが巡回して点検している研究所の中は、魔物などの遺物が入り込む余地が無いように思える。
「まあ……そう思うだろうな」
ホゾマがユウの問いに答えるが、どことなく歯切れが悪い。
「そもそも、なんか変な液体が入った容器があちこち並んでるが……一体なんなんだ?」
アイザインも周囲を見回しながら疑問を口にする。その瞬間、彼の言葉にチコも反応する。
「それや!さっきからニッシーに聞いてもはぐらかされて全然答えてくれへん!おっちゃん、何か知ってるやろ!」
チコの言葉にホゾマはため息を漏らす。
「知らん方が幸せ……かもしれん話だぞ」
(そうなんです?)
ユウはルティシアに尋ねる。
(ユウさんは例外かもしれませんね。でも、この場にいるメンバーは概ねショックを受ける可能性が高い内容です)
(……マジか)
ユウが驚いていると、チコが吼える。
「そんなこと言うても、どうせあの全裸に『全部説明しておけ』とかおっちゃんどうせ言われてるんやろ!聞いて後悔するかどうかを決めるのはうち等自身や!おっちゃんはさっさと洗いざらい吐けい!」
(たしかに、あの全裸なら言ってそうだなぁ……)
そんなことをユウが考えている傍らで、チコの言葉にホゾマが盛大にため息を漏らす。
「そうなんだよなぁ……」
(言われてたんだ……)
その様子を見た一行はホゾマに同情的な視線を送る。
(……可愛そうに)
その視線にいたたまれなくなったのか、ホゾマは軽く咳ばらいをする。
「……まあいい。後でこんなこと知りたくなかったとか文句は言わないでくれよ」
彼の前置きにユウ達は頷く。
「まず、あの容器に元々入っていたのはエルフの幼体だ」
「は?」
ホゾマの説明の出だし早々、言っていることの意味が理解出来なかったアネッサ達が疑問の声を上げる。
「エルフの幼体……?それがあの容れ物に?何のために?」
そんな彼女たちの反応を見て、ホゾマはため息を漏らす。
「我々エルフは元はあれを使って”造られた”存在なのだよ。それこそ工房で魔道具を作るようにな」
「!?」
淡々としたホゾマの説明に、アネッサ達の表情が驚愕に固まる。
(おおう、女神様が言ってたのこれっすか。これはさしものリーシェルトさんも驚いてますね……)
ユウはルティシアにそう言いながらまじまじとリーシェルトの顔を見る。普段の落ち着いた彼女からは想像できないレベルで、その目が見開かれている。そんな彼女を横目で見ながらアネッサが恐る恐る尋ねる。
「じゃあ、我々の国に伝わる『エルフが生命の大樹から生まれた』という伝説は……」
「あれは人間が勝手に言い出しただけだ。エルフのうちの誰かがホラを吹いてそれが言い伝わったのか、人間の妄想なのかは知らんがな」
ホゾマはそう言うと鼻を鳴らす。
(おおう、出だしからみんなついて行けねぇって顔してる……)
ユウは皆の反応を見て、何とも言えない気持ちになっていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
皆様の応援が執筆の励みになります。
もしよろしければブックマークや評価ポイント、感想やレビューなどお願いします。
引き続き、この作品をよろしくお願いします。




